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39_奥様の天敵みたいなもの

【前回までのあらすじ】

冒険者ギルドで出会った、子供の姿をしたグノム。

わたしとしたことが、まんまと外見に騙されるとは。

 この大陸にはエルフや魔族など、はた迷惑な種族が数多く存在します。

 その中でもグノムは、特にうっとおしい種族といえるでしょう。


 グノムは幼い子供の姿で成体となり、その後は老化しません。

 性格は享楽的で悪戯と騒動を好み、後先をまったく考えない。

 性別比で圧倒的多数を占める雄性体は、とにかく好色。

 対象の年齢や種族を選ばないという無節操さなのだとか。


 先ほどミルチルに抱き着いていた光景を思い出しました。

 外見は幼く見えても、グノムの五五歳は中高年に相当します。

 つまりは、言語道断な狼藉だったということで、


『刎ねましょう』


 ええ、首から上を。きれいに。すっぱりと。

『…………そこまでしなくてよい』

『どうしてですか!』

 あのグノムを、このまま野放しにはできません。

 ミルチルの貞操を、断固死守しなくては!


「ウィッキー、問題を起こさないでちょうだいね」

「だいじょーぶ! ボクにまかせてー!」

 注意する黒髪エルフに、胸を張って応じるグノム。

 まったく話が通じていないことは明らかです。

「はあ…………」

 ため息をこぼすエルフ、普段の苦労が察せられます。

 いい気味ではありますが、自分の配下ぐらい躾けておきなさい。

 黒髪エルフは奥様とグノムを見比べると、そそくさと立ち去りました。

 ……ひょっとして、逃げた?


 黒髪エルフがいなくなった途端、

「ひゃあっ!?」

 奥様が、いきなり傍らにいたミルチルの腕を引き寄せました。

「ロッ、ローズさブッ!?」

 驚くミルチルの顔を、ご自分の胸に押し付けました。

 視界を閉ざし、さらに彼女の両耳も塞ぐ念の入れようです。

 他に人気はないので、これで目撃者はいなくなりました。


「この娘に触れることは許さん」


 ジタバタもがくミルチルを抑え込みながら、鋭く命じる奥様。

 底冷えするような眼差しで、グノムを睨みます。

「えー? どうしてー?」

 グノムは、あどけない表情で首を傾げました。

 よほど鈍感なのか、魔王の威圧にも動じる気配がありません。


「仲良くなりたいだけなのにー?」

「駄目なものは駄目だ」

 グノムに道理は通じませんから、ダメの一点張り

 奥様はミルチルをかばい、腕に力がこもります。

 加減しないと胸で窒息しちゃいますよ?

 それを見て、グノムは羨ましくなったのでしょう。

「ぼくにもー!」

 両手を掲げて駆け寄りますが、させるものか!

 しかし、わたしの機先を制し、奥様が素早く詠唱します。

「ひょえっ!?」

 グノムが跳び退いた位置に、紫の閃光が弾けて消えました。

 殺傷力が低い、麻痺の呪文のようです。


「…………これを避けるか」

 奥様、ちょっと唇を噛みます。とっても悔しそう。

 チチッ

 同じ麻痺呪文を、今度は短縮高速詠唱で発動。

 これならば詠唱から発動までの時間が、大幅に削れたはず。

「うわわわっ!」

 なのに、またしてもグノムは回避し、閃光が虚しく弾けました。

「ねーねー! もーいっかい! もーいっかい!」

 遊び感覚なのか、はしゃいだグノムが催促します。

 あ、奥様のこめかめに青筋が。


 チチッ チチッ チチッ

 小鳥が囀るように、短縮高速詠唱を連発しました。

 冒険者ギルドのフロアー内で、紫の火花が次々と炸裂します。

「あはは! 楽しーねー!」

 ですがグノムは、目まぐるしい動きで避け続けました。


 長い歴史の中で、グノムは生存に関する能力を特化させたのだとか。

 結果として戦場だろうが災害だろうが、しぶとく生き残る種族になったのです。

 このウィッキーとやらは、特に直観力と敏捷性に優れた個体なのでしょう。

 魔法の予兆を察知して避けてしまうなど、生半可な芸当ではありません。


 ケラケラ笑いながら、逃げ回るグノム。

 その跡を追うようにして、数珠つなぎに炸裂する魔法の火花。

 ――まずいですね。奥様、そうとうムキになっています。

 冷静さを失い、完全に引き際を見失った状態でした。

『そろそろお止めになった方が』

 忠告した時、すでに遅く。

「うぐっ!?」

 奥様が呻いて、詠唱が中断しました。

『奥様!』

『…………イタい』

 いわんこっちゃない、舌を噛んじゃいましたね。


 短縮高速詠唱は、極論すれば超早口な詠唱。

 失敗すれば舌を噛み、悶絶する危険と常に隣り合わせなのです。

 奥様は涙目になり、泣き出しそうな顔で痛みを堪えます。

 ふむ、たいへん可愛らしい。眼福です。

 ウィッキーとやら、敵ながらあっぱれでした。


「もうおわりー? もっとやろうよー!」

 そんなつもりがなくても、挑発に聞こえたのでしょう。

 奥様は頭に血が昇り、瞳が赤い輝きを灯した時です。

「――――え?」

 ぷらーんと、逆さ吊りになったグノムを見て呆然としました。


「イザさん!?」

 一人の巨漢が、ウィッキーの片足を掴んでぶら下げています。

 彼の名はイザ、先日奥様が看病した蛮族でした。

『いったいどこから現れた!?』

『普通にドアから入って来ましたけど?』


 まあ、気付かなかったのは、奥様の不注意だけが理由ではありません。

 イザの隠密行動が見事だったからです。

 死角に潜んで回り込み、トカゲのように素早く這い、一瞬の隙を衝く。

 蛮族とは、生まれながらにして優秀な狩人なのです。


「あれー? イザじゃん? ひさしぶりー!」

 宙ぶらりんのウィッキーが、ひらひらを手を振りました。

「二人は知り合いなのですが?」

 新緑の瞳に戻った目を細め、奥様が不審そうに訊きます。

「そうだよー? ぼくたち、友だちなんだー」

 グノムと蛮族が? ずいぶんと奇妙な組み合わせですね。

 イザは片手に掴んだグノムを、無造作に奥様に突き出しました。

 困惑する奥様に、イザが唸り声をあげます。

「どうぞ、好きにしていいよー、だってー?」

 イザの言葉が理解できるのか、ウィッキーが通訳しました。

 くねくねと嬉しそうに身をよじるグノム。

「好きにしてー!」

 奥様は頭痛を堪えるように顔をしかめます。

 どうもこのグノムには、説教も折檻も効き目がなさそうです。

 やっぱり刎ねますか、奥様?


 奥様はイザに事情を説明しました。

 粗野な外見とは違い、実際の蛮族は賢く思慮深い種族です。

 汎用言語は話せませんが、聞き取りに問題はありません。

 奥様が語り終えると、イザは目の高さにグノムを吊り上げます。

 蛮族の喉奥で唸るような言葉に、グノムはフンフンと相槌を打ち、

「わかったー!」

 すごく軽い調子で答えました。

「何が分かったのですか?」

「おねーちゃんのゆーことをきけってー!」

 奥様がもの問いたげなに見遣ると、イザが静かに頷きました。

 確信のようなものを感じさせる、堂々とした態度です。

「…………グノムにしては、随分と聞き訳が良いですね」

 さんざん手こずったせいか、奥様の口調は疑わしそうです。

「イザは友だちだからねー?」

「はあ…………」

 毒気を抜かれた奥様を見て、イザが空いた手を腰にやりました。

 紐でくくった三羽のウサギを掴むと、ぐいっと突き出します。

「これは?」

「おそなえだってー?」

 困惑する奥様に、ウィッキーが通訳します。

『お供え…………ああ、この間の治療代のつもりか?』

 蛮族、義理堅いですね。好印象です。


「まあまあそんな、気にしなくてもいいのに♪」

 口ではそう言いつつも、満面の笑顔で受け取る奥様。

『シチュー? それよりも煮込み料理に』

 よほど嬉しいのか、うっとりとウサギ料理のレシピに想いを馳せます。

 妖精を愛でる姫様育ちな奥様ですが、食材に関してはシビアでした。

 見た目が可愛い動物でも、平気でさばいてしまうのです。


 ご機嫌な奥様の様子に目を細めてから、イザは無言のまま踵を返しました。

「おねーちゃんたちー、またねー!」

 ウィッキーは逆さづりのまま手を振り、二人は立ち去りました。


『あの奥様? そろそろミルチルを放されては?』

『あ、いかん』

 慌てて谷間に挟んでいた栗鼠獣族の少女を解放したのですが。


 ホロローと、ミルチルは頬袋を膨らませて鳴きました。


「ミルチルちゃん?」

 奥様が問い掛けても、ミルチルから返事がありません。

 頬が真っ赤に上気し、潤んだ瞳は焦点が合っていません。

 さかんにホロローと鳴きながら、奥様にすり寄って甘える仕草をしました。


「ど、どうしたの?」

 明らかに様子がおかしいミルチルに、奥様が狼狽します。

『たぶん、奥様の魔力にあてられたのでは?』

「――――あっ」


 あれだけ魔法を連射したのですから、相応の魔力が体外に漏れたはず。

 奥様の芳醇で濃厚な魔力は、極上の美酒のようなものらしいです。

 体質によっては、嗅いだだけで酩酊してしまうそうです。


「…………おねーしゃーん」

「ふっ!?」


 ミルチルの甘え声に胸を射抜かれ、奥様が息を詰まらせます。

 頭を撫でると、ミルチルは嬉しそうに笑いました。

『なあ、しばらくこのままでも…………』

『…………気持ちは分かりますが』

 このぐらい育つと、魔王城の見習い達は甘えてくれませんからね。

『ですが傍から見たら、さっきのグノムと同類ですよ?』

『それは最悪だな』

 奥様は名残惜しそうに、魔法でミルチルを治療しました。

 ミルチルは目をパチクリさせて、すぐに正気に戻ります。


 そして奥様が手にしたウサギの死体を目にして、悲鳴を上げたのでした。

【次回のよこく】予約掲載設定:来週_2024/11/18_月曜日 PM12:10

『40_領都アレキスタール』

そういえば、領都の方はどうなっているのでしょうね。

女官長の連絡によると、竜族どもが…………

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刎ねるのではなく、切り落とすべき。
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