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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第19章

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1066話 本物の輝き

「……コホン。今日私がここへ来たのは他でもない。猫宮家のシズクに対する処遇を伝えに来たのだ」

「っ……!!」


 周囲で沸き起こる笑いの渦が収まり、再び普段通りのざわめきが戻ってくると、ユカリはその頬に赤みを残したまま一つ咳払いをして口を開いた。

 しかし、何故かユカリの視線は当事者であるシズクではなく、正面に立つテミスへと向けられており、テミスは内心で僅かに首を傾げながらも、小さく頷いて先を促した。


「実は、一連の騒動は全てお爺様が指揮を執っていたんだ。曰く、猫宮家の存続に関わる危機が訪れており、救う為にはシズクが必要になる……と」

「ホゥ……?」

「だが、シズクの奪還……すまない、あえてこういう言い方をするが、奪還が失敗した今も、我々にさしたる変化は無いんだ」

「なるほど。耄碌した爺の妄言なのか、あるいは奴だけが何かを感じたか、もしくは知っていたか……真相は闇の中と云う訳だ」


 傍らでシズクが息を呑む気配を感じながら、ユカリはテミスへ向かって静かに語り続ける。

 つまるところ、あの狂っていたとしか思えない爺が全てを握っていたため、今猫宮家として遺された連中は、執るべき方策も、これからすべき事も解らないといった具合だろう。

 だが、それではそれで、幾らか不可解な事が出て来るのも事実である。

 その肝心な部分を語らず、言葉を濁すユカリに対して、テミスが問いを投げかけるべく口を開いた時だった。


「……待って下さい。お父様と母様はどうしたのですか?」

「っ……!!」

「センリお爺様は先代当主です。紫姉様のお話では、まるで二人が今回の一件に関知していないかのように聞こえます」

「それは……」


 意を決したように、ユカリの隣から口を挟んだシズクがテミスの機先を制して問いかけると、ユカリは酷く言い辛そうに眉を顰めた後、苦虫を噛み潰したように難しい顔を浮かべて閉口する。

 そして、ユカリは考え込むかのように数秒の沈黙を経た後。

 テミスへと向けていた視線を身体ごと動かしてシズクへ向けると、真正面から見据える形で語り始めた。


「まずは、順を追って説明させてくれ。事の如何はさておき、シズク。お前が先代当主であるセンリお爺様へ刃を向けたのは事実だ」

「……はい。その意味は十分に理解しているつもりです」

「っ……! 掟では、一族に背き、反逆を企てた者は即刻首を落とすとされている。だが、今回ばかりは事が事だ。事態を預かっていたのがセンリお爺様一人だったし、お爺様自身シズクへの度の過ぎた責めもあった」

「クク……ああも虐め抜いて嬲り殺すのを、よくぞまあ綺麗な言葉でまとめたものだ」

「卑怯な言い回しだなんて事、解っているさ」


 真剣極まる表情で、猫宮家としての立場からシズクへと語るユカリに、テミスはニンマリと意地の悪い笑みを浮かべてジョッキを傾けながら横槍を入れる。

 しかし、ユカリはテミスへチラリと視線を向けた後、重苦しい口調で一言を返しただけで、再びシズクと向き合って言葉を続ける。


「だからこそ……シズクは融和派頭目が一人、ムネヨシ殿の傘下へと収まった日を以て猫宮家を除籍。破門という形を取る事となった」

「えっ……?」

「フン……」


 テミスの入れた茶々を吹き飛ばすように、ユカリへ粛々とシズクへ向けて裁可を告げた。

 そのあまりの内容に驚くシズクの傍らで、テミスは一人クスリと頬を歪めていた。

 猪口才なやり方ではあるが考えたものだ。

 その掟とやらがどんな物かは知らないが、シズクがセンリを手にかける以前に、猫宮家とは所縁の断たれた者となってしまえば、シズクが家の掟に縛られる事は無い。

 つまるところ、ユカリ達はシズクを殺す事無く、かつ猫宮家としての面子も保つ形で問題を着地させて見せたのだ。


「また……カガリについては未だシズクを連れ戻すべしという別令は有効だと見做し、その処罰は保留と相成った」

「……良かった。ありがとうございます。ユカリお姉様」

「ム……まぁ……あくまで形式上の事だ。姉としては悔しくはあるが、元より今の状況では、シズクが家を訪ねる事はあるまい」


 シズクに対する処遇を伝え終えたユカリは、その表情をくしゃりと崩して柔らかに微笑むと、文字通り胸を撫で下ろすシズクの頭へとおずおずと手を伸ばす。

 そして、伸ばされた手が躊躇うかのように空中で一度震えた後、まるで迎え入れるかのようにシズクが頭を擦り付けると、優しく頭を撫で始めた。


「ユカリお姉様。本当にありがとうございます。そして……ごめんなさい。私、ユカリお姉様に多大なご迷惑をおかけしてしまいました」

「いや……良い。良いんだ。シズク。迷惑なんかじゃない。私がもっと早く、大切な事に気付かなくちゃいけなかったんだ」

「…………」


 互いに涙ぐみ、声を震わせながら言葉を交わすシズクとユカリを前に、テミスは肩を竦めて苦笑いを浮かべると、足音一つ立てる事無く厨房の中へと姿を消したのだった。

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