幕間 主無き部隊
幕間では、物語の都合上やむなくカットしたシーンや、筆者が書いてみたかった場面などを徒然なるままに書いていきます。なので、凄く短かったりします。
主に本編の裏側で起っていた事や、テミスの居ない所でのお話が中心になるかと思います。
「…………参ったな」
第五軍団に割り当てられた天幕の中で、ルギウスは一人溜息をついた。
こちらの主戦力の一人であるテミスを欠いた事で戦況は最悪。彼女が残してくれた十三軍団のお陰で、何とかリョース殿が到着するまでは持ち堪えられたが……。
「まさか……続いてヤツまで来るとは……」
そう呟いてルギウスは頭を抱えると、もう一度深いため息を吐いた。ギルティア様の話によれば彼女は自らこの任務に志願したらしいが、彼女が再三求めてきている配置転換を見れば、その狙いは明らかだった。
「悪いが……それを許すわけにはいかないんだ。彼等を残してくれたテミスに申し訳が立たない」
ルギウスは静かに目を開くと頭を上げてそう口にした。その目にはまるで、死を覚悟した侍の様な剣呑な光が宿っていた。
「部下を庇って死ぬつもりか? ルギウス殿」
「っ!? リョース軍団長! いつの間にここへっ?」
突如、静かに投げかけられた声にルギウスが身を起こすと、そこには壁にもたれ掛ってこちらを見つめるリョースの姿があった。
「私も丁度、貴殿と同じ悩みを抱えていてな。対応策を話し合いたいと思ったのだが……」
「……そうでしたか。リョース殿の元にもやはり……」
「ああ……あの女、相当テミスが憎いらしいな」
リョースは不敵に口元を緩めると、手に持っていた羊皮紙を握り潰した。そこには恐らく、十三軍団に最前線を張らせて、我々は彼等の援護に徹するという下らない作戦が記されている筈で。
「軍略的に見ても、奴の部隊を最後方から動かすのは難しいだろう。前線を張る魔導師も居るが、奴等にその度胸はあるまい」
「……でしょうね。となると、それを軸に作戦を立案しなければならない訳ですが……」
ルギウスは重々しく口を開くと、再びため息を吐きそうになる。テミスの十三軍団の練度は本当に高い。しかしそれは機動遊撃戦においての話であり、物量が物を言う正面戦闘は彼等の得意とする所ではないはずだ。
「それでも……あそこまで戦えるのは脅威的……か……」
「フッ……お互い、テミスには驚かされ通しという訳か」
「ええ、全くです。興味本位で近付いた結果がこれですからね……彼女は実に面白い」
ルギウスが思わず呟いた言葉にリョースが頬を緩めると、2人は互いに顔を見合わせて喉を鳴らした。リョース殿もまた、テミスと何かしらの出来事があったのだろう。
「奴の育て上げた部隊だ……魔王様の為にもこんな所で死なせる訳にはいかんな」
「同感です」
2人はそう言って頷き合うと、傍らに設えられていた作戦卓へと移動して議論を開始する。その日は遅くまで、第五軍団の天幕から灯が消える事は無かったのだった。
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