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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第19章

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1098話 届きし希望

「……どちら様でしょうか?」


 一瞬にして静まり返った室内に、強い警戒の色が浮かんだテミスの声が響き渡る。

 この場所でのテミスの役割(・・)は使用人。いくら王子であるヤタロウを味方につけたとはいえ、不意の来客……しかも陽もすっかりと暮れた夜とあらば、演ずる必要があるのは言うまでもない。

 しかし、扉の向こう側からの返答は無く、テミスはチラリと二人へ視線を向けた後、腰を落ち着けていた椅子からゆっくりと立ち上がって扉へと向かった。


「どちら様ですか?」


 努めて、怯えているかのように。声を僅かに振るわせ、何の力も無い使用人が、怪し気な来客に恐怖を押し殺して声を絞り出しているかのように。テミスは僅かに顔を出しかけた羞恥心を飲み下すと、自らの役に徹して扉へと再び問いかける。

 しかし、再度の問いにも返答は無く、微かに漂う気配だけが扉の外に張り付いていた。


「っ……!」

「……」


 ただの使用人(・・・・・・)が、これ以上引き延ばすのは不自然だ。テミスはそう判断すると、背後の二人へと再び目配せをする。

 すると、既に椅子から腰を浮かせていたシズクとコスケはコクリと頷きを返し、音も無く左右へと立ち位置を変えた。

 これならば、例え扉の向こうに待ち構えているのが不逞の輩だとしても、抗う術無く圧倒される事は無いはずだ。


「あの……」


 そして、テミスは使用人の役を演じたまま扉に手をかけると、様子を伺いながらゆっくりと扉を押し開いた。

 刹那。


「――ッ!!?」

「動くなッ!!」


 横合いから唐突に伸びてきた鈍色の刃がテミスの首元へと突き付けられ、張り詰めた女の鋭い声で警告が発せられる。

 同時に、無防備に扉を開けたテミスは訪問者の女に腕を絡め取られ、喉元に刃を突き付けられた状態で拘束された。


「くっ……!!」

「不味いッ!!」


 テミスの背後で控えていた二人には、テミスが扉の外へと広がる闇の中へと引きずり込まれていくかのように映ったのだろう。

 腕を引かれるままに身体を反転させられたテミスの視界では、歯を食いしばったシズクが隠し持っていた武器を構え、焦りを表情に浮かべたコスケが自分へ向けて腕を伸ばしていた。

 だが。


「フッ……安心しろ、私だ」

「えっ……?」


 捕らわれたはずのテミスは不敵な笑みを浮かべると、自らに刃を突き付けて拘束する腕を軽く叩き、視線を背後へと向けて穏やかな声で語り掛ける。

 しかも、その口調は既に使用人のそれではなく、自身に満ちた声色は普段のテミスそのもので。

 今まさに窮地に陥ったテミスを救わん……!! と全身に力を込めたシズクとコスケは、驚きに目を見開いてその場で硬直する。


「っ……!! テミッ――!?」

「――ククッ……よくもまぁこんな所まで辿り着けたな? ひとまず武器を収めて中へ入れ」


 しかし、テミスはそんな二人に構わず話を進めると、半ば引き摺り込むようにして、同じく驚きに身を凍らせていたらしい襲撃者を部屋の中へと招き入れた。


「ッ……!! カガリッ!?」

「これは……驚きました……」

「私もさ。手を取られるまでは気付かなかった。危うく反撃を入れてしまう所だった」

「姉様……!! っ……皆さん、ご無事で……何よりです」


 そして、テミスの手によって明りの中へと連れ出されると、カガリは手に携えていた短刀を収めながら、重ねて驚きを露にするシズクとコスケに震える声で言葉を返す。

 ここは門を閉ざし、隔離された王城の中なのだ。感極まるカガリの言葉の通り、この場所まで辿り着くには想像を絶するような苦労があったのだろう。

 だからこそ極限まで警戒心を高め、部屋の戸を叩いて中の者をおびき出し、問答無用で先手を取ったのだ。


「カガリ……アナタ一体どうやってここまで来たの? 道に迷わなかった? 巡回している兵士達は?」

「お姉様……落ち着いて下さい。自力でここまでやってきた……と言う事ができれば良かったのでしょうが、恥ずかしながらそうではないのです。何とか潜入を果たしたは良いものの、入り組んだ地形に迷い、準備してきた食糧も尽きてしまう始末で……」

「……? ならば、何故……」

「力尽きる寸前でした。ヤタロウ殿……? の手の者と名乗る兵士の方に助けられた次第でして。怪しくはありましたが、侵入者である私を捕らえるでもなく、しきりに味方だと言いながら、この部屋の場所を教えられたのです」

「なるほど……ヤタロウ殿が……」


 カガリの手から解放され、一人で頷きながらそう納得していたテミスの傍らでは、崩れるように床に座り込んだカガリの肩を掴んだシズクが、矢継ぎ早に質問を飛ばしていた。

 その隣で、既に平常運転へと戻ったコスケが、その顔に意味深な微笑を浮かべて呟きを漏らすと、カガリの説明に頷いている。


「ハァ……ったく、やれやれだな……」


 テミスはそんなやり取りを聞き流しながら深い溜息を吐くと、微かな疎外感と共に新たな作戦を思案し始めるのだった。

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