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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第19章

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1114話 甘美なる怖気

「もう……良いでしょう? 力の差は理解できたはず。あなた達は十分に戦ったわ」

「っ……!!!」

「刀を収めて? 敵わぬと知っても必死で抗い続ける……。そんなあなたは美しいわ。その稀有な輝きをこんな事で潰えさせては駄目……ね?」


 艶やかな微笑みと共に告げられた言葉は、まるで砂糖菓子のように甘い囁きだった。

 力の差は歴然。ここまで全力で攻め続けたにもかかわらず、クズミにはその殆どの斬撃をいなされている。

 だからこそ。シズクは優し気な微笑みを湛えて語り掛けてくるクズミの視線から逃れようともがくが、クズミに顎を捕まえられたシズクは、視線すらも逸らす事はできなかった。


「世界の王たるあの方に逆らったのだもの……もうヒトとして生きる事はできないかもしれない。けれど、私はそんな貴女が欲しい。私が頼めば、きっとあの方も飼う事くらいは赦してくれる……。あぁ……いじらしくてひたむきで可愛らしくて……貴女が側に居てくれたのなら、私はとても嬉しいわ」

「…………」

「ね……良いでしょう? 貴女を殺したくは無いの。だからその代わりに、ここで刀を収めても、誰もあなたを責めはしない。だから……」

「っ~~~~~!!!!!」


 いったい、彼女は()を言っているのだろう。

 甘く囁かれるクズミの言葉を耳にしながら、シズクは口を閉ざして今にもガチガチと鳴りだしそうな固く歯を食いしばり、全身を駆け巡る怖気に必死で抗っていた。

 告げられた言葉を理解できない程、疲弊している訳でも錯乱している訳でも無い。

 それでも意味が分からなかった。

 恐らくは、投降を促しているのだろう。命が惜しくば恭順せよ……と。

 けれど何故、クズミはまるで愛する者を眺めるかのように、柔らかな視線を私へ向けているのだ。

 冷たく鈍色に光る刃を片手に握り締め、圧倒的な力を見せ付けて屈服を促しながら、怒りや悪意……闘争心すら欠片も感じない目を、どうして敵に向けられるのだろう?


「……迷っているの? それとも、まだ状況が呑み込めていないのかしら? ふふ……少しお馬鹿なのも、凄く愛嬌があるわ」

「っ……!!!!!」


 ゾワゾワゾワッ……!!! と。

 重ねて告げられた言葉と、注がれ続ける視線を受けて、再びシズクの全身を貫くような怖気が駆け巡った。

 そして同時に理解する。

 クズミの目は、とても同じヒトへ向ける類のものではない……と。

 最初からクズミは、シズクの事をヒトとして認識していなかったのだ。良い所で愛玩動物。

 だからこそ、必死の猛攻たる連撃を軽々とあしらい、決してシズクの身を傷付けるような反撃を繰り出す訳でも無く、ただ待ち続けていたのだろう。

 彼女のお眼鏡にかなった一匹の野良猫が疲れ果て、敵わぬと知って腹を見せるのを。


「ッ……!! 私は……武人だッ!!!」

「あっ……!」

「たとえ敵わないとしても、誇りを捨てる事は無いッ!! 私を侮るなッ!!」

「ふぅん……」


 クズミの真意に気付いたシズクは、己が胸の内で怒りの炎を燃え上がらせると、全身を縛る怖気を焼き尽くして叫びを上げた。

 同時に、自らの顎を持ち上げて縛るクズミの手を荒々しく跳ね除け、刀を構え直して凛と吠える。

 そうだ。私は武人にして剣士だ。

 尊び敬う先人も、自らの願いと忠義を捧ぐべき相手も自分で決める。

 全ては、あの町で見た暖かで幸せな光景を、仲間達と築くためにッ!!!


「私が傅くのはお前じゃないッ!! 私が信を寄せるのはお前じゃないッ!! 私はお前を倒してみせるッ!! 猫宮の……いいや、私自身の誇りに懸けて!!」

「…………」


 裂帛の気合で怖気を完全に振り払い、シズクは刀を構えたまま数歩下がって体勢を整える。

 しかし、クズミは妖艶な微笑みを浮かべたまま言葉を返す事は無く、まるで値踏みでもするかのように、熱っぽい視線をシズクへ注ぎ続けていた。

 けれど、戦いへと意識を集中し始めたシズクがそれに気付く事は無く、眼光鋭く精神を研ぎ澄ましていく。

 思えば、テミスさんと別れたあの時から、クズミの纏う異様な雰囲気に呑まれていたのだろう。

 圧倒的な高みから見下ろすような余裕。そんな気に中てられて、ただ攻めるばかりで冷静さを欠いていた。

 猫宮の技は変幻自在。斬り込んだとていなされるのならば、それを前提に立ち回るッ!!


「お転婆なのも可愛いけれど、少しおいたが過ぎるわね。良いわ……はじめに痛みを解らせるとあまり懐いてくれなくなる嫌なのだけど……貴女ならきっと乗り越えてくれる」


 隙を見せれば即座に斬りかかる。

 そう心を定めてギラリと瞳に鋭い光を輝かせたシズクの前で、クズミはゆらりと手にした小刀を構えながら、怪し気な笑みを浮かべて囁いたのだった。

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