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15 攻略隊-第1層

 ギルドで2時間おきに発表される近況は、攻略隊の本体ではなく、「付いて行き隊」の引率職員からの報告だ。


 朝五時に出発した攻略隊は、8時過ぎにはダンジョンに入っていった。

 その後を少し離れて、いくつかのギルドで募集された「付いて行き隊」がそれぞれ入って行った。冒険者隊がダンジョンに入ったのは9時頃だったようだ。


「朝の発表は11時頃だったんだけどさ、入り口に今まで無かった看板が立ってたって。

 えっと、

 薬草の森へようこそ、だったかな。

 で、

 第1層2つのお約束

 1.薬草は根こそぎ取らない

 2.笑い袋は無害なので攻撃しない

 って書いてあったっぽい。

 なんでも、ケラケラ笑う気持ち悪い袋みたいなのが飛んでて、上を気にして歩いてた冒険者がうっかり転んだら、その袋があちこちから集まってきて笑ったらしいぜ」



 その看板は僕が立てたやつだ。

 ルールを広くお知らせしたい方法を聞いたら、他のダンジョンでは石の扉に文字が彫ってあったり、道に矢印を描いておいたりする場合もあるという。


 入って早々の調査隊本隊のメンバーが、試しに笑い袋に攻撃を仕掛けたが、矢が当たるや否や、奥の森の木々から今まで飛んでいなかった矢羽が一斉に何百羽も出てきて、上空からだけでなく、四方から、矢を射た兵をくちばしや爪で襲ったそうだ。


「その人、大怪我をした後フッとその場から消えて、みんな慌てたわけだけど、なんのこたあない、入り口のすぐそばの安全地帯に転送されてたってさ。今のところ命に別状はないけど、結構な大怪我で、指揮官の命令で笑い袋はとりあえず様子を見て、無害なら手を出さない方針にしたってよ。

 そういえば、抽選に外れたからって前日から乗り込んでた冒険者も、泥だらけで入り口に転送されてたらしいぜ」


 まずは死人が出なかったので、良かった。

 コイルは慌てて現状確認だ。


「(フェイスさん、そっちの調子、どうですか?入ってきた人とか魔獣の皆さんとか、無事ですか?)」


「(マスター・コイル、こちらは順調です。今、第2層の罠で、人々は泥だらけです。人々の悲鳴と笑い袋の声があちらこちらで聞こえて、近年稀にみる大盛況ですね。すでに数人、入り口に転送しましたが、採算は取れています。こちら側にも負傷した魔獣は居ますが、避難できたので問題ありません。休憩中の魔獣たちが結構な数、第2層に来て、こっそり陰から見て、悦んでいます。参加したいという要望がありますが禁止しています)」


 フェイスは大入り満員にほくほくの様子。魔獣たちのストレスも、殺し合いよりは微々たるものかもしれないが解消されているらしい。

 コイルはほっと息をついた。


「ふうっ(了解です。ありがとう。皆さん安全第一で、気を付けてね)」


「ん?どうした?ああ、そのけが人なら、無事ダンジョンから出て、今こっちに搬送されてきてるらしいぜ。何しろダンジョンの外にも、結構な人数の後方支援部隊が待機してっからな。泥だらけで出てきた冒険者も、治療受けて今は事情聴取中。ま、治療費は後で請求されっけど」


「なら良かったです」


「あとは、薬草は今までと変わりなくて、調査隊はもう第2層に入ったらしいけど、冒険者ギルドの付いて行き隊は今からだって。あ、にいちゃん、名前何ってえの?俺、翼。ツバサって名前。よろしくな」


「あ、はいこちらこそよろしくお願いします。僕、コイルです。翼さんはこの辺りの出身ですか?僕、来たばかりで。カンサーイの近くに居たんです」


「そんな、かたっ苦しく喋んなくても大丈夫だって。

 俺もあっちこっち旅してるからなあ。出身とか、忘れるくらい。はは。カンサーイにも1年くらい居たぜ」


 それから、食後のコーヒーを飲みながらお互いの身の上話を少しした。


 まだ20代前半に見える翼は、王都トウキョウ出身で、ヤマト大国をかなりあちらこちら旅して歩いている。病弱だったこの世界の両親が、「心に翼を持って軽やかにこの世界を飛び回ってほしい」と願って付けたこの名前をとても気に入っていて、前世の記憶が戻ってからも家族仲良く暮らし、成人してからは遠出できない両親の代わりに、冒険者になって、あちらこちらを旅しては、土産話を持って帰った。

 両親が亡くなってからは帰る必要もなくなったので、家を引き払ってリュック一つで、そこに1年、あそこに半年と、転々と拠点を移しながらずっと旅を続けているそうだ。


 コイルはカンサーイで幼馴染と仲違いしてから、1人でこっちに来た話をした。


「そっかあ。喧嘩したんだな。ま、時がたてば、そんな喧嘩もただの懐かしい話になるけどな。いつかまた会えると良いな、その幼馴染たちに」


 翼はその人生よりももっと、ずっと前を懐かしむような、遠い目をして呟いた。



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