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 賑やかな宿屋の食堂の片隅で、5人の少年少女が深刻そうな顔で話し合いをしている。


「コイルには悪いけど、もう、このパーティーから抜けてほしいんだ」

「ごめんね。せっかくここまで一緒に頑張ってきたんだけど」

 体格の良い男前な少年が口火を切ると、かぶせるように優し気な垂れ目の少女が言ってきた。


「そんな……急に言われても困るんだけど」

 コイルと呼ばれた少年が、こぶしを握り締めながら小さな声で反論する。


「急じゃないさ。一緒に仕事をし始めて、もう半年、ずっと思ってた。ずっと後ろにいて戦えない君と一緒にダンジョンに潜る意味ってあるんだろうかって」

 神経質そうなメガネの少年が言う。隣の女の子も何度もうなずいている。

「コイルが悪いんじゃないのは、わかってるんだ。しょうがないよ。ギフトのせいだから。でも、俺たちが戦ってるときにじっと後ろにいるだけで、報酬はしっかり等分に分けてるだろう」

「私たち、まだまだ初心者だから、どんどん戦って実力をつけなきゃいけない時期なの。あなたがいると、敵が近寄ってこないし」

「コイルならもっと上級者でも、一緒についていけるだろう。ガイナスさんたちの荷物持ちに雇ってもらったらいいんじゃないか?」

「そうそう。ガイナスさん、あなたのギフトをすごく褒めてたよ」


「そんな……荷物持ってガイナスさん達についてくなんて、無理だよ」

 まくし立てる体格の良い少年と垂れ目の少女に、少し後ずさりしながらも、コイルが反論する。


「けどまあ、君のギフトなら一人でダンジョンに潜っても死ぬことはないだろうし、僕たちにはまだ、君を荷物持ちに雇うほどの甲斐性はないから」

 隣の少女も相変わらず黙ってうなずいている。

「もう気付いてるかもしれないけど、私たち付き合い始めたの」

 垂れ目の少女が言う

「コイルには悪いけど、部屋割りとかも、今みたいに男女で分けるんじゃなくて……違う分け方にしたいんだ。そうすると、お前、一人部屋だろ。いっそ、パーティーから抜けたほうが、すっきりすると思わねえ?」


 どうやらもう、話し合いの余地はないらしい。

 コイルはうつむいて、小さくうなずいた。

「じゃあこれ、今日の分の分け前だから。ちゃんとみんなと同じ金額に分けてるからな!お前、金貯めてるみたいだから大丈夫と思うけど、頑張れよ!」

「じゃあね。元気で」

「田舎に帰るなら、母さんたちによろしく伝えておいて」


 すっきりした顔の少年少女たちが、それぞれの恋人同士で手をつないで、笑いながら食堂を出て行った。


 うつむいたままブツブツと何かをつぶやいているコイルに、さすがに遠目で見ていて心配したのか、食堂の店主が寄ってきた。

「おい、坊主、大丈夫か?今日の払いは、あいつらから取っといたからな。もう少し何か食べてくか?」

 店主の言葉に、ガバッと顔を上げたコイルは、満面の笑顔だ。

「え、本当?ありがとう、おやっさん。じゃあ、かつ丼お替りね!」


「お、おまえ、全然落ち込んでねえじゃん。ま、いっか。メソメソされても売り上げに響くしな。じゃあ、かつ丼作るからちょっと待ってろ」


 笑いながら奥に引っ込む店主に、周りの客もほっと息をつく。


 社会に出たばかりの少年たちには、こうした諍いはよくある事だ。働き始めて、初めてわかる性格の違いというのもあるだろう。特に冒険者は、互いに命を預ける関係だ。気が合わない同士で組んでもうまくいくわけもない。

 とはいえ、15歳かそこらで、仲間からはじき出された少年が、どんなにか落ち込んでいるだろうと、周りの客たちも気をもんでいたようだ。


 一人がコイルに声をかけた。

「それで、坊主はこれからどうするんだ?」


「うん、畑を作ってね、自給自足してのんびり暮らす!」


 元気にこぶしを振り上げたコイルの顔は、心からの笑顔で輝いていた。




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