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第11話 飛びウサギたち

 島に足を踏み入れたとたんに、目に入ってくるのはたくさんの飛びウサギたちだ。動物の野ウサギよりも大きくて、柴犬くらいはある。魔物だから、普通だったら人と出会えば瞬時に飛び掛かってくる。

 飛びウサギの跳躍力は凄いんだよ。

 薬草の森の飛びウサギたちは襲わないように言い聞かせていたけれど、勝負で冒険者をやり込めようと虎視眈々と狙っていた。


 けれどこの島の飛びウサギたちは、大きいだけで普通の野ウサギのように見える。一緒に船から降りた人たちが、持っている鞄の中から野菜を手に持って差し出すと、大人しくそれを食べ始めた。


「それって普通の野菜なんですか?」


 コイルが近くで餌をあげているおじさんに聞いてみる。


「ああ、お前さんらは旅の人か。そうだよ。ここのウサギたちは、こうして野菜を食べさせると撫でても嫌がらないんだ。宿の人は教えてくれなかったのか?」

「あ、いえ。聞いてたんだけど、ちょっと観光に来ただけだから餌やりはしなくていいかなって思って」

「そりゃあ勿体ねえよ。ここでの醍醐味は他じゃあ味わえない平和な自然とウサギたちとの触れ合いだ。仕方ねえなあ」


 そう言うとおじさんは鞄の中から細く切った人参を4本出して、コイルたちに手渡した。


「ちょっとしかないが、分けてやるよ。この季節はウサギたちが気が荒くって、餌がないと触らせてくれないんだぜ」

「あ、ありがとう」

「いいってことよ。俺も地元民だし、このダンジョンを好きになってほしいからな」


 聞けば、ダンジョンの入り口である船着き場付近の草原が、一番飛びウサギたちが多いらしい。草原の端に宿屋があって、その奥は木がまばらに生えた林になっている。

 だが観光客はほとんどそっちには行かずウサギに飽きたら海の方へ行く。ダンジョンという閉ざされた空間の中だから、ここは海に魔魚がいない。つまり、水遊びができるのだ!

 なるほど、それがこのダンジョンが観光地として成り立っている理由なんだね。もう少し暑くなると海水浴目当ての人が大勢来るので、その前にはロゼの領主が大量に野菜を撒いて、飛びウサギたちの気を静めるって。


 いろいろと教えてくれた親切な地元のおじさんに、何度も礼を言う。そしてその人参を持ったまま、コイルたちは島の奥の方に向かった。


「マスター、あたしはあんなに覇気のねえ飛びウサギ、見たことがないぜ」

「大きな野ウサギのようだったね」

「野ウサギといえども、もう少し気概があろうな。ローズの秘薬の効果かのう」

「あっ! ねえねえ、コイル。あれみてー」


 話ながら歩いていると、リーファンが突然声を上げた。

 その指さす方を見ると、ここまでまばらに生えていた木々が途切れ、小さな石が敷き詰められた丘が現れた。そして林との境目は少しだけ揺らめいて見える。


「第二層だ!」

「そうだねー。あまりダンジョンという雰囲気じゃないけど、ちゃんと層があるんだなあ」


 のんびりした言い方とは裏腹に、リーファンの緊張感が増した。

 マイもカガリビも、ちょっとだけ無駄口が減る。

 多分大丈夫な気はするけれど……少しだけみんなを見習って、コイルも緊張してみた。


「ひひーん」


 ポックルが軽く鳴いて、コイルを鼻先でつつく。

 緊張するなと言っているようだ。

 そうだね。いつもどおりが一番だよ。


 林を抜け、第二層へと入ったコイルたち。石ころだらけのなだらかな丘を登って行くと、どこからともなく、たくさんの飛びウサギが集まってきた。そしてコイルたち一行をぐるりと取り囲む。ただ、コイルのギフトのせいで近くまでは寄れないんだろう。遠巻きに何十匹もの飛びウサギが、じっとこちらを見つめる。


 そして丘の上から誰かが歩いてきた。

 艶めくアッシュグレーの髪をした、美しい若い男だ。その頭のてっぺんには、特徴的な長い耳が付いている。


「あなた方……ダンジョン破りですね」

「それは違……」

「私には分ります。私がここのダンジョンマスターですから」


 ウサギ耳の男は、言葉を荒げるでもなく、ただ静かにそう言った。


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― 新着の感想 ―
[一言] ダンジョン破りというか、観光客というか…… 次回あたりはダンジョンの成り立ちとかのお話かしら
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