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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第18章

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1032話 受け継ぎし技

 通じる……と。

 ドクドクと高鳴る胸の鼓動と共に、シズクは自らの心が振るい立つのを感じていた。

 いくら相手が強大な実力を持っていたとしても、いつでもそれが十全に発揮できる訳では無い。

 特に、殊更誇り高いお爺様のような人では、私のような矮小極まる雑魚相手にはその気が緩む。

 そうだ。でなければ、敵に戦う力を残したまま嬲るなんて事をするはずが無い。

 ならば、そこが突くべき隙。お爺様の見せた慢心こそが、今の私に見出せる唯一の突破口だッ!!


「ハ……ハハ……」


 そう考えながら、シズクは自らが意識して歪めていた口角の端が、ヒクヒクと震えているのを自覚した。

 元より、私はハッタリ(こういった)類の事は苦手なのだ。けれど、付け焼刃でも何でもいい。これまで教わったもの、培ったものを全てつぎ込んで、この場を切り抜けてみせるッ!!


「いきますッ!!」

「図に乗るなッ!!」


 宣言と共に、シズクは刀を構えて腰を落とすと、全力で体を前傾させて後ろへ引いた足のつま先だけで僅かに地面を蹴った。

 その結果、全力で前へと斬りかかる格好のまま、シズクの身体は微かに跳ねて前へと押し出されただけで、前へと踏み込む事は無かった。

 だがその刹那。声を荒げたセンリの刀がシズクの眼前を、鋭い音と共に通過していく。


「――っ!!!」


 その瞬間。

 シズクは腰を落とす為に畳んだ脚に全霊の力を込めて石畳を蹴り抜くと、放たれた矢のようなスピードでセンリへと肉薄する。

 こんな戦い方、少し前の私だったら卑怯だと鼻で嗤っただろう。

 けれどここは戦場。試合や決闘みたいな明確に定められた決まり(ルール)など無い。

 つまるところ、卑怯などという余裕が介在する余地は無い。仕掛けに釣られ、騙された方が馬鹿なのだ。

 刀を振り切った状態のセンリを自らの刀の射程に収めたシズクは、全力で振りかぶった刀を眼前の敵に目掛けた振り下ろした。

 一直線にブレる事無く、袈裟懸けに敵の肩口へと吸い込まれていくその斬撃はまさに、これまでシズクが培ってきた技の集大成とも言える程の出来栄えだった。


「ごぅッ……!?」

「……青い」


 だが。

 芸術的なまでに美しいシズクの剣閃がセンリを捉える事は無かった。

 寸前まで肉薄したシズクが刀を振り下ろすと同時に、センリは大きく前へと踏み込んだのだ。

 その結果。振り抜いたセンリの刀は下段の構えへと姿を変え、シズクを突き飛ばす形で躱した刃が空を切る。

 そして、シズクの懐へと潜り込んだセンリは悠然とその身体を翻すと、切り上げる形でシズクの身体に新たな傷を刻み込んだ。


「ガッ……ァ……」

「場数が違うわ。小娘め」


 ドサリ。と。

 その身へ新たに、深々と傷を刻まれたシズクは苦悶の声をあげると、尻もちをつくような格好で後ろへと倒れ込む。

 センリはそんなシズクの眼前で鼻を鳴らして、刀にべっとりと付着したシズクの血を払い落とす。

 同時に、センリは蔑むようにシズクを見下ろし、吐き捨てるように口を開く。


「お前が教わったその剣……誰が伝えたと思っておる」

「ハ……ハッ……ッ……!!」

「老いたりとはいえ、ワシはかつて猫宮が頭領を勤めた身。猫宮が刀はワシの剣に相違無いわッ!!」

「クッ……!!」


 決着はついた。そう言わんばかりに見下すセンリの前で、シズクは鋭い痛みを堪えながら短い呼吸を繰り返していた。

 言われてみればそうだ。

 私が教えられた剣はどれも猫宮の技。代々猫宮が振るい、誇り、受け継いできた無双の剣技だ。

 ならば、私が扱える程度の技を、先代の当主であったお爺様が知らない筈が無い。


「下らん足掻きをするな。それだけの傷……そう長くは保つまい。せめて最期は己が罪を認め、悔い改めながら逝け」

「フッ……ゥッ……グ……!!」


 自らを中心にじわじわと広がっていく赤い円を眺めながら、シズクはぼんやりと曇り始めた意識の片隅で、冷たく言い放たれたセンリの言葉を聞いていた。

 私の磨いてきた剣技は通じない。鋭く向けられたお爺様の眼光に最早油断は無く、私に活路なんてもう残ってはいない。

 けれど、何故だろう。


「……止せと言っている」

「…………」


 身体が勝手に、立ち上がっているのは。

 その身に受けた傷から血を流しながら、シズクは気づけばよろめきながらも再び立ち上がっていた。

 そして朦朧とした意識の中、シズクは刀を両手で握ると、その刀身へと力を籠め始める。

 そうだ。

 猫宮の技が通じなくても、私にはあの人から教えられたこの技がある。


「ッ……!!!!」


 ゆらりと構えを取ったシズクが握り締めた刀は、ゆっくりと輝きを放ちはじめた。

 だが、その輝きはじわじわと強くなってはいくものの、その速度は非常に遅く、センリが再びその身を構えて尚、有り余るほどの猶予があった。


「死に体の身で何かと思えば……」


 それを見たセンリは呆れ果てたかのように深い溜息をつくと、蔑んだ目でシズクを睨みつけたのだった。

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