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魔王見習い  作者: 一葉
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魔王ウルムスの命を受けて第六位魔王を監視しているその悪魔には名前がなかった。そもそも低級悪魔に名前などない。混沌の海より召喚される悪魔達のなかで名前があるのは上級悪魔以上に限られている。名前のない悪魔は肉体を持たない故にこちらの世界で活動するには人間の身体が必要だった。

その悪魔が手にいれた身体はウィル・ガンド子爵。ウィルは帝都にて宮廷勤めの事務官であったが、部下の不手際の責任をとり、魔王領のガランナ村へ左遷された男だ。いつか帝都に返り咲くことを条件に契約を結んだ。悪魔は必ず契約をまもる。ただし、契約内容は吟味しなければならない。そうしなければウィルのように完全に身体を乗っ取られることになる。

悪魔は第六位魔王に気付かれぬように細心の注意をはらった。村長の娘と結婚したのもそのいっかんだ。どうも村長はいずれ一族を貴族にしようと夢みていたらしく、帝都からやってきたウィルは例え左遷されていても魅力的だったらしい。妻になった女は人間の美的感覚で言えば美人なのだろう。先祖帰りなのか金髪に碧眼というのも魅力を引き立てている。もっとも、悪魔にはよくわからなかった。悪魔は種族的に人間にそういった魅力を感じないのでそれなりに長い夫婦生活のなかで、指一本触れたことはない。娘が一人いたがこれは奴隷として売られていたのを買った。村長がはやく子供をとあまりにも五月蝿かったため、妻には子供が作れない体質だと偽り、妻が生んだことにしてもらっている。実子でなければ村長を黙らせることが出来なさそうだったからだ。本来、奴隷であっても赤ん坊の売買は禁止されているが、非合法ならいくらでもてにはいる。

十数年、悪魔は第六位魔王を監視し続けた。そして、ついこの間やっと隙を見つけた。一か月間姿を見せなかった魔王の弱体化。これはもうまたとないチャンスだろう。姿を消していた間に何者かに手傷を負わされたに違いない。第六位魔王を追い落とすには今しかない。だというのにウルムスの命令は第六位魔王の確認である。悪魔は初めて不満を持った。あまりにも消極的ではないか、ここで討たないのなら自分はなんのために監視しているのか。悪魔は魔眼持ちであるがゆえに、増長していたのかもしれない。悪魔は第六位魔王を討つべく、行動を開始した。

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