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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第18章

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1031話 窮鼠の一撃

 ユカリとトウヤが超人たる領域の剣戟を繰り広げる一方。

 その傍らでは、シズクが必死の形相でセンリとの戦いを繰り広げていた。

 しかし、こちらの戦いはユカリとトウヤのような、遥かなる高みまで磨き上げた技量が、拮抗した戦いでは無かった。

 否。並外れた強者が力の及ばぬ弱者を嬲るその様は、最早戦いとすら呼べぬ程に凄惨なものへと成り果てている。


「ハァッ……!!」

「ホホッ!」

「――っ!!」


 一閃。

 既に夥しい量の傷を負い、体の至る所から血を流しているシズクが苦し紛れに刀を振るう。

 だが、センリは癇に障る笑い声と共に易々とシズクの一撃を避け、返す刀で嘲るように新たな傷をシズクへと刻む。

 そんな一方的な打ち合いが、幾度となく繰り返されているのだ。


「クッ……ぁ……ハッ……ハッ……!!」

「おぉ……痛い痛ぁい……。どうじゃ? そろそろ己が間違いが身に染みてきた頃かの?」

「ッ……!!!」


 刀の先に付いた血を懐から取り出した布で拭いながら、センリは揶揄うような口ぶりでシズクへと語りかける。

 既に幾度となく彼の刀を拭ったその布は、半分以上がシズクの血で赤く染まっており、シズクの受けた傷の数を物語っていた。

 まさに満身創痍。血を流していない箇所を探す方が難しい程の傷を負いながらも、シズクは固く歯を食いしばってセンリを睨み付ける。

 さっきからずっとそうだ。

 お爺様はその気になれば私などすぐに殺せるはず。なのにこうして、ずっと致命傷足り得ない傷を与えてくるだけ。

 傷は浅くない。出血の量から考えても、何か処置を施す必要があるだろう。どこか他人事かのようにそう分析しながら、シズクはクスリと不敵に笑みを浮かべた。

 何故だろうか。絶体絶命の窮地だというのに、力の差が故の余裕……その慢心が、絶好の隙に見えて仕方が無いのは。


「ほぉ……? まだ折れぬか。それとも、加減を間違ったて痛みすら感じなくなってしまったかの?」

「……痛いですよ」


 そんなシズクの様子を見て、センリは怪しく瞳を光らせると、口角を吊り上げて笑みを零す。

 しかし、シズクは不敵な笑みを浮かべたままセンリに言葉を返すと、再び静かに刀を構えた。

 急所は外れているとはいっても、こんなに斬られて痛くないはずが無い。たぶん以前の私だったら、とっくの昔に諦めていただろう。

 けれど、あの人だったら……。テミスさんだったらきっと、こんな時でも最後の瞬間まで諦めないはずだ。

 あの時、戦う事なんてほとんどできないはずのアリーシャさんでさえ、最後の最後まで諦めなかったんだ。

 痛いけれど。痛くて痛くてたまらないけれど。腕も足もまだ動く。

 ならば私が、これしきの傷で諦めてしまう訳にはいかないッ!!


「フッ……!!」


 心に満ちた気合と共に、シズクは血の球を周囲にまき散らしながら、センリへ向けて猛然と刀を振るった。

 空気を引き裂く甲高い音を奏でながら疾しる剣閃を前に、センリは構えすらせずに突っ立っている。

 だというのに。


「じゃが……結果は変わらん」


 気が付けばセンリの刀がシズクの斬撃を阻むように立ちはだかっており、ガギィンと甲高い音と共にシズクの放った一撃ははね返されてしまう。

 そして次の瞬間。

 センリの返す刀がシズクへと放たれ、無防備な左肩を深々と貫いた。


「――っ!!! だぁッ……!!」

「っ……!!」


 その刹那。

 気迫の籠ったシズクの声が空気を震わせる。

 あろう事か、シズクは己が身に刃を受けながら、二の太刀を放って見せたのだ。

 肩を貫かれたまま強引にその身を捻り、自らの身体に突き立ったセンリの刀に傷口を抉られながら。センリに斬撃を防がれ、宙へと弾かれたままになっていたシズクの腕に力が籠り、真っ向からセンリを斬り伏せるべく振り下ろされた。


「ぁ……が……ぁ……」

「…………」


 次の瞬間。

 肩口からぶしりと血を噴き出しながら、シズクは苦悶の声を漏らしてたららを踏んだ。

 その頃には既に、センリはシズクから数歩離れた位置へと退いており、シズクの肩へと突き立てられていた筈のセンリの刀は彼の手の内へと収まっている。

 残されたのは、虚しく空を切ったシズクの刀だけで。

 捨て身の一撃ですら躱される。頭では理解していたものの、圧倒的な実力差を突き付けられ、シズクの心が軋みをあげた時だった。


「小娘がッ……!!」


 ツゥッ……。と。

 センリの額にうっすらと一筋の赤い線が刻まれ、そこから滲み出た一粒の滴が顔を流れ落ちる。

 それは掠り傷程度の浅い一太刀ではあったが、確かにシズクがセンリへと刻んだ一撃の証で。

 一滴目に続き、二滴、三滴と滴り落ちる血に、センリは怒りに歯を食いしばり、歯の隙間から押し出すように唸り声を上げる。

 そんなセンリの眼前で、シズクは再び刀を構え直すと、ニヤリと不敵な笑みを深めたのだった。

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