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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第19章

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1085話 老兵の企み

 一方その頃。

 ギルファー城下にひっそりと佇む、白銀の館のホールでは小さな騒動が起きていた。


「冗談じゃないッ!!! 姉様たちが城へ向かってからもう三日だッ!! 待機待機って……一体どれだけ待ち続けるつもりよッ!!!」

「止さぬか。テミスとシズクが居らぬ今、我々が浮足立っては組織が揺らぐ」

「そうだぞ、シズク。部外者の私がこう言うのも何だが、何も報せが届かぬ今だからこそ、冷静に……慎重に事を運ぶべきだ」

「知った事じゃないわッ!!! そんな事を言っているから、父様と母様は帰ってこなかかったんでしょうがッ!!! 私達がこうして居る今も、姉様たちは戦っているかもしれない!! 窮地に陥って助けを求めているかもしれないッ!!! 何故そんな事も解らないのッ!?」


 一同に会した各部隊の隊長にオヴィム、そしてユカリの前で、怒りに顔を歪めたカガリの叫び声が響き渡る。

 否。きっと怒りだけではないのだろう。

 仲間が……肉親が戻らないという不安、恐怖。今にも押し潰されそうな程に膨らむそれらを、必死に怒りで塗りつぶしているだけだ。

 それは、この場に居る誰もが抱いている感情。ただ、人一倍シズクを想う気持ちの強いカガリが、一足先に限界に達しただけの事。


「大層お強いテミスはどうだか知らないけれどッ!! シズク姉様はあんな化け物みたいに強くも頑丈でも無いのよ!! アンタ達だって知ってるでしょう!? ユカリ姉様はその目で見たのでしょうッ!? シズク姉様が為す術もなく切り刻まれる様をッ!!」

「っ……!!! だから助けに斬り込むのか? 我々だけで、あの王城へ? フッ……果たして辿り着けるかな? カガリ……シズクにすら勝てないお前の腕で」

「だからって何もしないよりはマシよッ!! 勝てなくたって!!! 一人でも多く敵を引き付けて……一太刀でも多く入れてから倒れてやるッ!!!」

「それが無駄だと言っているのだッ!!! お前は部下に、肩を並べる仲間に死ねというのかッ!?」

「でもッ……!!!!」


 感情のままに叫び続けるカガリを止めるべくユカリが応ずるも、次第にカガリの激情に引き込まれるようにして、怒鳴り合いの口論へともつれこんでしまう。

 ただこの場では、どちらの主張が正しいかすらもわからない。

 シズクの身を案ずるカガリと、そんなカガリの身……そして仲間達の命を案ずるユカリの口論を聞きながら、オヴィムは小さくため息を吐く。

 どちらにしても、このまま捨て置く訳にはいかないのは確かだ。

 この場に集った者達の表情も既に暗く、放置すれば最悪部隊そのものが瓦解しかねない。


「力足らずだって構わないッ!! 私がこうして安穏として居る間にシズク姉様が殺されてしまうよりずっと良いッ!!」

「言い訳があるか戯け者ッ!! 私は……!! お前の身を案じて言っているのだッ!! シズクの身を案じているお前がこの気持ちを解らんとは言わせんぞッ!!」

「だったら――」

「――そろそろ止さぬか。二人とも」


 ぶおん。と。

 顔を真っ赤に染め、互いに睨み合って叫び続けるシズクとユカリの間に、オヴィムは言葉と共に己の太刀を鞘に納めたまま割り込ませた。

 二人の主張はどちらも尤もであるが故に、互いに説き伏せる事などできるはずもなく堂々巡りを始めている。

 それに……。


「……一つだけ訂正しておくぞ。カガリよ」

「な、何よッ!?」

「お主は先程、テミスを化け物と称したが……それは間違いだ。アレは悲しい程に人間だよ。それはアレを見ていたお主ならば……少しは解るだろう?」

「っ……!!! 知らないわよ! そんな事。……でも、化け物は言葉の綾よ。撤回する」

「カガリ……?」


 オヴィムが静かにそう告げると、つい先ほどまで怒りを迸らせていたカガリは、そっぽを向いて言葉を詰まらせながらも、自らの発言を取り消した。

 眼前のそんな二人のやり取りを眺めて、ユカリはパチパチと目を瞬かせると、微かに首をかしげて妹の名を呼ぶ。

 あの人間離れしたテミスの戦いぶりを見れば、心配する必要など無いと思うのだが……。


「フフ……テミスは確かに強い。だが、強すぎるが故に脆く危うい。かけがえのない妹を護るため、ただ一人助けを求める事無く戦いを挑んだらしいお主ならば……理解できると想うのだがな」

「…………。あぁ……なるほど……」


 そんなユカリの内心を読み取ったかのように、オヴィムがユカリへ視線を向けてそう告げると、ユカリは何処か得心がいったかのように小さく頷いて黙り込んだ。

 そして、怒りと焦燥をまき散らしていた二人がその悋気を収めると、ホールには重苦しい沈黙が漂い始めるが、その重たい空気を切り裂くように、オヴィムはパシンと手を叩いて口を開く。


「だが……テミス達が王城に向かってから既に三日だ。カガリの言う通りこのまま、いつまでもただ座している訳にもいくまい。僭越ながら、ここは儂が指揮を執ろう」

「っ……!!!」

「逸るな。策も無しに攻め込むなど論外だ。考えてみるがいい、こんな時……テミスならばどうするかを」

「あの人……なら……」

「良いか。テミスとシズクと云う戦力を、そしてコスケ殿という協力者を欠いた今の我等は酷く脆い。動きはするが、各員くれぐれも慎重を期せ」


 オヴィムは、自らの言葉に表情を輝かせたカガリへ即座に一言釘をさすと、不敵な笑みを浮かべながら卓を囲んだ者達に指示を出し始めたのだった。

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