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幕間 アルベルドの苦悩

幕間では、物語の都合上やむなくカットしたシーンや、筆者が書いてみたかった場面などを徒然なるままに書いていきます。なので、凄く短かったりします。








主に本編の裏側で起っていた事や、テミスの居ない所でのお話が中心になるかと思います。

 テミス達がラズールへ向けて出撃した翌日。アルベルドは戦慄していた。


「なん……だ……これは?」


 アルベルド達が請け負うのは、テミス達十三軍団がになっていたファントの防衛と統治。そこにはもちろん、治安維持や町の発展・復興なども含まれる訳で。


「書類が……たったのこれだけだと? 本当なのか?」

「はいっ……何度確認してもこれだけだと……」


 書類を持ってきた部下にアルベルドが訪ねると、困惑した彼もまた手に持った一束の羊皮紙に目を落とす。戦場になった挙句、その後の発展が目覚ましいこの町の事だから、それこそ山のような書類仕事が待ち構えているものだとばかり思っていたのだが……。


「まさか……我々が信用されていないとかですかね……?」

「滅多な事を言うな! ここはファントだぞ……それこそ誰かの耳にでも入ったりすれば事だ」

「すっ……すみませんっ!」


 しかし、部下を言い含めながらも、アルベルドの胸中には同じ疑問が湧き出ていた。とてもでは無いが、戦後間もないこの町の抱える問題がこの程度だとは考えにくい。


「ムゥ……しかし、何か問題が起ってからではギルティア様に顔向けができん……」


 アルベルドはそう呟きながら書類を受け取ると、普段はテミスが使っている執務机へと腰を下ろした。何はともあれ、任された案件がゼロで無いのならば、最低限それくらいは完遂する必要がある。


「さて、ペンっ……と。なんだこれは?」


 筆記具を求めて机の上を見渡しても目的のものが見つからず、引き出しを開いたアルベルドは思わず声を上げた。


「ど……どうされました?」

「いや……ウム……なんでもない……」


 アルベルドは即座にこちらに向かってくる部下を制止すると、一度引き出しを戻して首を振った。気付いていないだけで疲れが溜まっているのだろうか。


「っ……」


 アルベルドは2・3回目を擦った後、ゴクリと喉を鳴らしながらゆっくりと引き出しを開ける。だが、そこに収納されていたのは最初に見た物から変化してなどいなかった。


「……疑って済まなかった我が目よ」


 アルベルドはボソリと呟くと、もう一度引き出しをそっと閉じる。執務机の一番上。最も使用頻度が高いであろうその場所に収納されていたのは、可愛らしい意匠が施されたティーカップ達だった。

 しかし、これをここに収納したのは確かにテミスだったが、デザインを選んだのはテミスではない。茶器を求めたテミスがアリーシャに相談した際に、張り切ったアリーシャが選んできた渾身の逸品たちだったのだが、アルベルドは勿論、そんな事を知る由も無かった。


「意外と……中身は年相応……という事か」


 これが、羽ペンを求めて机を漁りつくしたアルベルトの導き出した結論だった。

 求めていた羽ペンとインクは一番下の棚に紙やら文鎮やらと一緒くたに格納されており、その他の引き出しにはチョコレートや茶葉、コーヒーミル等の嗜好品が綺麗に分けられて収納されていた。


「マグヌス殿も苦労されているのだな……」


 取り出したくたびれたペンを眺めながら、アルベルドは呟いた。この現状を見るに、あの可愛らしい軍団長はこういった書類仕事には疎いのだろう。となれば尚更、戦いの腕だけであれ程の信頼を勝ち取っている事になるのだから末恐ろしい。


 しかし、アルベルドの苦難はこんなものでは済まなかった。


「………………駄目だ。理解できん……何故この町はこれで回っているのだ? そしてこの報告書はなんだ? 周囲の街道の交通量の推移など、何の役に立つと言うのだ?」


 陽も真上に移動して一層明るく輝き出したころ、羽ペンを投げ出したアルベルドが頭を抱えて声を上げた。結局朝の時間の大半を費やしても、傍らに積まれた紙の束は半分も減る事は無かった。


「そもそも、なぜ許可証や申請書の類が一枚も無い? その代わりに報告書だけはやたらと多いが……」


 この時、アルベルドの中にあったのは戦慄だった。全ての指示を軍団が統括して集中管理するこの世界の方法とは異なり、ファントの町は現代のアルゴリズムを活用して運営されている。その殆ど権限をそれぞれの現場を仕切る長に一任し、そこから上がってきた結果報告から問題点を見つけ出すこの方法は、アルベルドにとって恐怖でしかなかった。


「わからん……ただ一つ言えるのは……」


 アルベルドはゴクリと唾を呑み下しながら、自らが手に持つ羽ペンへと目を落とす。あの軍団長は仕事をしていないのではない。極限まで無駄と手間を省き、自らが仕事(・・・・・)をする必要(・・・・・)を無くした(・・・・・)のだ(・・)。そこに在るのは圧倒的な領民への信頼か、あるいは……。


「例え、自らが不要と反乱を起こされても鎮圧できるという自信の表れか……」


 結局この日以来、一度もアルベルドの書類仕事がはかどる事は無く……テミスが戻る頃には、未処理の書類が机の上に山を形成していたのは言うまでも無かった。

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