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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第18章

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1003話 継がれゆくもの

「ハッ……!! たぁッ……!!」


 冷たく澄んだ空気の中を、風切り音と共に威勢の良い声が響き渡る。

 ここは、テミス達が拠点としている廃墟から、さらに町の外周へと離れた場所に存在する広場だ。

 足元には瓦礫も無く、唯一広場の中心にはボロボロに崩れた大きな石の塊がそびえ立っている。

 きっとこの場所は、町が栄えていた頃にも広場だったのだろう。中心の石くれは元は石像か何かで。ともすればファントの中央広場のように、賑やかな場所であったのかもしれない。


「……そう考えると、なかなかに感慨深いものがあるな」


 眼前でオヴィムの指導を受けながら剣を振るアルスリードを眺めながら、テミスは白い吐息と共に胸に抱いた哀愁を吐き出した。

 周囲に並んでいたであろう店々は荒れ果てて瓦礫の山へと姿を変え、長い年月を経て石像もその意味を失ってしまった。

 だというのに、かつての栄華を示す者達が消え、滅び去った今でも、広場はこうしてその役目を果たしている。

 それはきっと、国や町であっても同じ事なのだろう。


「フッ……いかんな。最近は退屈過ぎる所為で、何かと考え込む癖がついてしまった」


 だがそこまで考えを巡らせた所で、テミスは壮大な歴史を空想しはじめた己が思考を強引に断ち切ると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて呟きを漏らす。

 その傍らには、難しい顔をしたシズクが居て。

 チラリと視線を向けられたシズクは、僅かに唇を尖らせて口を開く。


「……嫌味ですか?」

「いいや? だが、わざわざ監視までしに来るとは……。些か私も信用が無いなと思っただけさ」

「嫌味じゃないですか……。それに、忘れたとは言わせませんよ? テミスさんは抜け出した()があるのですから」

「ククッ……だからどうした? 身体の調子はもう悪くない。むしろ少しくらい動かさねば鈍ると言うものさ」

「テミスさんッ……!?」

「ハハハッ!! 怖い怖い監視が居るからな。まぁ、今日の所は諦めるさ」


 シズクはテミスの軽口にため息を吐いた後、続けられた挑発に乗って語気を荒げる。

 しかし、テミスはそんなシズクを笑い飛ばすと、広場の隅まで歩いていって手ごろな瓦礫の上に腰を掛けた。

 確かに、怪我をしてからというものの剣をほとんど握っていない。だからこそ、たまには体を動かしたくもあるが、久しぶりの外出なのだ。テミスとしてはこの恐ろしい監視の機嫌を損ねて、布団の上に逆戻りするのを避ける事が最優先事項となっていた。


「他人が体を気遣っているというのに……全く何という言い草ですか」

「拗ねるな拗ねるな。一応、感謝はしているのだからな」


 そんなテミスの傍らに立ち、深いため息と共にシズクが嘆くと、テミスはクスリと微笑みを浮かべて穏やかに言葉を返す。

 私とて、彼女が今置かれている立ち位置からして、シズクの心情はある程度理解しているつもりだ。

 だからこそ、シズクは何かと私の身辺に気を配っているし、口にする心配も本心からくるものなのだろう。


「ま……私のリハビリは追々やるさ。だから……ホレ」

「……?」


 のんびりとオヴィムの指導を眺めていたテミスは、ふとその脳裏に沸いた思い付きにニヤリと頬を歪めると、傍らのシズクに手ぶりをして自らの前へと移動させた。

 どうやら、人間(ヒト)というものは他者が目の前で面白そうな事をやっていると、真似をしたくなるのが性分らしい。

 それは私とて例外ではないらしく。

 故にこれは何の事は無い、ただの手慰みの思い付きだ。


「何を不思議そうに首を傾げているんだ。サッサと刀を抜け」

「へっ……? えっ……?」

「シズク。お前が私に体を動かすなと言ったんだ。ならば私の代わりに身体を動かして貰うぞ」

「そんな無茶苦茶な――」

「――五月蠅いッ! そう文句を言うなら、私自身で今すぐ走り込みでもしてやるッ!!」

「わかりましたッ!! やります! 私がやりますから座ってくださいッ!!」


 腰掛けていた瓦礫から腰を浮かせたテミスがそう一喝すると、狼狽えながらもシズクは半ばやけくそになって叫びを上げた。

 けれど、いい機会なのかもしれない。

 立ち上がりかけたテミスの肩を押し戻して再び座らせると、シズクは腰に提げた刀をゆっくりと抜きながら胸の中で呟いた。

 近頃はテミスさんを探し回ったり戦に出たりと目が回る程に忙しく、鍛練がおろそかになっていたのだ。


「スゥッ……」


 だが、そんな胸の中で思い浮かべていたもやもやとした考えも、抜き放った刀を構えれば一瞬で無へと還る。

 ピリッ……と。

 テミスは自らの言葉通りにシズクが刀を構えた途端、彼女の纏う雰囲気が一変したのを感じ取ると、クスリと笑みを深めて視線を注ぎ続けた。


「フッ……!! シッ……!!!」


 そんなテミスの前で一閃。

 さらにまた一閃と、シズクは自らの背後でテミスが満足気な微笑みを浮かべている事など知る由も無く、ただ全力で鍛練をはじめたのだった。

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