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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第18章

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1049話 けじめの一太刀

 私がこれから踏み出す道は、きっと楽なものでは無いのだろう。

 たった一つある道標は、遥か彼方に霞む背中。時には躓き、耐え難い苦しみにむせび泣く日だって来るはずだ。

 けれど。


「っ……お爺様ッ……!!」


 突如として解除された結界の中から歩み出てきたシズクに人々が驚愕の視線を向ける中、ゆっくりと歩を進めながら呟きを漏らす。

 その視線の先では、今も尚訳のわからない事ばかりを叫びながら暴れ回るセンリが居て。

 シズクはそのあまりの痛々い姿に、ゴクリと生唾を呑み込んだ。


「ヒョアッ!!? シ……シズクッ!? お主……お主までワシを責めるというのかァッ!!」

「…………」

「ワシは悪くなぞ無いッ!! 巫女たるお主が猫宮を……ワシ等を裏切らねば良かったのだッ!! 人間なぞ信ずるに値せんと何故理解出来ぬ!!」


 センリの錯乱した視線がシズクを捉えると、突如としてセンリの叫びは怒声へと変わり、恨み言が垂れ流された。

 しかし、センリから罵声を浴びせられて尚、シズクは言葉を返す事無く、ただ悲し気な視線を向けるばかりだった。


「止めよ……育ててやった恩も忘れたのか……!! 何故……何故ワシがお主に斬られねばならぬッ!! この亡霊めッ!! 死して早々に逆恨みなどして化けて出おって!! そのような身体で何ができるかァッ!!」


 何故なら、シズクへと向けられたその瞳はどろりと濁り切っており、真実など欠片も捉えてはいなかったのだ。

 彼の目にはきっと、目の前に立つシズクはセンリに嬲り抜かれたままの姿で映っており、彼を苛む幻影の一人として見えているのだろう。


「……怒ってくださって構いません。恨んでいただいて構いません」


 そんなセンリが叫びを上げる前で、シズクは決意を持って静かに口を開く。

 今のお爺様の姿は、テミスさんが出した答えの一つなのだろう。

 けれどそこにはきっと、手も足も出ないままに斬り伏せられ、気が触れてしまうかと思う程の苦痛を与えられた私の分もあるはずだ。

 だから。


「猫宮が一刀、猫宮滴。猫宮に名を連ねる者の一員として、最後の責務を果たさせていただきます……朱雀丸」


 口上を述べ、外套の隙間から手を差し出して愛刀の名を呼ぶ。

 刀呼び。おとぎ話の中にのみ残る、眉唾物の伝説の技だ。

 曰く、縁を紡いだ愛刀であれば、如何に離れた場所からでも自らの手に収める事のできる絶技なのだが、魔力に乏しい獣人族にそんな離れ業が習得できるはずも無く、今ではかつての戦士たちの偉業を讃える寓話として扱われている。

 無論。それは獣人族であるシズク自身にも言える事ではあった。だが、今は何故かまるで産まれた瞬間から呼吸の仕方を知っているかのように、この刀呼びの技が出来る気がしたのだ。


「なっ……」

「っ……!!」

「…………」

「ホゥ……?」


 そして起こった奇跡の前に、最も大きな反応を見せたのは四人だった。

 驚きに目を見開いて息を呑んだ実の姉と、何処か悔し気に歯を食いしばって拳を握り締めた実の兄。

 その一方で、そのピンと伸びた背筋を見守る義兄の口元には穏やかな笑みが浮かんでいて、傍らに佇む義姉は興味深げに喉を鳴らしていた。


「……いくよ」


 そんな、自らを見守る視線の事など露知らず、自らの愛刀をその手へと呼び寄せたシズクは、静かに呟いて白刃を抜き放った。

 瞬間。シズクの付けたあざ名を体現するかのようにその刀身から炎が迸り、外套を羽織ったシズクの身体へと炎が纏わり付いていく。

 しかし、その炎がシズクの身体を害する事は無く、暖かな熱と光を以て衣のようにその身を守っていた。


「ありがとう」


 暖かに猛る炎をその身に纏いながら、シズクは柔らかく微笑んで誰ともなしに礼を言うと、その手に携えた刀を構えてセンリへと向き直る。

 そこでは未だ、目の前で起きた奇跡など眼中にすら無いかの如く、怒りと恐怖に顔を歪めて叫ぶセンリが居て。


「センリお爺様。貴方には貴方の想いがあったのでしょう。誰がそれを否定しようと、私はその事実だけは忘れません。私はセンリお爺様の夢を、理想を切って未来へと進む。だから……お互い様です。この身に受けた痛み、苦しみ、絶望を私は赦します」

「ぁぅ……あぁ……何故……どうして……」

「っ……!! これはけじめ……私と猫宮家、そして道を違えたお爺様へ付ける私のけじめです。ですからせめて……どうかその御心だけは安らかにお眠りください」


 取り留めも無い言葉を発し続けるセンリに、シズクは粛々と言葉を重ねた後、一度だけ祈るように目を瞑って言葉を締めくくった。

 そして、揺れない固い意志と共にシズクはその目を開くと、構えた刀を鋭く振り下ろして、センリの首を一太刀の元に斬って落したのだった。

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