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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第19章

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1116話 血染めの反攻

 ――クズミは私を殺す事を避けている。

 恐らくは、私を飼いたいなんていうあのふざけた言葉は本心なのだろう。だからこそ、先程の打ち合いの最中、私の見せた決定的な隙で急所を突かなかった。

 ならば……まだ勝ちの目はあるかもしれない。

 ズキズキと痛みを発する左腕の傷を意識しながら、シズクは極めて冷静に胸の中で戦況を分析していた。

 体は熱く火照り、心も怒りで燃え上がっている。

 けれど、思考だけは氷のように冷たく冴えわたらせる……。


「怒れ……怒りを滾らせろ……けど、冷静にッ!!」


 口の中でブツブツと呟きながら、シズクは頭の中にテミスの姿を思い描く。

 完全無欠で冷酷非道。まるで人としての感情を捨て去ったかのようだ……なんてテミスさん噂は山ほど聞こえてくるけれど、私が傍で見て来たテミスさんの姿は真逆だった。

 本当は、とても優しいのにそれを隠している人。けれど、たまに見せる笑顔や嬉しそうな顔は感情に溢れている。そして、怒った時は誰よりも苛烈に燃え上がる。

 そう。怒っているのに、テミスさんはいつだって冷静なんだ。だから、感情に任せたような豪胆さと、計算し尽くされたかのように緻密な作戦を組み上げる事ができるッ!!


「ハァッ!!」

「うふっ……!」


 自らの思い描くテミスの背を追いながら、シズクは大きく刀を振りかぶった格好で、真正面からクズミへと斬りかかった。

 無論。そんな攻撃がクズミに通じるはずもなく、頭上から斬り下ろしたシズクの刃は易々と交わされて空を切る。

 そして、待っているのはクズミの反撃。

 無防備に斬りかかった後のシズクの体勢は残心もままならない程に酷く、射程の短いクズミの小刀を以てしても、切り付け放題と言える位には隙だらけだった。

 故に。


「あれだけ頑張ったんだもの……やっぱり限界よねぇ?」

「ウゥ……ッ!!」


 意地悪く頬を歪めたクズミは鋭く小刀を振るうと、今度は傷付いた左腕の肩口に、深々と小刀を突き立てた。

 この時、クズミの思考は如何に弱り果てたシズクを嬲り、辱め、屈服させるかという様々な嗜虐的な方策に支配されており、その愉悦に吊り上がった口角からは溢れかけた涎を拭う舌が微かに覗いている。

 突き立てた小刀で傷を穿(ほじく)れば、どんな鳴き声を聞かせてくれるかしら?

 それとも……このまま肩を裂き、間近に歩み寄った死に怯えて縋る彼女を眺めるのも悪くは無いわ。

 だが、次の瞬間。


「グッ……ァアッ!!!」

「ッ……!!?」


 めくるめく甘美な妄想の世界に浸るクズミの思考を切り裂いて、苦悶と気合の入り混じったシズクの咆哮が響き渡った。

 同時に下段から切り上げられた白刃を躱し、シズクに覆い被さるような格好で刃を突き立てていたクズミは、大きく跳び下がって驚愕の表情を見せる。


「あ……あああ……!! なんて……なんて事……!!」

「ハッ……ハッ……よしっ!! これなら――ッウ……!!」


 シズクの放った白刃は、見事クズミの左袖を大きく切り裂き、その中に秘されていた腕を傷付けていた。

 しかし、その代償はあまりにも大きく、新たに負った肩口の傷の痛みに耐え兼ね、シズクはガクリと膝を追ってその場に蹲る。

 この程度で倒れるなッ!!

 だが、シズクは喉の奥からこみ上げてくる血の塊を飲み下し、ギリギリと歯を食いしばって再び立ち上がった。

 そうだ。

 相手がこちらを殺そうとしないのなら、それを利用してやればいい。きっと、テミスさんならそうするはずだ。

 攻撃を誘い、この身で受け止め、隙だらけになった相手に本命の一撃を加える。

 これなら、力量の差も関係無い。敵の身を守る武器は私の身体が呑み込んでいるのだから。

 いわば捨て身の攻撃……本来なら一撃で止めを刺されて終わりだ。けれど、私の命を奪おうとしないクズミならば、この身を囮に太刀打ちできる!!

 そう確信し、シズクが次なる一撃の為に、再び刀を構えた時。


「この……こちらが加減をしていれば調子に乗って……!! もう、泣いても喚いても簡単には赦さない。衛兵ッ!! 衛兵ッ!!! 出合いなさいッ!!」


 クズミはその顔を怒りに醜く歪めながら、自らの血の滴る腕を振るって叫びを上げる。

 同時に斬りかかったシズクの大振りな一撃は、クズミの持つ小刀によって容易く阻まれ、ギャリンとひと際激しい音を立てて火花を散らした。


「一度……お前の立場というものをしっかりと教え込んであげるわッ!! せいぜい痛みに苦しみながら……羞恥に塗れながら後悔なさい!!」


 そのまま、第二撃、三撃と斬り付けるシズクの攻撃を軽々と捌くと、クズミは反撃に転ずることなく守りを固めて高々と笑い声をあげたのだった。

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