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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第19章

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1086話 深夜の訪問者

 夜。

 明りの落とされた部屋の中。テミスは未だ微睡む意識を現実へと引き戻しながら、衣擦れの音と共にムクリと身体を起こした。

 テミスの隣、窓際に設えられたベッドの中では、煌々と輝く月明りに照らし出されたシズクが静かに寝息を立てており、今が深夜であることを示している。


「ふむ……」


 ゴキリ、バキリ。と。

 静かに息を吐いた後、テミスはシズクへと注いでいた視線を外すと、首や腕の関節を鳴らして調子を確かめながら、静かにベッドから這い出した。

 今日で、この城へと幽閉されてから十日経つ。

 オヴィムが居るとはいえ、そろそろ白銀の館に残してきた連中も痺れを切らす頃だろう。

 奴等が何かをしでかす前に、いち早く脱出しなければ……。そう思えば思う程に焦りは募るものの、十日が過ぎた今で尚、テミス達は脱出経路どころか有益な情報一つ得る事ができていなかった。


「流石に……限界かもな」


 強いて収穫をあげるのならば、この第一層の階下にあたる中層第一層には、兵が配置されている気配がないどころか、明かりすら碌に灯っていないのに比べて、上層である第二層にはこの第一層と同じく廊下には明かりが灯され、見回りの兵がうろついていた事くらいだろう。

 はじめはテミス達も、自分達以外にこの城へと連れて来られた者……運が良ければシズクの両親が上階に居るかもしれないと意気込んだのだが……。


「流石に広すぎる……アレも見回りの兵というより雑務や御用聞きの類だしな……」


 指に力を籠め、テミスはゴリゴリと目の前に設えられた机の天板をなぞりながら、暗闇の中で独り言を零す。

 城内が広く、複雑であるのは大きな武器だ。

 こちらが声をかけなければ、兵士が部屋へと来るのは朝・昼・晩の三度に飯を運んでくる時だけだ。

 つまるところ、部屋の鍵を閉ざされて監禁されている訳では無いとはいえ、部屋から出ないようにと言い付けられているテミス達は、これらの時間にはこの部屋まで戻らなければならない。

 それは同時に、この部屋を抜け出して自由に捜索できる距離には限界があるという事になる。


「打って出るにはまだ危険過ぎる。かといってできる事は他に何も無い」


 まさに詰み(・・)に近かった。

 この部屋から往復できる距離には、もう情報はない物だと考えるべきだろう。

 だからこそ、連日の探索による疲労を癒すために、今日はこうして二人揃って休息を取っている訳なのだが。


「参ったな……まるで脱獄でもしている気分だ」


 確かかつて、こんな映画を見たことがあった気がする。

 何処に建てられ、どれ程の広さがあるかもわからない監獄の中、厳しい看守たちの目を潜り抜けて情報をかき集めて脱出する……。幸いにも、私達はここがギルファーであり、かの映画ほど監視の目が厳しくはない。

 しかし、映画の看守と違ってここの兵連中は意外にも友好的だ。体調が悪いと寝込んでみれば、わざわざ衛生兵まで呼んでくる始末。

 そのせいで、人形でも作って寝かせておけば切り抜けられないかと考えたが、あえなく断念せざるを得なくなった。


「ンッ……? おい、シズク!! シズク。起きろッ!!」

「んむ……ぅぇぁ……へみしゅ……しゃん……?」

「チィッ……!!」


 暗闇の中で一人、テミスが悶々と考えを巡らせている時だった。

 テミスは突然、ピクリと肩を跳ねさせて顔を上げる。音は聞こえない、しかし微かではあるが、この暗闇のせいか鋭敏に研ぎ澄まされた感覚が、この部屋へと近付く複数の気配を捉えたのだ。

 瞬間。テミスは即座にシズクの眠るベッドへと駆け寄って叩き起こすが、シズクは一応意識は取り戻したものの、どうやら完全に寝惚けているらしく、ふにゃふにゃと呂律の回らぬ口で聞き取れない言葉を何やら喋っている。


「しっかりと目を覚ませッ!! 何か来るぞ!! 準備しろ!!」

「へぁっ……!? っ……いたッ……わ、分りましたッ!!」


 そんなシズクの頬を、テミスはパシンパシンと軽く叩きながら、緊張感を帯びた声で言葉を重ねた。

 眠気に抗う事無く、微睡んでいる時間の素晴らしさは、テミスも十二分に知っている。

 だが、今は緊急事態だ。この十日の間、兵士たちが連れ立って歩いている事など一度も無かった。

 無論、廊下ですれ違う程度の邂逅はあったが、今も尚近付いてくる気配のように、完全に足並みをそろえていた事は無い。


「クッ……」


 遂に、こちらが何も得ぬうちにあちら側が動いたか……?

 そう唇を噛み締めながら、テミスは演技の為に机の傍らへと置いていた木製の椅子へと腰を下ろす。

 同時に、傍らのクッションがふんだんに使われた大きな椅子の真ん中に、シズクが腰を掛けた直後。


「……夜分に失礼。起きているだろうか?」


 コンコン……と戸が叩かれた後、静かな問いかけと共に、一人の男が返答を待つことなく戸を開き、部屋の中へと入ってきたのだった。

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