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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第18章

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1035話 運命の綱、手繰って寄せて

 一方その頃。

 エモン通りの万事屋を訪れていたテミスは、店主である狐助の昔話に耳を傾けていた。


 曰く。かつて時折この店へと預けられていた姉妹は、所謂お家の事情を抱えていたと。

 曰く。その姉妹は見る者の心を絆す程に仲睦まじく、流浪の末にこの地へと辿り着いた狐助も、己が妹のように大層可愛がっていたと。

 曰く。万事屋を生業として長いが、今も時折懐かしんでしまう程には幸福であったと。


 つらつらと語り続ける狐助の話が巧いのもあるのだろう。

 はじめは適当な所で話を切り上げ、次へと向かう腹積もりであったテミスも、気付けばつい随分と長く聞き入ってしまっていた。

 それ程までに、時に温かく、時に不安を抱く狐助の話は面白く、一人の孤独な万事屋と姉妹を結んだ奇妙な縁には、かつてファントでマーサやアリーシャに救われたテミス自身も感じ入るものがあった。


「――それで、その時。姉の方がアタシの真似をしていらっしゃいませ……なぁんて言ったんです。しかもブカブカのアタシの予備の羽織まで羽織っちゃいましてね」

「クク……良いじゃないか。可愛らしくて」

「えぇ……。本当に。お陰様で子守りがご無沙汰になってからは、ガラでもないのに弟子なんてとっちまいました」

「縁とはわからんモノだ。ジュンペイとてよもやその姉妹が恩人だとは夢にも思うまい」

「……骨身に染みますよ。人の縁とは複雑怪奇で奇妙なものです」


 テミスが深く頷きながら語られた話に同意すると、狐助はクスリと不敵な笑みを一つ浮かべ、懐からキセルを取り出して煙を燻らせ始める。

 その途端に、時を忘れる程までに花を咲かせていた話の雰囲気は陰りを見せ、今度は僅かに湿った感傷的な空気が漂い始めた。

 しかし、キセルから大きく煙を吸い込み、紫煙を口から吐き出す狐助は何処か不安気に何度も煙を吐き出していた。


「フム……いや中々に面白い話だった。すまないな、こんなに長居をしてしまって。実に堪能させて貰ったよ」

「いえいえ。元々アタシがお誘いをさせて頂きましたので。……こうして付き合っていただけで感謝しております」

「フッ……お互い様だ。では、私はそろそろ行くと――」

「――ッ!! 少々お待ちを。アタシの昔話にお付き合いいただいたんです。お土産でも包ませていただきますよ。えぇっと……アレは何処だったかな……」

「……?」


 会話に一つの区切りがついたのを機に、テミスがそう告げた途端。

 狐助は何故か慌てたように紫煙を一気に吐き出すと、傍らにキセルを置いて店の中を探り始める。

 その様子は、この店に顔を出してから終始飄々としていた狐助にしては、過去を語る時にすら欠片ほども見せなかった珍しいもので。

 テミスは胸中に浮かんだ僅かな疑念に首を傾げると、店の中を慌ただしく漁り始めた狐助を眺めていた。

 しかし、狐助は何やらブツブツと独り言を呟きながら品を漁るばかりで、そんな狐助にテミスは苦笑いを浮かべて口を開く。


「あ~構わないさ。土産はこうして買わせて貰ったしな」

「ッ……!!!」

「ありがとう。また顔を出すよ」


 テミスは狐助にそう告げて身を翻すと、ゆっくりと戸口へ向けて歩き始める。

 つい時間を忘れて話し込んでしまったが、私が今ここに居る理由は猫宮家への牽制と偵察が目的なのだ。

 ならば、あまりのんびりとしている場合では無いだろう。

 改めて自らの仕事(・・)へと頭を切り替えたテミスの手が、狐助が止める間も無く戸口へと伸びた瞬間だった。


「テミッ……!!! テミスさんッッ!!! 助ッ……!! 助けてッ!! 下さいッ!!!」

「ッ……!!!?」

「エッ……!? わぁッ……!!」


 店の戸はテミスの手が触れる前に外側から勢い良く開き、必死な叫びと共に一人の人影が店の中へと飛び込んで来る。

 無論。体当たりが如く飛び込んできたその人影は、店を後にしようとしていたテミスと真正面から衝突し、予想外の乱入者の突進を受け止め切れなかったテミスを押し倒して止まった。


「な……何がッ!!? 誰だッ!!? どういう事だッ!? って……お前は……カガリッ!?」

「ごめんなさい! でもッ!! でもッッ!!!」

「お前……何故ここに!? 何がッ……ええい落ち着けッ!!」


 店の床へと押し倒されたテミスは、咄嗟に自らに衝突してきた人影を引き剥がすと、そこに居た見知った顔を見て驚愕の息を呑む。

 しかし、当のカガリは取り乱し切って泣き叫ぶばかりで要領を得ず、テミスはパニックに陥りそうになる自らの思考を何とか御しながら叫びを上げた。


「……どうやら、何とか間に合ったみたいですねぇ」


 そんなテミスとカガリのやり取りを眺めながら、狐助はカウンターから身を乗り出した格好のまま口角を緩めると、チラリと戸口の外で息を切らすジュンペイへ視線を向けて呟いたのだった。

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