写真、ただで撮ります…
「結婚する人の写真、ただで撮ってくれるんだってー」
「ねー、カナメくん。これ、どうかな?」
「どう、って?」
「頼んでみない?」
「…。」
私たちは、地震で被災した。
そう。あの地震。東日本大震災。
あれから、お互いずいぶんいろいろあって、
それでもふたりで”結婚する”っていう気持ちだけはかわらなくて。
そんな時にふとテレビで見た、写真屋さんの企画だった。
実際に撮ってもらっている人たちの映像が流れる。
「しあわせそー…」
ぽつりとつぶやいた。
カメラの向こうでは『笑顔がいっぱいの家庭をつくりたいです』と
これまた満面の笑みで言っている。
「ねー。カナメくん。これ、いいよ!私たちも頼もうよ!」
カナメくんはどうもいまいちだったみたいだけど。
「クルミちゃんがそうしたいなら、いいよ」
いろいろあった震災からのこれまで。
「だってさー、私たち、これからもここに住んで、ここで生きてくんだよー」
「…そうだな。…」
「ふたりだけで結婚式挙げようよ。まあ、写真だけでもいいじゃん。」
「クルミちゃんにはかなわないなあ…」
できれば住むのは、それでも海のそばがよかった。
毎朝ふたりで歩いて海へ行く。
朝陽と海の波音をききながら、流木にすわってバスケットから
とり出すサンドイッチとコーヒー。
ふと見ると、サーフィンをしていた男の人が、
海に向かって静かに一礼しているのが見えた。
「あの人も海がすきなんだな…」
そう思うと、嬉しかった。
「海、入っちゃおうか?」
「うん!!」
カモメたちといっしょに、私たちは、朝の海から、ほんの少しだけ
ごほうびを、いただいたのだった。