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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第19章

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1064話 予想外の来訪者

「――っ!!」


 突然の来客が戸を叩いた刹那。

 テミスは即座にホールの中に目を走らせ、寛いでいる顔ぶれを確認した。

 シズクにカガリ、そしてオヴィム……厨房には今日も手伝いでアルスリードが詰めている。

 無論、任務で出ている者はここには居ないが、同時にそれは今扉の外に居る女が、部外者である可能性が高いことを意味していた。


「チィッ……」


 一瞬。テミスの視線が自室へと繋がる内扉へと走るが、即座に無理だと判断したのか、舌打ちと共に手近にあったナイフを取り上げる。

 その傍らでは、チビチビと酒を楽しんでいたはずのオヴィムが、いつの間にかその手元に太刀を抱え、静かにその視線を入口へと向けていた。


「お~い? 誰も居ないのか? 参ったな……確かにここの筈なのだが……」


 僅かに間を置いて数回、再び戸が叩かれると、外から響く声には困惑の色が混ざり、困り果てたように愁いを帯びる。

 テミスはゴクリと生唾を飲みながらカウンターから歩み出ると、ゆっくりとした足取りで何者かの待つ扉へと向かった。

 少なくとも、敵では無いのか? 正面からノックをして訪ねてくる敵など、世界広しといえどそうは居ないだろう。

 少なくとも私なら、予想される敵の戦力が大幅に自分を下回る場合か、周囲に伏兵を配しての釣り餌(・・・)として機能させる。

 ならば、店の外へと引き摺り出されなければ、今この場に集っている戦力でも対処できるか……?


「……やはり一度出直すか? いや……しかし……」

「何者だ……? 何の用でここへ来た」

「っ……!!」


 そう判断したテミスは、各々食事の席に座ったまま身構える仲間達に目配せをした後、慎重に扉の外へと返答を返した。

 すると、扉の外で驚いて息を呑むような音がしたかと思うと、ホールの中の空気が凄まじいまでに一気に張り詰める。

 そして。


「私だ。あ~……紫だ。敵対の意志は無い。今日は伝えるべき事があって来たんだ」

「なっ……!?」

「こうして急に訪ねる形になって申し訳ない。何分、今の私達には君達に言伝を頼める伝手が無くてな……兎も角、このままでは少々目立ち過ぎる。中へと入れては貰えないだろうか?」


 恐らくは、寒風吹き荒ぶ中に立っているのだろう。

 僅かに震えを帯びた固い言葉が、その格式ばった喋り口と相まって、酷く肩肘の張った印象を帯びていた。

 突然の訪問とはいえ、要するに彼女は猫宮側から送られてきた使者という事になる。冷徹な判断を下すのであれば、日を改めて場所と時間を指定し、万全の準備を整えてから迎えるべきなのだが……。


「……テミスさん」

「解った」


 足音を殺し、テミスの隣へと歩み寄ったシズクが静かに口を開くと、テミスは皆まで言わせる事無く小さく頷いて彼女の意を汲んだ。

 シズクから聞いた話では、彼女はシズク達を護る為に、遁走したカガリに追撃を加えんとするトウヤと戦っていたそうじゃないか。

 ならば、言葉を交わす事のできる可能性に賭けて、相対する敵としてではなく、ただシズク姉として迎えても構わないだろう。


「……。待たせてすまない。ようこそ白銀亭へ。シズク。お客様をカウンターへ」

「へっ……?」


 キィッ……と。

 テミスはひらりと片手を挙げて軽く振って、ホールに集う仲間達へ臨戦態勢を解くべく指示を出した後、ゆっくりと扉を開いてシズクと共に笑顔でユカリを迎え入れた。

 しかし、よもやエプロン姿のテミスが出迎えるとは思っても居なかったのか、ユカリは驚愕したかのように目を大きく見開くと、しどろもどろになりながらシズクへ促されてカウンターの一席へと腰を落ち着ける。


「さて……」

「っ……!!!」


 シズクが対応している隙にカウンターの裏へと戻ったテミスは、視界の傍らでシズクがユカリから預かった外套を手に狼狽えているのを眺めながら、クスリと口角を吊り上げてカウンターの席に着いたユカリへと視線を向けて口を開く。

 一方でユカリも、まるで酒場かのような室内をみて露にしていた驚愕は既に鳴りを潜め、ゴクリと小さく生唾を呑んで、その身から緊張感を溢れさせていた。


「……ご注文は? もう酒は飲めるか?」

「えっ……? あっ……あぁ……今は飲むな、と止められてはいない」

「クス……壮健なようで何より。酒は各種取り揃えているし、飲み方もお好みで。無論混ぜ物などしてはいない」

「あっ……と……。で、では冷酒と……っ……失礼。そこの御仁と同じものを」


 だが、テミスはまるで世間話でもするかのように自然と語りかけると、ユカリの胸元から僅かに覗く包帯にチラリと視線を向けて注文を訊く。

 すると、ユカリは面食らったかのように言葉に詰まった後、キョロキョロと周囲へと視線を走らせ、近くで酒を傾けていたオヴィムに一礼してから注文を通した。


「かしこまりました。少々お待ちを。……シズク。彼女に付いていてやってくれ」

「はい……!」


 そしてテミスは、ユカリに注文された品を用意すべく厨房へと足を向けると、その前にユカリの外套の預かり札を手にこちらへ駆けてきたシズクに、不敵に微笑んで指示を出したのだった。

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