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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第19章

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1097話 穏やかな晩餐

 テミスが皿を置いた後、シズクが部屋へと帰還を果たしたのは、傾いていた夕陽もすっかり暮れ、温かな夕食が届いた頃だった。

 しかし、シズクは部屋に戻り、ずらりと並んだ料理たちを前にした途端に凍り付いたように動きを止め、目尻に涙を浮かべてその場に崩れ落ちてしまった。

 呆然と自失してその場から動かなくなってしまったシズクに、困惑したテミスが慌てて呼びに行ったコスケ曰く、シズクは食事を残す事は途方もない悪であると教育されて育ったらしく、そのままコスケを交えての情報共有を兼ねた夕食と相成ったのだ。


「……私の報告は以上だ。警備の兵が極端に少ないことから考えても、ヤタロウの言っていた()の件は真実だろう」

「フム……ある程度、情報の裏付けは取れたと見るべきでしょうね。欲を言えばもう少し決定的なモノが欲しいですが、現状では贅沢を言っている余裕はありません」

「良い報せか悪い報せかで言えば、後者なのだろうがな。敵が強大な力を持ているなど、願わくばヤタロウの虚言か勘違いであって欲しかった」

「ふふっ……珍しいですね。テミスさんがそんな事を言うなんて」


 尤も、どちらかというと大量に蓄積されていた料理を消化する為の食事会的な側面が強く、一応入手した情報を語ってはいるものの、場を支配する空気は和やかなままだ。

 その甲斐もあってか、正気を取り戻したシズクの機嫌も良く、テミスは如何に上手く情報を伏せるか腐心した報告も、特に不審がられる事無く受け入れられた。

 ならば、あえてこの空気を壊す事もあるまい。そう判断したテミスは、眼前の料理を口の中へと放り込むと、もごもごと頬張りながら言葉を返す。


当り前(あふぁりまへ)だ。っ……んむ……。敵が強力で良いことなど何一つ無いからな。そんじょそこらの一兵卒に後れを取る気は無いが、ヤタロウの話が全て事実ならば、私とて歯が立たない可能性もある」

「そ、それでも!! 私はテミスさんならどんな相手だって平気だと信じています!!」

「クス……勿論、アタシも信じていますよ? アナタであれば勝てる……そう信じてここまで来たのですから」

「おいおい……止してくれ。これまでだって何度も死にかけたんだ。それはお前達だって知っているだろう?」

「勿論です。ですから、今度は微力ながら私も!!」

「アタシも忘れないでくださいねぇ? 応援は任せて下さい」


 どことなく緩んだ雰囲気の中、テミスは自分が担ぎ上げられ始めている気配を感じてやんわりとそれを否定するが、張り切るシズクと茶化すコスケによって軽く流され、食卓には笑い声が満ちていた。

 そして、いつもよりもはるかに長い時間をかけて食事を平らげると、一同は慣れた様子で席を立ったテミスの淹れたお茶で一息を吐く。


「ふぅ……満腹……ですねぇ……」

「うぷ……はちきれそう……です……」

「ふむ……」


 しかし、コスケとシズクは腹を擦りながら青息吐息といった様子で、テミスはただ一人涼しい顔をして、茶を啜りながらそんな二人を眺めていた。


「しかし……驚きました。よもやテミスさんがここまで健啖家だったとは」

「本当です……私が戻った時にはもう、幾つか食べてありましたよね?」

「……何だその目は。無言で皿をこちらに寄せていたとは思えん言い草だな?」

「いえいえ、とんでもない。褒めているんですよ。心から」

「羨ましいです。その細い体の何処に入っているんですか……」

「っ……!! それよりも、お前達からの報告をまだ聞いていないが? 特にシズク。任せた階層はどうだった?」


 だが、呼吸すら苦し気な二人は余裕綽々なテミスへと視線を向けると、コスケは胡散臭い苦笑いを浮かべながら、シズクは何処か羨むようにテミスの腹を特に注視し、唇を尖らせている。

 瞬間。この話の流れは不味い……!! テミスはそう直感すると、おもむろに眉根を寄せて真面目な表情を作って話題を一転させた。

 食後の語らいとしては少々卑怯な切り返しな気もするが、シズク達の報告を知っておきたいのも事実だ。

 その内容の如何によっては、即座に行動を起こす必要がある可能性も否めない。


「はい……。テミスさんと別れた後、あの二人組の兵の後を尾けて、調理場なるものは発見しました。ですが、あの階層は想像以上に広く、全てを探索する事はできませんでした」

「そうか。だが、それも収穫だ。調理場があるという事は、我々のように囚われている者の部屋も近いかもしれん」

「そうですね。それでは――ッ!?」


 僅かに肩を落としたシズクの報告にテミスが応え、続けてコスケが口を開こうとした時だった。

 突如。コンコンッ……と。部屋の戸が短く叩かれ、コスケが言葉を止めて口を噤む。

 同時に、穏やかに弛緩した雰囲気の漂っていた室内が、一気に緊張感に包まれたのだった。

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