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魔王見習い  作者: 一葉
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シンラとアスガルド

「身体強化系の魔法は基本です。発動しながら走ってください」

シルヴィアは簡単に言ってくれるが身体強化系の魔法を複数同時発動するのは精神的にきつい。一度発動すれば意識せずとも継続発動するものの、同時発動している分だけ思考能力を奪われてしまう。筋力増加、体力増強、体表硬化、速度上昇、視力強化、これが出来なければ僕の剣術では最下級の魔物すら倒せないそうだ。

「はい、そのまま火炎を発動させて目の前に浮かべて下さい。速度が落ちてますよ、さあ走って」

最下級魔法程度なら僕でも無詠唱発動は出来る。ただし身体強化系魔法を同時発動させていなければだ。詠唱は精神を集中させる為におこなうもので内容は何でもいい。脈絡のない詠唱だとむしろ集中出来ないので身体に走らせている魔力の文字と同じ言葉か、それを短縮したものが使いやすい。

「始まりの火よ、燃やせ」

「あっ、無詠唱でやって下さい。やり直しです」

鬼教官ぶりがいたについてきたな。まあでもまだましではある。ちゃんと休憩はとらせてくれるしね。

さて、無詠唱で発動させようにも余裕がない。どうにかして余裕をひねり出せないだろうか。魔法は魔力を文字にして循環させることで発動しているわけだから、この文字数を減らせれば余裕ができるのではないだろうか。強化系魔法は強化する部分の文字は共通している。なら、この強化の術式を中心に何処を強化するかの術式をくっ付ければ一つの魔法として発動して余裕が出来るのではないだろう。

さっそく強化系魔法を一旦といてから新しい術式を組み立てて発動させる。うん、問題ない。続いて無詠唱で火炎を発動。

「その調子です。そのままあと五周してください」

強化系魔法の効果は絶大で体力的にはあと五周くらい大したことはない。後で物凄い筋肉痛になるのを考慮に入れなければだが。

「少しはやるようだな」

「あ、アスガルドさん、お久しぶりです」

いつの間にかシルヴィアの隣にアスガルドが立っていた。厳めしい鎧は薄汚れ、所々血がついている。

「アスガルド様、血は落としてから城内に入るようにと何度も申し上げているはずですよ」

「疲れているんだ大目にみてくれ」

アスガルドとはここに来た初日に会ったきりだ。城に戻って来るのは一ヶ月ぶりくらいだろうか。

「天火か、大盤振る舞いだな」

シルヴィアの指示で天火を腰に下げて走っている。というか常に身につけて馴れるように言われている。

「魔王に相応しい装備ですし、ご主人様も気に入っておられましたので、それとシルヴィアという名前を頂いたお礼も兼ねています」

アスガルドは少し驚いて忌々しそうに睨んできた。あえて目線を反らして聞こえない不利をしておく。

「名前か……随分と気にいったみたいだな、あいつを魔王にするつもりなのか?」

「当然です。まあ、魔王クラスの力がなければ魔王様の力にのまれてしまいますしね。アスガルド様も協力して下さいますよね」

いつの間にか魔王を目指すことにされているな。うーん、でも結局魔王クラスを目指すってことは魔王になるってことだからべつにいいのか?

「あんな小僧につかえろとでも? 冗談じゃない」

「では貴方が魔王になられますか」

アスガルドの表情は兜で見えないのに苦々しげな顔が見える気がした。

「候補はシンラ様しかいません、せめて剣術だけでも教えて下さいませんか」

「いいだろう、一つ試してやる結果しだいでは私の剣の全てを教えてやる。シンラこちらへ」


試すとは言ったものの、どう試すべきかアスガルドは迷った。まともに打ち合えばシンラに勝機はない。かといってこれから強くなるかどうかなどアスガルドには分からなかった。才能の欠片もなかった人物が剣聖と呼ばれるまでになった実例もある。

シルヴィアもはっきりと結果が分かる方法にしましょうと言っている。暗に誤魔化しは許さないと釘をさしているのだ。

では、一太刀でもあびせられればシンラの勝ちにしようと提案したらシルヴィアは条件を追加してきた。

「アスガルド様は反撃しない、円からでない、魔法も使わない、一太刀でも当たればご主人様の勝ちで宜しいですね?」

「それでいい」

アスガルドは鷹揚に頷いた。かなり不利な条件であるが負けるわけがない。目の前に立つシンラの構えは様になっているものの、基本に忠実すぎて太刀筋を読みやすい。ただ、先程、シルヴィアがシンラに何事が耳打ちした途端にシンラがすまなそうな表情になったのが多少気にかかる。何かかくし球でもあるのだろうか。

どうせ気にするほどのものではないだろう。素人に出来る奇策など途るにたらない。小細工をねじ伏せるだけの自信がアスガルドにはあった。

シルヴィアがコインを投げる。コインが落ちた瞬間、シンラはなんの躊躇いもなく天火をふりおろした。アスガルドは軽く剣で払いのける。少しばかりアスガルドは感心した。人に剣を向けるのに躊躇いをなくすというのは難しい。それが原因で格下に負ける者もいるくらいだ。人に剣を向ける怖さを知らないというわけでもなさそうだし、これだけでも評価に値する。さらに武器の強化魔法も使えるようだ。天火の刀身が紫色に染まっていた。普通、武器強化をしても色は変わらないが天火は魔力との親和性が高いがゆえにこのような現象が起こるのだ。

しかし、それだけである。剣筋は型通りのもので簡単に弾ける。これではいつまでたっても一太刀などむりだろう。

シンラの息が荒くなっていく。もう体力の限界か。アスガルドは失望しつつ、上段からの一撃をはじこうとして違和感を覚えた。剣が重いのだ。咄嗟に力を込めたおかげではじきかえせたが違和感がぬぐえない。それどころか視界が狭まり、身体が重く感じて上手く動かせない。吐き気と頭痛が時間がたつごとに強まってくる。

「くそ!」

横凪ぎの一撃に思わず毒づく。これは防ぎきれない。

アスガルドは咄嗟に後ろに下がった。

「勝負ありです。ご主人様の勝ちですね」

アスガルドは円の外に飛んでいた。誰の目にも明らかな敗北である。

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