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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第18章

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1013話 秘めたる心

 翌朝。

 テミスは自らの身体の上に覆い被さっていた掛布団を乱暴に蹴り上げると、残った敷布団の上にその身を横たえたまま薄っすらと目を開いた。

 外からは既に賑やかな話し声が聞こえてくる一方で、テミスの気分は鉛のように重たかった。

 だが、昨夜オヴィムの奴が付き合ってくれたお陰で、心は決している。

 それでも、気紛れではあるものの剣を教え、短く無い時間を共に過ごした身としては、今回の一件は酷く伝え辛いものがあった。


「……恐れるな。迷うな」


 敷布団の上に寝転がったまま、テミスは片手を宙へと翳し、噛み締めるように呟いて自分へと言い聞かせる。

 こういった類の案件は感情が深く関わるのだ。可能な限り真意を伏せ、出来るだけ迅速に事を運ぶべきだ。

 そう頭では理解していても、一向に起き上がろうという気力が沸いてこない。


警察(まえ)でもそうだったはずだ。親類縁者が関わる事件の捜査には関わる事ができない。たとえ親が殺されようとも。だから……」


 じくじくと痛む心を騙すように、テミスは建前を並べていく。

 事後の捜査ですら禁じられていたのだ。このまま何もしなければ、シズク達の前に立ちはだかる壁はそんなものでは済まない。血を分けた兄妹達や親に祖父母。最悪の場合家族をその手にかける羽目になる。

 否。それは私達にとっての最悪には足り得ない。私やオヴィムに取っての最悪は、殺し合いの場で家族と相対したシズク達が反旗を翻す事だ。

 だからこそ、一刻も早く我々の側から引き剝がし、彼女たちの手に渡る情報の一切を封じる必要がある。

 だが、シズク達にそれを語り聞かせたところで、あの頑固者が素直に首を縦に振るとは考え辛い。


「…………。お前の為だ……などとは言わんよ」


 ボソリ。と。

 テミスは唸るように呟きを漏らした後、ムクリと身体を起こして一気に寝間着を脱ぎ捨てた。

 感情を殺し、自らの逃げ道を潰して初めて一念発起する事ができた。けれど、一瞬でも動きを止めればまた逡巡してしまいそうで。

 それ故にテミスは普段の倍以上の時間をかけながらも、一瞬たりとも留まること無く身支度を済ませた。

 そうだ。耳障りの良い言い訳ならば幾らでもある。家族との殺し合いをさせるなど残酷だ。如何に覚悟を決めていようと心に傷が残る。

 事実。そういった側面があるのも確かなのだろう。

 だが結局の所は、どんな言葉で飾ろうとこの一点に帰結する。


 ――私は、シズクを信じてなどいないのだ。


 彼女の語った決意も、自分と過ごした日々も全て。シズクが自身の家族と天秤にかけた時、彼女はあちら側を選択し得る……と。

 そう判断したからこそ、私はシズクに三下り半を突き付ける。

 実直なシズクの事だきっと悲しみ、怒るだろう。そこに生ずる責任から逃れる気は毛頭ない。


「恨んでくれて構わない。裏切りだと断じて結構だ」


 悲し気に言葉を零しながら、テミスは愛用の大剣を持ち上げると、静かにその背へと納める。

 これで身支度は完了。あとは、外出をするのであればこの上から外套を纏うべきなのだが……。


「何だろうな……少しだけ、楽しかったよ。まるで妹分ができたみたいで嬉しかった」


 テミスは悲し気な笑みを浮かべると、シズクから贈られた外套を手に本心を溢れさせた。

 自らに付き従う部下でもなく、競い合う戦友でも、ましてや腹の内を探り合う朋友でもない。彼女なりに必死で考え、時に世話を焼きながら、ただ突き進むだけの私の背に付いてきてくれて。

 そんなシズクの存在を、私はどうしようもなく心地よく感じていたのだ。

 それは、テミス自身ですら今ようやく気付いたような、決して明かす事は無い胸の内だった。


「ありがとう。だが、さよならだ」


 今も尚、拠点の復旧に勤しんでいるであろうシズクの顔を思い浮かべながら、テミスは外套を固く握り締め、僅かに震える声でひとりごちる。

 数秒後。

 テミスは何かを振り払うかのように激しく首を振ると、手にした外套をばさりと羽織って足早に部屋を後にする。

 自室を後にしたテミスが向かった一階のホールでは、今日も幾人かの隠密たちが作業に精を出していて。

 奥から歩み出てきたテミスに気付いた者は、苦笑いのような笑みを浮かべながら口々に挨拶の声をかけてくる。

 その内の一人。

 なるべく忙しそうな者を選んで呼び止めた。


「……お早う。ご苦労だな」

「は、はッ……!! ありがとうございます!!」

「今、手持ちの仕事が終わってからで構わない。シズクとカガリを連れて私の部屋へ来い」


 そして、何処か焦りを滲ませながらも畏まる兵士に、テミスは静かな声で新たな仕事を言い渡したのだった。

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