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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第18章

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984話 計画開始

 コツ……コツ……と。

 一対の足音が廊下に響き、ゆっくりとテミスたちの居る部屋へと近付いてくる。

 同時に、微かに漏れ聞こえてくる会話はシズクとカガリのもので、それは二人が調査を終えてこの部屋へと戻ってきたことを意味していた。


「そら……時間だ。私の条件は変わらん。……どうする?」

「っ……!!」


 目を細め、不敵な笑みを浮かべたテミスは静かに、しかしはっきりとオヴィムへ宣言をした後、勿体を付けて問いかけた。

 オヴィムがこの密談をテミスへと切り出してから十数分。オヴィムは土産の用意を持ち出したり、情に訴えかけたりと様々な手練手管を用いて交渉に臨んだが、終ぞテミスがその首を縦に振る事は無かった。

 だが、無情にも密談の時間は過ぎ去り、オヴィムは決断を迫られていた。


「……言ったはずだ。戦えこそしないが歩く程度ならば問題無いと。ならばむしろ、お前の出かけたこの場所で一人残り続ける方が危険ではないか?」

「だ、だがっ……!!」

「フッ……まぁ、私はどちらでも構わんが? 息苦しい監視の目が無くなるというのなら好都合だ」

「グッ……!!!」


 クスリと意地の悪い笑みを浮かべて、テミスはまるでオヴィムを唆すかのように言葉を紡ぐ。

 否。事実として唆しているのだろう。

 ここでテミスを連れ出すという事は、傷付いたテミスに安静を促し、あわよくば囲っておきたい融和派の意志に反する事になる。

 だがそれは、協力すると宣言したオヴィムにとって、義に(もと)る行為であるのは間違いない。

 無論。テミスとてこのまま融和派の手の内になど収まる気など毛頭ない。まともな食糧の調達という主目標以外にも、是が非でもこの拠点を抜け出し、自らの目で現況を確かめる必要がある訳だが。


「……私の身を案ずるな。お前はお前の目的の為に私を利用しろ。私もそうする」

「っ……!! テミス……お主……」

「…………いいな?」

「承知」


 最早、戸口の直ぐ近くまで迫り来る二人の気配に、堪らず焦れたテミスは苦悩するオヴィムへ早口で内心の一部を告げた。

 義理の狭間で悩むのは勝手だが、このまま時間だけを浪費しては共倒れなのだ。

 そんなテミスの覚悟が伝わったのか、戸口の方でカチャリと音が鳴ると同時に、オヴィムはテミスの囁くように重ねられた問いかけに、コクリと小さく頷いて返す。


「只今戻りました。テミスさん。きちんと安静にしていましたか?」

「姉さん……そんなにはしゃがないで。カガリ、帰還しました」

「ッ……!」


 密約はここに結ばれた。

 シズクとカガリ朗らかな声が響く傍らで、テミスは鋭い視線をオヴィムに送ると共にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 あとは口先三寸でシズクとカガリを丸め込み、オヴィムと共に町へ繰り出す時間を作るのみ。

 融和派の拠点からアルスリードを回収した後、幾らかの商店を覗きながらここへ戻るとなると、安全を期すならば4時間程度は欲しい所だ。

 そうなると、相当数のお使い(・・・)を頼む必要があるが……。


「報告します。二階部分はこの大居室を除いて半壊。この建物を使用するのでしたら、崩れた屋根を修復するか、崩落部分を封鎖する必要があるかと」

「……っと。一階部分は建物の損傷は少なかったです。けれど、一部の調理器具が壊れていたり魔石が紛失しているので、必要なものは多そうです」

「そうか」


 凍て付く外気に身を縮ませながら部屋の中に入ってきた二人は、テミスの傍らに並び立つと、間髪入れずに報告を始める。

 カガリなど完全に態度も口調も軍人のソレだが、調査を依頼したテミスが求める前に迅速に報告する姿勢は一種の危うさを感じさせた。

 だが、今はそれも好都合。

 胸の内で策を弄しているテミスは小さく微笑みを形作ると、シズクたちへ顔を向けて口を開いた。


「では、早急に事に当たろう。二階はこの部屋の隣の居室を除いて全て封鎖。そうすれば廊下や一階の広間でも暖を取れるな?」

「はい。恐らくは。しかし、相応の資材と物資は必要です」

「では、早速調達にかかってくれ」

「でしたら、私も共に。オヴィム殿には引き続きテミスさんの監……護衛をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「……了解した」


 この建物に拠点を構えるというしっかりとした名目がある為だろう。

 シズクもカガリも特に疑う事無く物資の調達を引き受けると、オヴィムへ確認を取ってからその身を翻した。

 一応、こちらも企みを抱える身だ。途中で僅かに聞こえた腹立たしい単語の欠片は、聞こえなかった事にしておいてやろう。

 だが、念には念だ。カガリの用事だけでも十分に時間は稼げるとは思うが、ここは一応用事を追加しておいてやる。

 腹の中の思いにヒクヒクと唇の端を震わせながら、テミスは早速出かけるべく戸口へ向かう二人の背へと声をかけた。


「あぁ、待て」

「ん……? どうしましたか? お土産ですか?」

「……お前は私を何だと思っているんだ。どうせ調達に行くんだ。可能な限り、調理器具や魔石も手に入れてくると良い」

「そうですね。上手く行けば今夜から色々と出来そうですし……。では、少し時間がかかりそうですが、テミスさんはしっかり安静にしていてくださいねッ!」

「クク……。あぁ、わかっているさ。頼んだぞ」

「…………」


 時間を稼ぐ足しになればいい。

 意図的な思惑の詰まったテミスの言葉に、シズクは素直に頷くと、ニッコリと笑顔を浮かべて再び歩き始める。

 そんなシズクに言葉を返しながら、テミスは密かにほくそ笑んで二人の背を見送る。

 その傍らではオヴィムが一人、沈痛な表情で頭を抱えていたのだった。

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