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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第18章

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974話 矜持無き者達

 静かに佇むシズクから、鮮烈に放たれる気迫の中。

 その張り詰めた空気を揺らしたのは、若者の軽薄な笑い声だった。

 げらげら、ヘラヘラと。次第にその下卑た笑みは伝播し、嘲笑の渦となって滴を取り囲む。


「ヘ……へへへ……なァにが加減はできませんよ。だ。スカした事言いやがって」

「あんま俺達の事舐めてんじゃねぇぞ? 軍人ってなぁ男でも女でももっとゴツくて、見るからに強ぇえ雰囲気ってヤツを纏ってるんだ」

「グフッ……良いねぇ。可愛いねぇ……。軍人だなんて精一杯の虚勢張っちゃってさ。泣き喚く顔が楽しみだァ……」

「……って訳だ。この国の安全を守るタメ、協力しない君が悪い。ちっとばかし手荒に調べさせて――」


 シズクの周囲を取り囲み、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら、若者たちの一人がシズクの外套へと手を伸ばした時だった。

 ぶおん。と。

 鈍く空気を裂く音が響き渡ると同時に、何かが破裂したかのような打撃音が響き渡る。

 それは、自らへと伸びる手を攻撃と見做したシズクが、抜き放った刀を返し、その峰を眼前に迫る若者の顔面へと叩き込んだ音だった。

 しかし、シズクを取り囲む若者たちに何が起こったのかを解する事など出来るはずも無く、突如尻もちをついた仲間に怪訝な表情を浮かべた後、一拍の間をおいて爆笑の渦が巻き起こった。


「ッ……ハハハハハ!! まさかお前、こういうのが好みだったのかよ? だとしても流石に尻もちついてコケるなっての!!」

「ギャハハハハハッ!!! 格好悪ぅッ!! ちっとばかし手荒に尻もちつくってか?」

「ガッ……あがぁッ……」

「…………」


 無論。峰とはいえ顔面を打ち据えられた若者がタダで済むはずも無く。黙したまま佇むシズクの眼前で、周囲から嘲笑の嵐を浴びせられながら、痛みに顔を押さえてのた打ち回っている。

 だというのに、周囲の若者たちは傷を負った仲間を囃し立てるのに夢中で、既に刀を抜き放っているシズクに気づく者は一人として居なかった。

 そして数秒後。


「ぐぶ……ぢぐじょうッ……!! よくも……やりやがっだな……?」


 シズクが打ち据えた若者が、顔面を押さえた手の隙間からボタボタと血を流しながら起き上がると、漸くその異常に気付き始める者が出てくる。

 しかし、未だ半数以上の若者は余裕の笑みを浮かべて状況を眺めて居るだけで。

 自らの顔面を打ち据えられた怒りで目を血走らせる若者に、ヤジを飛ばしている者すらいた。


「オイオイ! なにがやりやがった……だよォ! 興奮して鼻血まで流してるクセに、素直に認めちまえってのッ!!」

「ふ、ふざげんなッ!! お前等、早くゴイヅを――」

「――見下げ果てた人たち……ですね」


 だが、起き上がった若者が皆まで言い切る前に、シズクは胸に抱き抱えていた包みを肩に担ぐと、深いため息と共に抜き放った刀で空を切った。

 武器は持っているものの、その扱いはてんで素人。頭数を揃えているクセにただ雁首を並べているだけで統制は取れておらず、部類としてはそこいらの盗賊にすら劣るだろう。

 それでも、徒に浅薄な欲望の赴くまま振るわれる彼等の暴力は、戦う術の無い人々にとっては十分以上の脅威だ。

 だからこそ。


「若気の至りというものでしょう。命までは取りません。が……この国の誇りを騙り、善意を蔑ろにし、護るべき者を貶めた罪。その代償は支払って貰います」

「あァ……? コイツ、何言って……」

「か……刀ッ!? 一体いつの間に抜いてッ……!?」

「っ……!! だッ……ラァッ!!!」


 鋭い眼光で周囲の若者たちを睨み付けると同時に、シズクは刃を返して構えた刀を眼前に掲げ、音も無く姿勢を落とした。

 しかし、まともに戦った経験など無い若者たちが、突如として切り替わった状況を呑み込めるはずも無く。

 勘の良い数名が携えた武器を大振りに振りかぶってシズクへと襲い掛かる横で、呆気にとられた表情を浮かべて目を見開いている。


「ギャッ……」

「ぐわッ!」

「おごっ……!?」


 そんな若者たちの前で一閃。

 刀が空を裂く音が響く度に、シズクへと襲い掛かっていった若者たちは一人、また一人と苦悶の声をあげて石畳の上へと倒れ伏していった。

 そして、シズクは打ち倒した若者たちを背に再び剣を払うと、狼狽える若者たちをジロリと睨み付けて口を開く。


「謝っても許しません。逃がしもしません。抵抗しないのであれば、怪我は軽くて済むかもしれませんよ?」

「ひぃっ……!?」


 冷たく言い放たれたシズクの言葉に、若者たちの悲鳴が混ざった後。

 暫くの間、路地には刀が鈍く空を裂く音と肉を打ち据える音、そして許しを請う悲鳴が響き渡ったのだった。

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