幕間 不安だらけの待ちぼうけ
――ああ、不安だ。
融和派の拠点にその身を寄せたアルスリードを連れ出すべく、テミスが潜入してから十数分。
近くの路地の壁に背を預けたオヴィムは、早速テミスへ任せた自らの判断を後悔していた。
確かに、この身体では彼等の拠点へと忍び込むのは不向きだ。だが、だからといって彼女の方もどうなのだろうか?
風の便りに聞こえる数々の噂や、先の戦いでの常軌を逸した無茶を鑑みるに、彼女に任せたが故に、予想を遥かに超えた騒動が起こるように思えて仕方が無い。
「ウ……ムゥゥ……ッ!!」
だが、テミスの実力が紛れも無い本物であるのも確かな訳で。
一度任せると言って見送ってしまった以上、武人としてそれを覆すのには酷く抵抗がある。それに、自分が行動を起こす事で潜入したテミスの計画に狂いが生じる可能性だってあるのだ。
そんな信頼と心配の狭間で、オヴィムはこの十数分間、葛藤を続けているのだ。
「ッ……!!! よし!! 儂も男だ。一度任せると言った以上、信じて待とうではないか」
そして、オヴィムは自らの迷いを振り切るかのように力強く頬を叩くと、自らに言い聞かせるように呟きを漏らす。
なに、奴は三十分で戻ると言ったのだ。既に時間は半分ほど過ぎている。
先程自分が焦れていただけの僅かな時間、騒動が起こらなければ良いだけの話。
オヴィムは何故か緊張感を帯びてドクドクと鼓動する心臓の音を聞きながら、祈りを込めてごくりと生唾を飲み下した。
「……。クッ……!!」
――どうか。どうか今だけで良い。騒ぎが起こってくれるな……と。
そんな、緊張感に満ちた時間がどれ程過ぎただろうか。
恐らく、現実にはそう大した時間は経ってなどいないのだろう。だが、アルスリードとテミスの無事を祈りながら待つオヴィムには、その僅かな時間も永遠かと思えるほどで。
刻一刻と流れる時間が、オヴィムの心を削り、その奥底から少しずつ、押し殺したはずの不安と焦燥が沸き上がってくる。
「まだか……まだなのか……――ッ!!?」
胸の奥底から湧き上がる感情に、オヴィムの口から言葉が漏れた瞬間だった。
ガッッッ……シャァァァァンッッ!! と。
何かが派手に砕け散る音が、塀の外に居るオヴィムであっても明確に聞き取れる程にけたたましく響き渡った。
直後。塀の付近でざわざわとどよめきが巻き起こり、警備に立っていたらしい兵が数人、バタバタと何処かへ走り去っていく。
「ッ~~~~!!! 何を……やっておるかッ!!」
それを確認した瞬間、オヴィムは万感の思いを込めて言葉を吐きだすと、テミスとアルスリードを救うべく、全速力で駆け出したのだった。




