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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第19章

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1124話 浮き足を断つ

 一方その頃。

 ギルファー王城へと続く正門では、数十人の兵達が山城へと続く長い階段を突き進んでいた。

 その先頭では、カガリが数名の手勢を先導しながら、既に抜き放った刀を携えて駆けてている。


「皆ッ!! こっちだ!! さぁ早くッ!!」

「っ……!! 待て! 急ぎ過ぎだ! 後続の本隊と離れすぎている!!」

「何を言っているッ!! 私達がこうして居る今も、シズク姉様達は王城の連中と戦っているんだッ!!」

「だからといって我々だけ突出しては意味が無い!!」

「意味ならあるッ!! 我々の役目は救出と陽動の筈! こちらに兵が集まれば集まる程、お姉様達の負担が減るッ!!」

「ふざけるなッ! 陽動にも限度があるッ!! お前は我々に、囮となってここで死ねと言うのかッ!?」

「死ぬつもりが無いのなら戦場に出てくるな! 生半可な陽動では意味が無い! お前は今、自分の命惜しさに先行したシズク姉様やテミス(あの女)の命を犠牲にしたんだぞ!」

「そんなこと言っては――ッ!! カガリッ!!」

「――っ!?」


 一際士気の高いカガリは後に続く兵達の忠告を聞く事無く進み続けていたが、遂には口論となって、足を止めた兵達と向き合う形で怒鳴り合いを始めてしまう。

 それは無論。

 一番前で先陣を切っていたカガリが、敵陣へと無防備な背を晒すのと同義で。

 怒りのままに声を荒げるカガリの致命的な隙を、迎撃の為に出撃してきた近衛兵他見逃す訳も無く。

 山城へと向かう長い階段の上下。その高低差という名の地の利を生かし、武器を振り上げた近衛兵が飛び掛かって来たのにカガリの仲間が気付いた時には、カガリの身体は既に敵の必殺の間合いへと捉えられてしまっていた。


「くっ……!? いつの間にッ!?」

「退がれ馬鹿ッ!! くそっ……!!」


 奇襲は受けて然るべき状況。加えて、カガリが既に抜刀していた事が、さらに事態を悪化させた。

 カガリは背後から迫る白刃を受け止めるべく、その場で体を捻るようにして回転させ、そのまま下段から掬い上げるようにして応戦したのだ。

 幸いにも、カガリへと襲い掛かった近衛兵の武器は刀で。カガリは斬撃の威力に加えて全体重の乗った近衛兵の一撃と、刃を打ち合わせる事には成功する。

 しかし、位置的な劣勢と体勢の悪さから受け止め切る事はできず、斬撃の威力に圧されて膝を付いてしまった。

 つまり、仲間達がカガリを庇って応戦しようにも、敵である近衛兵との間には敵の刃を受け堪えるカガリが挟まる事になり、どうあがいた所で一手遅れてしまうのだ。

 更には、強襲を仕掛けてきた近衛兵の後ろからはさらに三人。先陣を切った近衛兵に続くように、槍や刀を手にした近衛兵が猛々しい声を上げている。


「まずは……一人ッ!!」

「クゥッ……!! カガリッ……!!」

「ッ……!! こんなッ……所でェッ……!!!」


 急襲を受けた兵達も即座に応じて抜刀はしたものの、動きの止まったカガリを避けて左右へと展開した所で後続の近衛兵に捕まり、各々応戦を余儀なくされた。

 その間にも、刀を受けたカガリはギリギリと押し込まれ、近衛兵の刃はすぐその胸元まで迫っていた。

 もう間に合わない。

 そう、カガリ自身を含めたこの場の誰もが、カガリが斬られる事を確信した時。


「伏せよォッ!!」


 突如として戦場に力強い怒鳴り声が響き渡り、敵である近衛兵を含めた全員がその雷鳴が如き怒声に従って身を縮める。

 刹那。

 僅かな静寂の後。ゴゥッ……!! と大気を引き裂いて大太刀が振るわれ、カガリたちが応戦していた近衛兵達を一刀の下に打ち倒した。


「オヴィム殿ッ……!!」

「……ここは既に戦場。油断召されるな。主らもだ。抗弁するのは構わぬが場所を弁えぬかッ!!」

「助かりました……感謝します」

「ですが……ッ!!」


 猛然と振るった一撃と共にカガリたちを飛び越え、オヴィムは重厚な音と共に着地をすると、半身で太刀を構えたまま眼前の一同を叱責する。

 しかし、実際に寸前の所で救われたカガリは素直に頭を下げたが、彼女に随伴した兵達は色めき立ったままさらに抗弁を口にする。


「正規の隊長であるシズク隊長やオヴィム殿の命令ならばまだしも、カガリの無謀な指揮にまで従えと言うのですかッ!?」

「実際に私達は突出し過ぎていた!! 当然の忠言です!!」

「…………」


 そう烈火の如く口々に告げる兵達を前に、オヴィムは言葉を返す事無く眉根を潜めて小さく息を吐く。

 敵陣深くまで潜り込み、引き返してきたカガリが言うのだ。彼女の言葉に間違いは無いのだろう。

 だが、カガリが指揮官として未熟なのも事実。あくまでも臨時で兵を預かっているに過ぎない自分が口を挟む事では無いのかもしれない。

 しかし、この先は厳しい戦いの待ち受ける最前線。身内に火種を抱えたまま赴くのは得策ではないだろう。


「もう良い。主らは後続のユカリ殿を待って合流せい。カガリはこのまま儂と共に来い」

「なっ……!!」

「はい」

「待って下さい!! 何故私達だけ――」

「――カガリに随伴して先行せよと命じたのは儂だ。事の正誤は兎も角、主らが命令に従わず部隊を危険に晒したのは事実。今ここで論ずる暇は無い。先の道を知るカガリと主らではどちらが役立つかなど言わずとも解ろう。以上だ。進むぞッ!! 我に続けェ!!」

「ッ……!!!」


 静かにそう判断を下したオヴィムは一向に新たな命令を告げると、猛々しい咆哮を上げて駆け出していく。

 そんな一同の傍らで、シズクに随伴していた兵達は悔し気に唇を噛みしめながら、オヴィムの後に続くカガリたちの背を見送ったのだった。

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