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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第18章

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1038話 冷徹なる憤怒

「ククッ……フ……フフフ……ハハハハハハッ……」


 突如として現れた乱入者に、センリを含めた全員が固唾を呑んでその視線を、大剣が飛来した方向へと向けた。

 同時に、感情を押し殺したような、しかし酷く愉し気な笑い声が響き渡ると、恐れおののいた人垣が二つに割れ、目深に外套を被った人影が一つ、その裾をバサバサと風になびかせながら姿を現した。

 その数歩後ろには、荒い息を吐きながらも、その顔から真っ青に血の気が引いた男が一人付き従っていた。


「……不思議なものだな。あぁ、全くもって不思議だ」


 しかし、人影は周囲の事など気にも留めないかのように、ザクリ……ザクリと足元に積もる雪を踏みしめながらシズク達の元へ向けて歩を進めると、静かな声で言葉を続ける。


「状況は理解している。だからこそ、こんな有様を目の前に付きつけられれば、平静を欠くほどの怒りが沸き出て来ると思ったのだがな……」

「……何者じゃ?」

「いやはや。ヒトと云う生き物は怒りが限度を超えると、逆に冷静になるらしい。今は凄く静かな気分だよ。あぁ、まるでさざ波一つ無く凪いだ湖面のようだ」

「っ…………!!!」


 手にした刀を構え、センリが警戒の色を露に問いかけるが、人影はその存在ごと無視するかの如く歯牙にもかける事は無く、朗々と紡ぐ言葉を止める事は無かった。

 だが、数歩後ろを付き従うジュンペイだけは、まるで自らの首に抜き身の刀を突きつけられているかの如く、生きた心地がしなかった。

 何故なら。時折風に踊る外套の隙間からは、このギルファーの厳しい寒さが生温く感じる程の凍て付く殺気が漏れ出ているのだから。


「……ジュンペイ。シズクへ応急手当を」

「ッ……!!!! で……ですが、アレではもう……」


 ジュンペイの数歩先を歩み人影……テミスがボソリと小さな声で指示を出すと、ジュンペイは身震いをしながら恐る恐る口を開く。

 テミスがその名を呼んだ少女は、こうして遠くから見る限りでは既に事切れている。それ程までに彼女が受けた傷は深く、肉体は見るも無残な姿を晒していた。

 たとえ万に一つ、未だ息があったとしても残す命は僅かで。到底助かる筈も無い事は、誰の目から見ても明らかだった。

 だが。


「保たせろ」

「えぇっ……んな無茶な……」

「シズクを死なせる事は許さん。自らの命と同じと思え」

「ヒッ……!!? わかッ……やるよッ!! やるからそんな恐ろしい顔でこっち見ないでくれッ!!」


 言葉少なにテミスは指示を重ねると、それでも尚渋るジュンペイを肩越しに睨み付けた。

 瞬間。ジュンペイはビクリと身体を震わせて悲鳴を上げると、今にも泣きだしそうな声で叫びながら、まるで命乞いでもしているかのように何度も頷いてみせる。

 直後。テミスが眼光鋭く睨み付ける中、ジュンペイは脱兎の如くテミスの側から駆け出すと、必死の形相で地面へと倒れ伏すシズクの元へと駆け寄っていった。


「お……前……は……?」

「…………」

「ッ……!!!」


 そんな様子を、座したまま見守っていたユカリが問いかけ、トウヤがギシリと歯を食い縛るが、テミスは黙したまま二人の目の前を通り過ぎると、地面に突き立った己が大剣の側へと辿り着く。

 そのすぐ傍らでは、一足先に到着していたジュンペイが、鳴き声と悲鳴の中間のような奇妙な声を漏らしながら、シズクの処置を始めていた。


「……逆賊の手の者か? 礼節すら弁えん不意打ちが体を表しておる。ホレ、せめて名乗りを上げんか。無礼者」

「クク……」


 地面へと突き立った大剣の柄に手を置き足を止めたテミスを、センリが不快感を露に低い声で嗜める。

 しかし、返って来たのは喉を鳴らして嗤う声だけで。

 センリは顔を顰めて刀を構え直すと、深い溜息と共に口を開いた。


「この卑劣な戦いぶり、おおかた下賤な人間族だろう。よもや、我等が争いを見て好機と捉えたか? 愚かな……お前達は数を揃える事しか能の無いと云うのに。たった一人で出てきて何になる?」

「…………」

「フンッ……あまりの恐怖に言葉も出んか。これだから身の程知らずの馬鹿は救いようが無い。我等があの程度の、奇襲とすら呼べぬお粗末な不意打ちで討てるわけが無かろうて」


 ヒャウン。と。

 センリは言葉を返さぬテミスを前に、手にした刀で空を切りながら、嘲りを込めた笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。

 だが、その瞳の中に燻る憎しみはギラギラと相対するテミスを睨め着けていた。


「もう良い。さっさと手足でも斬って下賜してやろうかの」


 一言たりとも言葉を返さないテミスに、センリはつまらなさそうに鼻を鳴らしてそう告げると、無造作に刀を構えた。

 その刹那。


避けるなよ(・・・・・)? お仲間が死ぬぞ?」

「――ッ!!?」


 外套をはためかせながら頬を歪めたテミスが皮肉気にそう言い放つと、地面に突き立てた大剣を無理矢理振り上げる。

 すると、一瞬のうちに大剣へと収束された力が光り輝く刃と化し、一振りの斬撃となってセンリへと放たれたのだった。

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