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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第18章

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1016話 霧中の奔走

 シズクとカガリをムネヨシの元へと戻してから数日。

 テミスは一人、外套に身を包んでギルファーの町を練り歩いていた。

 目的は勿論、これから何かを仕掛けてくるであろう猫宮家の者達を釣り出すためだ。

 しかし、いくら人気の無い裏路地へ入り込もうと、過激派の連中が拠点としている建物の周りをうろつこうと、猫宮家の連中が接触してくるどころか、一向に動く気配すら見られなかった。


「フム……狙いは私ではない? いや……」


 当てどなく町を歩いた後、テミスは休息を兼ねて道の端へと寄ると、建物の壁に背を預けて呟きを漏らす。

 トウヤとか言うあの癪な男の口ぶりでは、狙いは少なくとも私とシズクであるはずだ。

 ならば、守りの固い融和派の拠点に居るムネヨシへとシズクを預け、こうして私が動きを見せれば、容易く罠にかかると思ったのだが……。


「尾行されている気配は無いな。今日で動きが無ければ手を変えるべきか……」


 そう独りごちると、テミスは冷えた手を顎に添え、さらに思考を加速させていく。

 連中が最も目障りなのは勿論、真っ向から対立している融和派だろう。ならば、彼等に味方する我々も排除対象足り得るはずだ。

 だが、こうも動きが見えないとなると、思考を転換する必要があるだろう。


「……我々の手足を捥ぐつもりか? いや……それにしては消極的過ぎる気もする」


 思い付いた案を口にしてみたものの、テミスは即座に首を振ってそれを否定した。

 事実。シズクとカガリを欠いたことで拠点の改築作業は滞ってはいる、加えてムネヨシとの連絡は側仕えであったシズクが抜けたが故に、彼女が居た頃に比べて遅々と滞っているのも間違いは無い。

 しかしそれでも、日々作業は進んでおり、我々の手勢を減らして事を遅らせる策にしては効果が薄い。


「ならばシズクか……? 否。シズクを狙うならば逆効果だ」


 シズクとカガリは現在、ムネヨシへとあてた書簡の甲斐もあってか、彼の秘書兼補佐のような役割をしていると聞く。

 ならば、融和派の建物の奥から出る事は稀だろうし、襲撃をかける側として考えるのならば、我々の側で方々に動き回っていた頃の方が遥かにやりやすいだろう。

 実のところ、身柄をムネヨシの元へと叩き返した後、もしかしたら怒りの収まらぬシズクが怒鳴り込んでくる可能性も考えたが、ムネヨシに説き伏せられて矛を収めたのか、彼女が姿を現す事は無かった。

 故に、シズクの安全は確保できたと考えるべきなのだが、そうするとより一層この静けさが不気味に思えてくる。


「わからん……わからん、が……」


 テミスは自身の内からジリジリとした焦りを感じながら、改めて自らの周囲の気配を探る。

 どちらにしても、敵の意図が読めないどころかその動きすら追えていない現状は危険過ぎるのだ。

 万が一、予想すらしていない方向で猫宮家が密かに事を進めていたとしたら、それは間違い無く我々にとって致命的な打撃を与える一撃となりかねない。


「フゥム……。ン……?」


 暫くの間、テミスが考え込んでいると、何を見るでもなく漂わせていた視界の端から、数名の男が近付いてきた。

 ボロボロの外套を纏った男たちは、揃いも揃ってニヤニヤとした笑みを浮かべながらテミスへと歩み寄ると、周囲を囲んで口を開く。


「お前、人間だろ? 外套を取って見せてみろ」

「だったらどうする? はいそうですかと脱いでやる義務も無い訳だが」

「ハハッ……!! 自分から吐きやがったぜコイツ。態度はクソ生意気だけどよ」

「…………」


 下卑た笑い声をあげる男たちに冷たい言葉を返しながら、テミスは素早く彼等の得物へと視線を走らせた。

 この手の下郎は、今のギルファーには掃いて捨てる程いる。

 だがもしも、猫宮の刺客がそんな連中に扮して仕掛けてきたのだとしたら?

 そう考えて身構えてみたのだが、周囲を囲う男たちの得物は一目見ただけでわかるほどのナマクラばかりだった。


「お前達。猫宮の手の者か?」

「はぁ……? 何だって? てか、なぁに勿体付けてんだよ!!」

「ハァ……」

「ガッ――!?」


 彼等はまず刺客ではないだろう。そう判断したテミスが問いを口にするも、いきり立った男は問答無用と言わんばかりにテミスへと掴みかかる。

 だが、その手がテミスへと触れる前に、鋭く突き出されたテミスの膝が男の腹へと突き刺さり、掴みかかろうとした男が痛みに悶絶して地面へと倒れ伏した。


「やれやれだ。無駄な争いを避けるべく問いかけたやったというのに……。殺しはせんが、どうなっても私は知らんぞ?」

「なんだおま――」


 同時に、静かに身を屈めたテミスが目を細めてそう告げると、一瞬遅れて仲間を一撃で打ち倒された事に気が付いた男たちの顔に驚きが浮かぶ。

 しかし、テミスを囲んだ男たちが最後まで問いを口にする事は許されず、ぶおんと鈍い音を立てて薙がれた大剣の腹に打たれて吹き飛び、冷たい地面の上へと崩れ落ちた。


「……不毛だな」


 テミスはそんな男たちに一瞥もくれる事無く呟きながら剣を収めると、深いため息と共にゆっくりとした歩調でその場から歩み去ったのだった。

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