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06_お節介な冒険者

【前回までのあらすじ】

冒険者ギルドに乗り込んだ奥様。

受付の子が、とても可愛いです。

「お嬢さん、あなたのような方が冒険者になるなど無謀過ぎる」


 その冒険者は、金の象嵌が施された銀色の胸甲と、両手にガントレットを装備していました。

 魔術強化され、うっすらと青みを帯びた装備は、冒険者風情には過ぎた品です。

 銀色の髪を短く切り詰め、中性的な容貌ですが、繊細な顎と声質は明らかに女性のものでした。

 女冒険者は不遜な眼差しで、奥様を睨んでいます。

 ――――この無礼者、どう始末してやりましょうか?


「ミルチルちゃんていうの? 可愛い名前ね」

「あうあうあう」

 奥様? 受付嬢の頭を撫でている場合ではないですよ?

「あの、お嬢さん?」

「わあ、ミルチルちゃんの髪、柔らかいわねえ! 懐かしい手触りだわ!」

(奥様? 奥様?)

(ふわふわさらさら、ふわさら!)

「そのう、もしもし? 聞いていますか?」

(奥様! 奥様っ!!)

(なんだ! 余は忙しいのだ、後にしろ!)

(いえ、そこの無礼者が、奥様に用事があるらしいのですが…………)

 奥様が受付嬢の髪を愛でるのに夢中なので、女冒険者が困ってますよ?


 咳払いした奥様が、すまし顔で向き直ります。

「何か御用でしたか、騎士様?」

「き、騎士!?」

 途端に顔を紅潮させる女冒険者。彼女は、あたふたと両手を前で振ります。

「わ、わたしはそんな大層なものではない!」

「そうでしたか? それは失礼しました。その毅然とした立ち振る舞いから、てっきり」

「いや、その…………」

 女冒険者が、頬を掻いてテレまくります。

「それでミルチルちゃん? 冒険者登録には、どんな手続きがあるの?」

「いやちょっと頼むから聞いてくれお嬢さん!」

 我に返った女冒険者が、奥様の肩に手を掛けました。


 ――――魔王たる陛下の玉体に、許しもなく触れたのです。


(奥様? この痴れ者、成敗してもよろしいですか?)

「ぬっ!? なんだ!」

(馬鹿者! 気配が漏れているぞ!)

 女冒険者が、鋭い目付きで身構えました。人族風情にしては、なかなかの勘の冴えです。

 しかし改めて気配を断ったので、気付かれずに済みました。

 女冒険者は首を傾げつつ、奥様を諭します。

「いいですかお嬢さん。その衣装を見れば、他国からいらしたように見受けられますが、冒険者は過酷な職業です。ましてこの町は、北の山脈から流入する幻獣を押える拠点なのです。あなたのような一般人が、近所へ買い物に行くように気軽にできる仕事では――――て、ミルチル! それは登録票ではないか!」


「だってこの方が強引に無理やり」

 栗鼠獣族の少女、ミルチルは困り顔で登録票とやらを奥様に手渡します。

「あら、人聞きの悪い。あとペンを貸してくれたら、ほーらもう一個、ね?」

「あーん♪」

「買収されるんじゃない!」

 飴玉と引き換えに、手続きを進めていくミルチルを、女冒険者が怒鳴りつけました。


「どうしたの、いったい?」

 受付の奥にある部屋から、新たな人物が現れました。


 一気に、警戒度を最高レベルに引き上げます。

 気配遮断をさらに入念して、自らの存在を深く深く隠します。


「ミルチル? ディオネ? いったい何の騒ぎなの、これは?」

「「ギルドマスター!」」

 現れたのは、女冒険者よりも年上、人族にしたら二〇代半ばに見える女です。

「ひょっとして、エルフの方ですか?」

「はい、そうですが?」

 目を瞠って驚く奥様に、そいつは笑顔で頷きました。

 そう、いけ好かないエルフです。

 偏屈偏狭偏食と三拍子揃った、あの忌々しいエルフです。


「この町の冒険者ギルドのマスターを務めている、シルファ・シルヴィンです」

 エルフには珍しい黒髪。ですが、髪を分けて覗く先細りの長い耳は、明らかに森の民の証し。

 ピンと芸術的に尖った奥様の御耳と比べれば、毛の生えていないウサギの耳同然ですが。

「気軽にギルドマスター、もしくはシルファ・シルヴィンと呼んで下さい」

 全然、気軽ではありません。これです、この慇懃無礼さがエルフの本領なのです。


「これはご丁寧に。わたしはローズと申します。本日よりお世話になります、ギルドマスター」

 会釈する奥様の言葉に、エルフは眉をひそめました。

「あの、こちらの方が、冒険者登録の申し込みに来られて」

「ギルドマスター、あなたも止めてください!」

 ミルチルと、女冒険者が、口々に訴えました。

 それぞれの言い分に耳を傾けていたエルフが、なるほどと頷きます。

「よろしい、では試験をいたしましょう」


「「「はっ?」」」

 奥様、ミルチル、女冒険者が声をあげます。

「その試験に合格したら、冒険者登録を認めましょう。試験官はディオネ、あなたにお願いします。課題は薬草採取、オトメヨモギ一〇株をお願いします」

 エルフの言葉に、奥様は首を傾げました。

「あの、冒険者登録に試験というのは初耳ですが」

「確かに冒険者ギルドの規定では、一五歳以上なら男女を問わず登録可能ですが」

 エルフが唇をほころばせました。愚かな人族なら、それが可憐な微笑に見えることでしょう。

 ですが――――



「ここでは、わたしがルールです」

 エルフとは、笑顔の裏で謀略を張り巡らせる種族なのです。

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