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魔王様が姿を消してから1ヶ月がたった。元々三人しか住んでいなかった魔王城であるが、家事妖精はあまり会話をする種族ではないし、もう1人の鎧騎士も事務的会話しかしない。よって魔王城は静かだった。
鎧騎士は領地から徴収してきた小麦を倉庫にしまいながらため息をついた。こういった仕事はシルキーがやってくれるが、あいにくと彼女は買い出しに出掛けていて不在だった。
もっとも、少しでも身体を動かしていないとイライラしてしょうがない。魔王様は実に気軽に別の世界にいくと宣言してあっさりといなくなってしまった。今まで似たようなことが何度かあったものの、まさか忠誠を誓ったこの私をおいていくとは。
思い起こせば魔王様の思い付きには振り回されてばかり。今回のように突然いなくなるのは珍しくない。その度に領地内の魔物討伐を一人でやらなければならなくなり、迷惑このうえない。せいぜい村三つ程度しかない領地であるが、魔物の多いこの地域を一人で回るの無理があった。魔王の領地は建前上、ローズ帝国の中にある貴族の領地扱いになっているが実質的には独立しているのでローズ帝国に魔物討伐をお願いするわけにもいかない。
溜息をつきつつ城内に戻ろうとしたところ、覚えのある魔力を感じた。
「魔王様?」
それにしては魔力が小さすぎる。それに魔王様はもう戻ってくるつもりはないと言っていた。何かあったのだろうか。足早に魔力の源へとむかう。場所は謁見の広間。無駄に大きな扉を開くとそこには黒髪の少年がいた。