表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王見習い  作者: 一葉
6/13

6

異世界の食事って質素だなあ。

ベッドで眠ったら夜になっていて家事妖精が食事を運んでくれた。まるで見られているようなタイミングだと冗談で言ったら肯定されてしまった。家事妖精は自分がついている家の中を完璧に把握しているそうだ。

テーブルに並んでいるのはパンと具の少ない野菜スープのみ。

「いつもこういうメニューなの?」

「はい。現金収入は限られていますし、領土からの徴収品だけだとどうしても食卓が寂しくなってしまいます」

家事妖精はまさにメイド然としてわきに控えている。見られながら食事するというのはどうにも落ち着かなかった。

「この世界って魔法とかあるの?」

ちょうどいい機会だし色々情報収集しておこう。

「ございますよ。誰にでも使えます」

「僕でも使えるかな」

「使えます。魔王様の魔力を感じますし、制御できれば」

せっかく異世界に来たのだから魔法のひとつも使ってみたい。それに魔王の魔力を制御できれば意識を飲み込まれずにすむかも。

「よかったら教えてくれないかな」

「かまいませんよ。魔王様の代行なのですから何なりとお申し付け下さい」

本来、家事妖精は誰かに知識を教えたりしないし、命令なども聞かない。家事妖精がシンラに親切に対応しているのは名前を得るためである。そんなこととは知らないシンラは純粋に家事妖精に感謝した。代行という言葉は引っ掛かったが何も言わないでおく。へたすると追い出されるかもしれないし。

「それではさっそくご指導させていただきます」

食べ終わった食器を片付けて家事妖精とテーブルを挟んで向かい合う。改めてみると彼女はものすごい美少女だと実感する。薔薇色の髪は華やかで、白磁のごとき白い肌を際だたせている。

「まずは魔力を感じるようになりましょう。手を握って下さい」

差し出された小さな手を握る。暖かくて柔らかい、強く握れば壊れてしまいそうな手だった。女の子の手を握るのは初めてで内心かなり照れる。

「左手に魔力を流しこみます。その魔力を私の左手に流し込んで循環させるイメージをもってください」

魔力ってどんなものだろうか。期待半分恐れ半分にまつ。やがて左手からひやりとした感覚が流れ込んできた。冷たい感触は胸の所までわだかまる。少しばかり息苦しいけど大丈夫なのかなこれ。

「害はありませんので集中して下さい」

不安が顔に出ていたようだ。わざわざ付き合ってもらっているのだから頑張ろう。

胸にわだかまる冷たい物に意識を集中させる。不定形なそれはなかなか認識しづらい。思考錯誤しているうちになんとか少しだけ動かせた。感触としては液体みたいな感じか。直接触って動かすことは出来ないけど圧力を加えれば流れていく。

これって血管みたいに通り道を作ればいいのかな。

そう考えた瞬間、全身を巡る自分の魔力を認識した。まさに血のように暖かいそれはゆっくりと循環している。

左目だけが妙に熱い。これは魔王の力の欠片だろうか。

「どうですか? 苦しいようなら一旦やめましょうか」

「大丈夫」

魔王の力はぎゅっと固まっていてびくともしない。まあ、いきなり使いこなすのは無理か。諦めて自分の魔力の流れに集中する。直接操るんじゃなくて右手に通路を作るイメージを浮かべた。

「ん……」

「あっごめん」

溜まっていた魔力が一気に家事妖精に流れ出してしまった。苦しげに家事妖精が呻く。慌てて手を離そうとしたらむしろより強く手を握られた。

「気になさらないで下さい。これぐらい平気です」

若干、顔が赤くなっているけど、本当に大丈夫なのだろうか。でも無理やり手をはなすのも失礼っぽいしな。

気をとりなおして今度はいきなり魔力が流れ込まないように慎重に魔力を流していく。探り探り魔力を流していくとやがて全身を駆け巡る魔力が家事妖精に流れて戻ってくるようになった。戻ってくる魔力には家事妖精の魔力も含まれているようで冷やっとして気持ちいい。でも家事妖精はそうでもないようだ。無表情だけど息が荒くなってきて苦しそうだ。

「ありがとう、何となくつかめた気するよ」

手を離すと家事妖精は名残惜しそうに見つめてきた気がするけど気のせいだろう。ちょっと疲れた感じだからそうみえただけだ。

「お役にたてたのなら幸いです」

魔力の流れを意識出来たみたいだから、明日からは本格的にやろうと約束して家事妖精は部屋を出ようとした。

「あ、そうだ、考えてたんだけどシルヴィアって呼んでいい?」

「はい?」

家事妖精は可愛らしく小首を傾げる。

「名前って信頼しあってないとつけられないみたいだけど、名前で呼ぶくらいは出来るかなって」

部屋で一人でいる時に考えていたのだ。信頼しあうなんて不可能だろうし、名前で呼んでもいいんじゃないかと。なんせ僕はどこの馬の骨とも知れない人間である。信頼されるわけがない。

「シルヴィアですか。かしこまりました。そのようにお呼び下さい」

不満はないように見える、多分。シルヴィアは丁寧にお辞儀をして部屋をでた。

どっと、疲れが体を襲う。魔力の制御は想像異常に疲れる作業だった。今日はもう寝てしまおう。

ベッドに倒れこんで大きく息をすう。そういえばお風呂とかどうしてるんだろうか。明日聞いてみるか。

とりとめのないことを考えているうちに深い眠りに落ちていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ