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31_いざ、ピクニックへ!

【前回までのあらすじ】

なんか竜族どもが、魔王城にちょっかいを掛けてきました。

本当に昔から迷惑な連中です。またお仕置きが必要ですね。



 本日、奥様と旦那様は町の外へピクニックです。


 二人きりではなく、孝行娘のマヤと、その弟二人も一緒です。

 お気に入り達を従えた奥様は、とってもご機嫌でした。

 男の子達と一緒になって、大はしゃぎです。

 ほら奥様、あちこち走り回らない。まっすぐ歩きなさい。


 辺りは春の日差しに照らされ、芽吹いた緑が柔らかに映えていました。

『でも、ほんとにいいのでしょうか?』

 ――そんな穏やかな光景の中で、わたしには懸念があったのです。


 ここ北限の町はベルクドと呼ばれ、人族のエルランド公国に属しています。

 その前身は幻獣を迎え撃つための、公国軍の駐屯地だったとか。

 幻獣討伐の仕事を冒険者が引き継ぐと、駐屯地は町へと発展したそうです。

 時代が移り変わっても、その役割は変わりません。

 幻獣迎撃の最前線を支える補給基地、それが北限の町ベルクドなのです。

 全部、奥様の受け売りですが。


 そして冒険者が迎え撃つ幻獣は、魔石を核とする疑似生物。

 極北の地から南下して、種族を問わず襲い掛かる習性があります。

 大陸に生きる全ての者にとって、面倒迷惑千万な存在でした。


 南下する幻獣の数は季節によって変動し、冬場は極端に減ります。

 極北の地を囲む山々に雪が積もり、幻獣を足止めするからです。

 ですが今は春、雪解けの季節なのです。


 幻獣の南下が本格的に再開しました。

 果たしてマヤ達を町の外に連れ出し大丈夫なのでしょうか?


『幻獣が活発な時期の方が、逆に安全なのだ』

 心配するそぶりもない奥様、癪に障るぐらい平然としています。


『どうしてですか?』

『幻獣の南下に備え、冒険者達が町に戻ってきた』

 冒険者が幻獣を討伐するのは、その核となる魔石を得るため。

 人族の間では、魔石は高値で取引されているそうです。

『冒険者達は競い合って遠征し、ここにたどり着く前に幻獣を狩り尽くす』

 奥様は振り返って、ベルクドの町に目を向けました。

『物見櫓から周辺一帯を監視し、異常があれば警報を出す仕組みにもなっている』

 町中で見掛けた櫓は、そういう意味があったのですね。

『万が一幻獣が現れても、避難する余裕は十分にある』


『ですが……』

『余も旦那様もいるし、子供達は安全だ。そんなに心配するな』

『別に心配なんてしていませんけど?』

『はいはい』

 なんですか。言いたいのことがあるのなら、はっきり言ってください。


「おねえちゃん、手をつないでー」

「おててー」

 マヤの弟達、ローンとアルが奥様に手を差し伸べました。

「いいわよ、はい♪」

 幼い子供に懐かれ、やにさがる奥様。だらしのない顔です。

 繋いだ手をブンブンと振り、三人とも実に楽しそうでした。


 子供達の両親、レトとマーサは留守番です。

 というか、たまには夫婦水入らずで過ごさせてやろうという奥様の計らいなのです。

 弱っていたマーサの体調も、最近では奥様の薬のおかげで回復してきました。

 もしかしたら今頃は、二人して町中に繰り出しているかもしれません。

 レトは旦那様に、マーサは奥様に大きな信頼を寄せています。

 それもあって、子供達を町の外へ連れ出すことを認めたのでしょう。


 旦那様は、大きなバスケットを両手に提げて付き従っていました。

 弟達ばかり構う奥様に放置され、少々哀れを催します。

 ふと旦那様が、隣を歩くマヤを見下ろしました。

 キョロキョロと辺りを見回して、明らかに挙動不審だったからです。

「どうかしたのかい?」

「え!? ううん、なんでもないです!」

 不思議そうに旦那様が尋ねると、慌てた様子で手を振り回しました。


 マヤは一度、わたしの姿を見たことがあります。

 それからです。ああして、何かを探す素振りを見せるようになったのは。

 言いつけを守って誰にも話していないようですが、困ったものです。


 奥様達一行は小川のほとりにシーツを広げ、荷物を下ろしました。

 わたしは念のため、上空に昇って周囲を警戒します。

 奥様はああ言っていましたが、冒険者達のことです。

 うっかり全滅して、大量の幻獣がなだれ込んでこないとも限りません。

 ふむ、そういえばディオネ達も遠征に出かけていましたね。

 奥様と離れ離れになることを、ディオネは相当嘆いていましたが。


 奥様とマヤ達は、ピクニックを堪能しました。

 靴を脱いで小川に入って、水の掛け合い。

 三人から集中攻撃を受け、たくし上げたスカートがびしょびしょに。

 川遊びの後は、シロツメクサの髪飾りなども作りました。

 子供達の関心を引くため、奥様は沢山の草遊びを学んでいるのです。

 次々と草花を使った遊びを披露して、マヤ達の尊敬を集めます。

 すまし顔を保ちながら、奥様は得意の絶頂。

 楽しそうな奥様達を、旦那様はボーと眺めていました。


 そして鬼ごっこに興じていた時のこと。

 飛び跳ねていたローンが、バランスを崩して転びそうになったのです。

 手を伸ばして支えた奥様が、眉をひそめました。

 ローンの体を抱きかかえ、難しい顔になります。


『やはり、軽いな…………』


 さらにローンのお尻を掌で支え、手まりのようにポンポンと弾ませます。

 そこは魔族の王ですから、片手でも軽々と子供の体重を支えます。

『もうちょっと太らせないと』

『ほどほどにしてくださいね』

 魔王城の子供達に比べれば、確かに手足は細いですね。

 でも限度を知らない奥様には、しっかり釘を刺しておかないと。


「ぼくもー!」

 上下に跳ねて無邪気に喜ぶローンを見て、遊びだと思ったのでしょう。

 弟のアルが奥様の膝にしがみついて催促しました。

 すると奥様、両方の手のひらの上で子供二人をポンポンと弾ませます。

 弟達が大喜びな一方で、姉のマヤはオロオロと狼狽えます。

「もっと!」

「もっとー!」

「よおーし! しっかり口を閉じてねー!」

 調子に乗った奥様が、二人を空へと放り投げました。

 何気に高度な魔法を展開していますが、傍目には分かりません。

 空中を飛ぶ弟達の姿に、マヤは悲鳴を上げました。


「こら」

「あだっ!?」


 旦那様が、奥様の頭に拳骨を落としました。

 落下してきた兄弟を、綿毛のような柔らかさで受け止めてます。

「だんなさまひどい!?」

 頭を押さえた奥様が、涙目で旦那様を睨みます。


「やり過ぎだ」

「だいじょうぶですー。おとしたりしませーん」

 旦那様が注意すると、へそを曲げた奥様が子供っぽい口調で反論します。

「そうだね、でも他の人が見たら、びっくりするだろ?」

 旦那様が向けた視線の先には、地面にへたり込むマヤの姿が。

 腰が抜けて立てない姉に、弟達が無邪気にまとわりついています。

 バツが悪くなった奥様は、そっぽを向きました。


 意固地になった奥様を見て、ため息を吐く旦那様。

「…………これは、お仕置きかな」

 旦那様が、少々乱暴に奥様を抱き寄せます。

「ちょっ!? ちょっと旦那さまあ!!」

 ぐいっと顔が近付き、奥様が大いに焦ります。

『なぜ慌てているのですか?』

 普段は人目もはばからずにイチャついているのに。

『こっ! 子供の前でこれはマズいだろ!?』

 奥様が恥ずかしがる基準が分かりません。

「動かないで。これはお仕置きだから」

 身をよじって逃れようとする奥様の耳元で、旦那様が囁きます。

『お、オシオキッ!! ならばしかたないのか!?』

 何が仕方ないのやら。

 旦那様の口車に載せられ、ギュッと目をつぶる奥様。

 仕方がないと言い訳しながら、顎を上げて待ちの態勢です。


「チューだ!」

「ちゅーだ!」


 子供達に囃し立てられ、奥様が泣き出しそう。

 予想以上に効果抜群です。

 マヤも頬を染めながら、食い入るように目を凝らしました。

 奥様は湯気が出そうなほど真っ赤になり、小声で懇願します。

「し、舌はダメですからね!? わかっていますよね!!」

 いや。奥様こそ子供の前で何を口走っているのですか。


 チュッと、旦那様の唇が奥様の頬に触れました。


『…………えっ?』

「今後、気を付けるように」

 そう締めくくると、旦那様は奥様を解放しました。

『当り前じゃないですか、子供の前ですよ?』

 わたしは容赦なく追い打ちを掛けます。

『変な期待をしないで下さい、はしたない』


 奥様は、旦那様の胸板に額を押し付けると、

 ――ドンッと、腹に拳を打ち込みました。

「もうっ! もうっ! もおうっ!!」

 何度も罵りながら左右の拳で、えぐるような連打を繰り返します。


 奥様の髪を撫でながら、旦那様は呑気そうに笑いました。

【次回のよこく】予約掲載設定:来週_2024/09/24_火曜日 PM12:10

『 32_ガーデニングです』

花壇作りが趣味な旦那様には、不可解な点が幾つもあります。

例えばそう、実は旦那様は…………

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