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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第17章

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967話 意地の末路

 唐突に身体を貫いたのは、途方も無い痛みだった。

 剣で斬られ、槍で刺され、魔法で焼かれる。そんな痛みはこの世界に来てから幾度となく味わった。

 だが、何度経験しても慣れる事など無く、何度味わっても耐え難い。

 彼の世界では、考える事すらなかった苦痛。

 まるで、自らの命そのものが零れ落ちていってしまっているかのような、途方も無い喪失感と虚脱感が今、テミスの身を襲っていた。


「っ……グッ……あが……ゴホッ……」


 ずるり。と。

 テミスは苦痛を堪えて一歩を退くと、夥しい量の血と共に腹に突き立った短槍が抜けていく。

 本来ならば、身体に突き刺さった異物は抜くべきではないのだろう。

 だが、得物の柄を敵が握っているのならば話は別だ。シロウが柄を捻るなり抉るなりすれば傷口は簡単に弄ばれ、たちまち耐え難い苦痛が襲って来る。

 そんな風に敵の手の内に弱点を残すくらいならば、今は多少の出血や痛みを気にしている場合などではない。


「ぐっ……ウゥゥゥゥゥッッッッ!!!」

「フ……」


 傷口を擦る激痛に堪え、食いしばった歯の隙間から悲鳴を漏らしながら、テミスは無理矢理に数歩退くと、己の身体から短槍を取り除く。

 だが、迅速極まる判断を下したとはいえ、重症を負ったテミスが自らの身体から短槍を抜き取るには数秒の時間がかかる。

 一方で、短槍の柄を握るシロウは、ただその手を捻るだけでテミスの傷を弄び、耐え難い苦痛を与える事ができるのだ。

 しかし、シロウはテミスが苦痛に顔を歪ませ、額から脂汗を流しながらもがく姿をただ薄い笑みと共に見守っていただけで。

 その間に一切の攻撃を加える事は無かった。


「が……ぁ……ハ……ッ……」


 無論。

 短槍を抜いたからといって傷が癒える訳では無く、テミスは即座に片手で傷口を押さえるが、短槍という()を失ったちは溢れ出て服を濡らし、みるみるうちに石畳へと滴っていく。

 だがそれでも、テミスは固く握り締めた剣を手放す事は無く、苦痛に身体をくの字に折り曲げながらも、その目は鋭さも光も失ってはいなかった。

 そんなテミスが視線を向ける先では。


「短槍と……手……斧……ッッ!!」

「……大したモンだ。腹を穿ち抜かれて尚、悲鳴一つ上げんとはな」


 テミスの血に濡れてテラテラと光る短槍を左手に、そして柄の短い片手斧を右手に携えたシロウが、悠然とテミスを見下ろしていた。

 仕込み戦斧。まさか、そんな代物が存在するとは……ッ!!

 再び込み上げてくる血の塊を意地で飲み下しながら、テミスは想定外の代物に歯を食いしばった。

 考えてみれば、はじめから全てがこうして虚を突く為の戦略だったのだろう。

 最初に、巨大な戦斧を振り回して力圧しで戦う戦法を見せた後、短槍と手斧を用いた精密な戦法へと切り替える。

 まさに隙の無い戦術。

 最初の力押しで敵を倒せればそれで良し、たとえ倒せなかったとしても先だっての戦法はこの上ない(ブラフ)となる。


「さぁて……さんざん生意気を囀ってきたが……」

「ッ……!!!」

「結果がコレだ。今ここで許しを請い、投降するというならば、この場では殺さずにおいてやるが?」


 ザクリ。と。

 シロウは不敵な笑みと共に短槍を自らの傍らへと突き立てると、荒い呼吸を繰り返すテミスに真正面から歩み寄り、その髪を掴みあげて言葉を叩きつける。

 それはシロウにとって、自らの勝利を宣言するのと同等だった。

 腹を穿ち抜いたのだ。深手を負ったその身体が、既に戦える身体でないのは一目瞭然だ。

 ならば、この憎たらしい人間の小娘には、眼前に迫った死に怯えて生に縋り、自らその忌々しい誇りを地に堕とさせ、残り僅かな生をこの地で奴隷として過ごすのが相応しい最期だ。

 だが……。


「……笑わせるな」


 弱々しくもはっきりと紡がれた言葉と共に、吐き出された唾がぴちゃりとシロウの顔面を汚した。

 それは紛れも無く、痛みに堪えながらも不敵な笑顔を浮かべるテミスが吐き出したものであり、最早唾というよりも血の塊に等しかったが、シロウの問いに対する明確な答えだった。


「……今までの連中ならば、泣き喚きながら命を乞うたものであったが」


 その答えに、シロウは斧を持った手で己が顔面に吐き捨てられた血を拭うと、小さなため息と共に掴みあげたテミスの髪をゆっくりと持ち上げる。

 そして、口元に凶悪な笑みを浮かべた後。


「ならば、その醜悪な意地に敬意を表して、さっさと地獄へ叩き落としてくれるわァッ!!」

「――ッ!!!」


 掴んだ髪ごとテミスの身体を放り投げるようにして宙へと浮かせると、憎しみを込めた怒声と共に、その首を目がけて全力で手斧を叩き込んだのだった。

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