金魚
硝子の檻に囚われている、狭く冷たい檻の中、照明を落とされ闇に閉ざされた部屋の中に一筋の光があった。その光に照らされた円い林檎飴の様な硝子の檻に彼女は囚われていた。名をオランダというらしい。丸々と肥えた白い鱗の其の肢体に、赤い花びらの様な鰭を水面に帯を落とす様にひらひらと優雅に揺らしている。円い黒い瞳に光は無く、瞳の周りに塗った金色の化粧が光に反射しきらきらと光っていた。白い円い肥えた顔、その上唇に赤い紅、オランダは真に美しかった。其の美しさとか弱さ故、生まれながらに自由を奪われた悲しきオランダ。オランダは私が其の顔を無粋に覗き込んでも、顔を顰めず硝子の檻を漂う。その姿に私は酷く悲しくなった。その無表情の瞳に光を宿さぬオランダの姿はかつて在った日の遊女の面影、時代の光が降り注ぎ、遊女は檻から解放されたがその光がひっそりと淀んだ影を作った。嗚呼、オランダ、硝子の檻に囚われた、人間の美という甘美で醜い欲求を満たすために生まれたオランダ、檻はオランダを更に美しくさせる。檻は其れを美しくさせるための装飾品に過ぎない、自由を奪われた者の幻想的な儚い美しさは鑑賞する者にほろ苦い背徳感と現を忘れさせる甘美な一夜限りの夢を魅せる。その美しさが私は悲しい。