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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第19章

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1072話 反抗者達は朝焼けと共に

 翌朝。まだ日も昇り切っていない頃。

 テミス達は白銀の館のホールに設えられた作戦卓を囲んで、真剣な顔を突き合わせていた。


「よし……では、そろそろ時間だ。最終確認をする」

「っ……!」

「今回、コスケに付いて王城へと向かうのは私とシズクの二名だ」

「彼等への説明としてはアタシの補佐……嘘は吐いていないので大丈夫でしょう」

「……そして私は、狐助殿が王城へと召喚された旨を猫宮家(いえ)へと伝える」


 テミスが静かに口火を切ると、コスケとユカリの二人が、噛み締めるような表情で言葉を続けた。

 二人にとっても、最早この一件は他人事ではないのだ。

 コスケは己が身の安全と平穏を守るため、ユカリ達猫宮家にとっては王城へ出向いて以来音信不通となった当主の安否と奪取のため。

 だが……。


「これは……伝えるべきであるか……悩んだのだがな」

「……勿体ぶって何ですか? 今更。今なら何を告げられても驚かないと思いますよ?」

「あぁ。何か気になった事があるのなら、些細でも構わない。共有して欲しい」

「っ……あくまでも、推論の範囲を出ない事だ。その程度の心づもりで聞いてくれ」


 テミスが一際重たい口調で口を開くと、少々不満気に眉を吊り上げたカガリが超ハウスるように微笑み、苦笑いを浮かべたユカリが柔らかく諭す。

 そう。これは何のことはない私の悪い癖のようなものだ。

 事にあたっては常に最悪を想定し、如何なる事態が起きようとも問題がないように心構えをしておく。

 そう考えた時、必然的に導き出されてしまうノイズのような考えなのだが、今回ばかりは一笑に伏して無視する事はできなかった。


「シズクは私をギルファーへ呼び寄せるべく助けを求めた時、王が突然民を統べ、導くのをやめたからだ……と言ったな?」

「えっ……? は、はい……。今回の内乱は、王座の空位から始まったのは間違いありませんから」

「……そうだな。だからこそ。私を含めた誰もが、内乱を治める方向に目を向け、気付く事ができなかった……疑問にも思わなかった」

「…………」

「そもそもだ。ギルファーの王族は統べるべき民を放置して何をしている? 融和派と過激派が国を割っても黙し続けているのは何故だ?」


 その問いをテミスが投げかけた途端。

 作戦卓に集う誰もが大きく瞳を見開き、堪らずゴクリと生唾を飲み下した。

 今回の動乱が起こってしまった大元の原因は、この国の王族だ。

 一切合切を閉ざし、ただ(まつりごと)を投げ打っただけならばまだ、民を見棄てたという道理は通る。

 しかし、シズク達の両親やコスケへの召喚から分かる通り、ギルファーの王族たちが何かしら動いているのは間違いないのだ。

 しかもそれはどうやら、連中にとって民を捨て置く程に重要な事柄のようで。


「私は今回のコスケへの召喚が、どうにも連中の見せた尻尾に思えて仕方が無い」

「まさか……そんなっ……!?」

「っ……!!!」

「だが、否定はできない。筋道は通っている……通ってしまっている」

「……つまるところ、だ。テミスよ。お主はこう言いたいのだな? コスケ殿や猫宮の当主たちを救うだけではなく、此度の一件に乗じて、今この国の王族たちが何を企んでいるのかを探るべきだ……と」

「あぁ。何も無いならば無いで、どれを確認しておくべきだとは考えている」


 テミスの語り聞かせた推論の衝撃が覚めやらぬ中。

 それまで黙って話を聞いていたオヴィムが口を開くと、静かな声でテミスの意をまとめた。

 その言葉をテミスが肯定すると、白銀の館のホールは不気味な雰囲気を帯びた、重たい沈黙に包まれる。


「……確かに、一理あるな」

「だが、あくまでも推論だ。私がこの国の王族を探るべく動く可能性がある……とだけ理解しておいてくれればいい」

「っ……!!」


 刻一刻と残された僅かな時間だけが過ぎていく沈黙を破ったのは、ユカリの静かな声だった。

 それに続くようにテミスは小さく頷くと、釘を刺すように言葉を重ねる。

 最悪、助力が得られずとも良いのだ。動くべきであると判断したここぞという場面で、邪魔さえ入ることが無ければ。

 そんな、僅かに棘が含まれたテミスの言葉にシズクがピクリと反応を見せると、それを察したかのように即座にオヴィムが口を開いて機先を制した。


「フッ……承知した。兎も角、儂等はお主たちが留守の間、白銀の(この)館を守っておけば構わんのだろう?」

「クス……あぁ。その通りだ。何事も無ければ、夕飯までには戻るはずさ」

「っ……驚いた。こんな状況……アタシですら冗談の一つも飛ばせない程に緊張しているというのに、テミスさん……アナタという人は……」


 肩目を瞑り、同じく居残り組であるカガリを掌で示しながらオヴィムがそう告げると、テミスは不敵な笑みを浮かべ、冗談すら交えて言葉を返す。

 すると、張り詰めていた緊張感や場に立ち込めていた嫌な空気が僅かに薄らぎ、コスケが半ば感心したかのように軽い口調で呟きを漏らした。


「クク……では各自準備を整え、出発しようじゃないか」


 その一瞬の揺らぎを逃す事無く、テミスが不敵な笑みと共に席を立つと、作戦卓を囲んでいた面々はそれぞれに苦笑いや微笑みを浮かべながら動き出したのだった。

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