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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第19章

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1069話 暗夜の急報

 その日の夜。


「ウム……美味いッ!! 美味いぞシズクッ!!」

「えへへっ……喜んで貰えて良かったです。ユカリお姉様」


 この店を知る者達の波が捌けた頃。

 フラリと姿を現したユカリを含め、テミス達はカウンターを囲んで酒盛りをはじめていた。

 無論。未だ店の外へと続く扉を施錠する時間は過ぎておらず、新たな客が訪れる可能性もある。

 だが、あらかたの者達は腹を満たし終え、各々二階の仮眠部屋やそれぞれの住処へと引っ込んでいる。残る客はユカリとオヴィム……そして早めに仕事を切り上げさせたシズクとカガリだけだ。

 故に、テミスは仮にここから客が来たとしても、その対応は自分一人で十分だろうと判断したのだ。


「テミスよ。すまないが酒をもう一杯貰えるか?」

「カカッ……!! 飲み過ぎるなよ? オヴィム。私はいくら飲もうと止めてやらんからな?」

「戯け。儂がその程度の自制を出来ぬと思うてか。良いか? 思えば、我が主もそうであったが、年寄りをそうそう揶揄うものではない。いくら腕っぷしが強かろうと――」

「――あ~……もう、うるさいうるさい。たらふく出してやるから酔い潰れていろ」


 そんなテミスに、すっかり指定席となったカウンターの隅の席から、オヴィムが陽気に声をかける。

 しかし、珍しく饒舌な彼の長話をテミスはバッサリと断ち切ると、本来ならばジョッキなり徳利なりに移してから出す筈の酒を、冷やした小樽ごとオヴィムの前へと突き出してやった。


「おぉっ……!? 良いのか? いやはや有難いッ!!」

「フンッ……」


 すると、オヴィムは自らの話を無碍に扱われたどころか、客とも思えぬほどのぞんざいな扱いを受けたにも関わらず、テミスへ向けて上機嫌に礼を言った。

 どうやらオヴィムはこの酒がいたく気に入ったらしく、ここ最近では先にアルスリードを床に就かせてから、こうしてタガが外れたように酒を楽しんでいるのだ。


「フフ……女将も大変だな? テミス」

「そうでもない。アレは酒が欲しいだけだ。どうせ本当に酔ってなど居らんさ」


 早速とばかりに新たな酒を飲み始めるオヴィムを尻目に、テミスがユカリ達の元へと戻ると、微かに頬を赤らめたユカリが、クスリと笑みを浮かべて迎え入れた。

 しかし、テミスはチラリとオヴィムへ視線を向けると、肩を竦めて言葉を返してみせる。

 この程度の酒に飲まれるようでは、人間であるアルスリードを連れてこんな魔族領の奥深くまで旅などできるはずが無い。


「それよりも……ああは言ったが、まさか本当に来てくれるとは思わなかったぞ?」

「フム……」


 その揶揄うような言葉への返礼とばかりに、テミスは新たに一つ小さな樽を取り上げると、未だ酒の残るユカリのジョッキへなみなみと注ぎ入れた。

 いくら酒を飲もうと、欠片たりとも酔う事すらなくなってしまったこの身体だが、不思議と今日は気分が良い。

 テミスはそのまま自らのジョッキにも酒を注ぎ入れると、まるでユカリを挑発するかのようにニンマリと笑みを浮かべ、たっぷりと注いだ自らのジョッキを一気に呷る。


「あぁっ……!! もう! テミスさん!! またそんな無茶な飲み方して!!」

「アハハハッ!! こんなに強い酒をゴクゴクいってるよ!! やっぱおかしいんじゃないのっ!?」

「ハハ……参ったな……。何か不味かっただろうか? 私は誘いも挑発も、額面通り受け取る質なのだがッ!!」

「あああッ!? ちょっ……ユカリお姉様ッ!?」

「っ……ぷはっ……!! いいや? 構わんさ。尾けられても居ないようだしな」


 そんなテミスに続いて、ユカリはそう口上を述べた後、迷う事無くジョッキを一気に傾け、喉を鳴らしながら一気に空けてみせた。

 その傍らではカガリが酒を片手に、互いに張り合いながらも楽し気に酌み交わすテミスとユカリを見て笑い転げており、シズクは二人を止めるべく声をあげながら、はらはらとした様子で見守っている。

 人種も陣営も越えて酒を酌み交わし笑い合う。今まさに、賑やかで穏やかな日常と呼ぶべき光景が、白銀亭のホールに広がっていた。

 だが……。


「ス……スミマセンッ!!! テミスさんッ!!! テミスさんは……いらっしゃいますかァッ!!」


 バタンッ!!! と。

 出入り口の扉がけたたましい音を立てて弾けるように開くと、大きな叫び声と共に一人の男がホールの中へと転がり込んでくる。

 外套すら身に付けずに駆け込んで来たその男は雪に塗れており、荒々しく繰り返される呼吸は、彼が大急ぎでこの場へ来たことを示していた。

 しかし、テミスを何よりも驚かせたのは、必死の形相でこの場へ駈け込んで来たのが、あの万事屋の店主……狐助その人であるという事実だった。

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