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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第18章

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1039話 虚飾断つ剣

「フッ……!? ヌゥッ……オォォオオオッ!!!」


 バヂィッ!! と。

 センリは突如テミスが放った斬撃を構えていた刀で受け止めると、気迫の籠った声を漏らして辛うじて弾き飛ばした。

 だが。弾き飛ばした斬撃は周囲に群がった野次馬たちのすぐ頭上を通り過ぎ、傍らに立つ建物に直撃して半壊させる。


「き……貴様ァッッッ!!! 無辜の人々の命を楯にする卑怯者め!!」

「クク……」


 ガラガラと建物の一部が瓦礫へと変わっていく音を背に、センリが刀の切っ先をテミスへと向けて怒りの声をあげた。

 しかし、テミスはその怒声に小さく喉を鳴らして笑うだけで、自らの身が危険に晒されたと認識した野次馬たちが、次第にざわざわと言葉を交わし始める。


「卑劣にして下賤!! やはりお前達のような連中がのさばる事を、座したまま見ている事などできんわッ!!」

「っ……!! そうだ」

「あいつ……俺達までッ!!!」

「いいぞ爺さん!! やっちまえッ!!」


 芝居がかった口調でセンリがそう啖呵を切ると、周囲の野次馬たちもそれに乗じて口々に叫びを上げ始めた。

 その一方。

 センリだけでは無く、人々の憎しみまでも一身に受ける事となったテミスは、振り上げた大剣を肩へと担いだまま、悠然とした態度で佇んでいる。

 そして。


「言いたい事はそれだけか? タヌキ爺」

「何ィ……? この戯けめ。今更口を開いて何を囀るかと思えば――」

「――今のが全力だと云うのならば。お前はさんざん詰っていたシズクにも劣る雑魚だ。なぁ? そこの……お前達ならば今の一撃。如何にして捌く?」

「ッ……!!」


 テミスはクスクスと不敵に笑いを零しながらセンリにそう告げると、傍らで座しているユカリとトウヤへ視線を向けて問いかけた。


「私は今、地面に突き立ったこの剣を軽く振り上げただけだ。無論、そんな状態から撃ち出せる斬撃の威力などたかが知れている。随分と偉そうな口上を垂れていたようだが、どうやら碌な腕も伴わんと見える」


 だが、テミスは目を見開いて歯を食いしばるユカリとトウヤの答えを待つ事無く言葉を続けると、開いた片手で目深に被っていた外套のフードを払いその素顔を曝す。

 同時に、その顔をニンマリと意地の悪い笑みへ変え、真正面からセンリを睨み付けて口を開いた。


「この技の名を知りたがっていたな? お前が先程、シズクに児戯だと嘲っていたのはこれだろう?」

「ヌッ……!! ッ……!!! ムゥッ……!?」

「教えてやろう。お前が今、裂帛の気合を以て、必死の形相で辛うじて弾いてみせた斬撃の名をッ!!!」

「チィィッ!!!」

「おっと」


 高らかな声でテミスが語れば語る程、センリは唸り声を上げながらギリギリと歯を食いしばっていた。

 そして、自らの技の名を宣言すべくテミスが大きく息を吸い込んだ刹那。センリは鋭い吐息と共に、目にも留まらぬ速さでテミスへと斬りかかる。

 だが、苦し紛れに放たれた斬撃は、テミスの大剣に易々と阻まれ、微かな火花を散らした。


「ククッ……あの斬撃の名は月光斬。私が全力で放てば、遥か天に浮かぶ雲すら切り裂く一撃だ。いつぞやの晩のようにな。お望みならば、今一度お前に向かって放ってやろうか? 無論。今度は全力でな」

「クッ……!!!」


 皮肉気にそう告げたテミスに、センリは刀を払って後ろへと飛び退きながら歯噛みする。

 そんなセンリへテミスは再び大剣を構えると、クスリと不敵な笑みを浮かべてみせた。

 奴は私の斬撃をも利用して、人々の対立感情を煽ろうとしたのだろう。

 つまるところ奴は先程、真正面から斬撃を切り裂く事も、被害の無い上空へと逸らす事ができたにも拘らず、わざと拮抗を演じてわざと建物を破壊してみせた。

 だが……その目論見は今、一片の逃げ道すら残さず潰えた。そのついでに、傲慢極まるプライドを打ち砕いてやったのだ。

 私に全力で月光斬を打たせれば己が身もただでは済まない、だが私の挑発に乗らなければ己の虚言が露呈する羽目になる。

 ならば、奴が取れる手段はただ一つ。


「そのような蛮行……許す訳が無かろうッッ!!!」


 一度は退いたセンリだったが、テミスが大剣を構えた途端に叫びを上げ、再び真正面から斬りかかっていく。

 そう。奴にできる事といえば、月光斬を放つ間すら無い程の超近接戦闘に持ち込む事だけだ。


「フフッ……ハハハッ!!! 何故、頑強で高尚な獣人族であるお前が、脆弱で下賤な人間の技すら受けて立つと言えんのか……あ・え・て!! 問わずにおいてやろうッ!!」

「ほざくなッ!! これ以上貴様の戯言に付き合う気は無いわァッ!!」


 怒りで顔を紅潮させたセンリが繰り出す斬撃を大剣で捌きながら、テミスはありったけの侮蔑と愉悦を込めて、高らかに嘲笑ったのだった。

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