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1章 1-2


 その夜、エリダは初めて他人と夕食を過ごした。それは楽しいひと時だった。

 いつもより多めにバラエティーよくご飯を作り、それを並べてエリダはアルバの対面に座る。

 そして、エリダはアルバにあれやこれやと外の世界を問う。逆にアルバもこちらのことをあれやこれやと聞き出した。特に代表者の事は詳しく聞いた。

「えっと、二年前は十七歳だったから、今は十九かな。あ、それでね、昨日誕生日だったから赤い実をたくさん軒先に置いたんだよ」

 微笑みが家中に響き渡る。すると、アルバは無理に微笑みながら呟く。

「そう、やっぱりそうなんだ……」


 その後は二人で片づけをして、アルバに見送られるようにベッドに横たわる。

 正直なところ、今日はベッドをアルバに貸すつもりだった。だけど、僕は床でいいよ、とアルバは言ったのだ。

「だったら代表のお兄ちゃんから毛布でも借りようか?」

 エリダは提案したが、アルバは一顧だにして首を縦に振らなかった。仕方なくエリダはアルバに見守られる形でベッドの上で瞼を降ろした。


 だけど物音がした。それで目が覚める。

 陽の光はない。まだ朝ではない。確かめるようにエリダは窓を覗きこんだ


 外は意外と明るい。

 空に雲は無く、満月だからだろうか、月光が地面を映し出す。

 ――と、その地面に人影が映し出される。オーバーオールにキャップをかぶった少女……アルバだ。

 振り向くと彼女はいない。やはりアルバは外に出たのだ。


 再び視線を窓の外へ。すると、アルバは壺のようなものを抱えて真ん中の夫婦の家に入っていく。しばらくしてから外に出ると、今度は静かに森へと歩いていった。


「……?」

 エリダは慌ててベッドから駆け下り、デニムワンピースを着て家を出た。アルバの後をこっそりと追った。

 だけど頭の中では警報が鳴る……その先へと行くな、アルバの後を追ってはいけない、見てはいけない、と。

 でも、足は前に出た。理性ではなく本能が秘密を知りたがる。

 だってこんな夜中に……それもエリダさえ顔を見たことのない夫婦の家に入った。それが気になって仕方ない。

 エリダは玄関に降りて、残骸を超えて、森をかける。


 視界にアルバを捉えた。壺を持ったまま坂を上っている。

 その道に見覚えがあった。

 そう、先には集会場を一望できる切り立った場所がある。夕刻にアルバを連れ出した所だ。


 その予想通り、アルバは坂を上って切り立った場所で立ち止まった。その場所は夕刻と違って真っ暗闇の入り口に立っているかのようだった。

 いくら月光で明るいといっても集会場など見えず、一歩踏み込めば、本に書かれた地獄へと連れて行かれる感覚に溺れた。


 そんな手前で、アルバはオーバーオールに括られていた小物入れから工具を取り出し地面に穴を掘る。

 本来の用途ではないにしろ工具は固い地面をくりぬき、アルバはそこに壺を入れ、土をかぶせ、元通りにする。

 もちろん壺を入れた分だけ土が盛り上がる。

 アルバはそこに落ちてあった木の枝を刺した。枝分かれしたそれは十字架のように立ちすさむ。


 それはまるで――。


「なにそれ?」

 途端にアルバの紅い瞳がこちらを向いた。澄んだ空気にエリダの声はよく響いた。

「なにそれ……」

 エリダはもう一回聞いた……でも、気づいていた。目の前にあるこんもりとした土がどういう物か。

 でも、認めたくなくてエリダは口を開いた。アルバが慌てて振り返って、背後のそれを隠すように身を反らせた。


「…………っ」

 次の瞬間、エリダは悟った。急ぎ足で駆け下りる。

「待って!」

 アルバが叫ぶ。だけどエリダは落ちるように、樹皮に肌をこすりつけるように森を抜ける。

 残骸には足を引っかけてこけたが、それでも走った。

 嘘だと思いたかった……嘘であってほしかった。


     ◇


 人生で一番長かった道のりをこえると、エリダは集会場の家という家の扉を開け放つ。

 お互いに顔を合わせない……そんなお触れなんてもうどうでもよかった。


 真ん中の家に入る。

 誰もいない。中は埃っぽくて、床は白くなっていた。床は所々抜けている。

 とても誰かが住んでいる様子ではなかった。実際誰もいなかった。

 ――そんな、そんな…………。

 エリダは外へ出る。そして、今度は右側の家へ。


「代表!」

 つい声が漏れる……が、やはり誰もいない。中は埃っぽくて、床は白い。周りにはすごく重たそうな、筒がついた鉄の塊があった。

 でもこちらはまだ救いがあった。どこか臭かったのだ。匂いは生活していた跡と言える。


「代表……どこにいるの? 代表のおにいちゃん……」

 一歩踏み込む。

 だけど、所々材質が腐っていたのか、ぬるっとした感触が足を麻痺させた。エリダは気持ち悪くて地面に視線をやる。

 目を細めると、何かを踏んでいることに気がついた。赤黒い何かを手に取った。


 瞬間、感触が……本能が気づく。

 これは――肉が放置された成れの果て。


 そして、月光が差し込む。

「ぁ……ァァぁああ―――――――――――――――――」

 エリダはすぐさまそれを投げた。そして、そこに映し出される紅い光景にエリダは吐きそうになって家から飛び出す。

 扉を投げつけるように閉め、膝をついて胸にこみ上げたものに必死に耐えた。その姿はアルバが代表者の家から出てきた時と同じだった。


 こうしてエリダは誰もいないことを知った。

 何が起きているかわからない……わからないままエリダはなんとか吐き気を抑える。

 だけどあまりのストレスで頭がぐらりとした。軒先に倒れこむ。


 世界がぐるりと反転した。暗い闇と星々が嘲るように笑う。

「そんな、そんな……みんなが、死んでいる、なんて……」

 苦痛で気絶することはなかったが、エリダはそれがすごく物悲しかった。いっそのこと悪夢であればよかったのに。

 目が覚めれば普通に父と母がいて生活をしていて……そんな情景を思い浮かべる。


 でも、そこでまた気が付いた。

 父と母。

 彼らは今どこにいるのだ?

 物心ついたころには代表のお兄ちゃんと一緒だった。だから気にしていなかった。気にしないようにしていた。でも……。


「大昔……今では『古代』と呼ばれる世界があった」


 ふいに背後から声がかけられた。振り向くとそこにはオーバーオールを着た少女、アルバがいる。

 荒い息遣いもなく、じっとエリダを見ていた。瞬きもなく、紅い目が瞼というベールを脱いで、夜目のごとく獲物を睨む。その姿は人間であって人間ではないように映る。


 考えてみれば、荒い息遣いが一つもないことがおかしい。例え年上だとしても、整備されていない残骸を飛び越え、不慣れな森を歩き、あまつさえ坂を上り下りした人間が息を乱さないはずがない。

 普段から鍛えているならあり得るかもしれないが、アルバはどうみても体格が良いとは言えない。

 アルバはあくまでも、少女、なのだから。


 だけど、追いついた……いつも歩き慣れているエリダを差し置いて。


「それはもう発展した世界で『車』という古代の遺物がひとりでに走り、事故もない世界で、知識を共有した人々は静かに暮らしていた……死が一番遠かった世界だと僕は聞いている」

 そして、アルバは一歩近づいた。


「だけど、今は違う。エリダがいるのは変革された世界……流れ星が落ちた世界だ」

「ながれ……ぼし…………?」

 エリダは震えながら聞いた。アルバは優しく説き伏せるように頷いた。

「そう、何の前触れもなく流れ星が落ちた世界……『日本』という国に流れ星が落ちた世界」

 そして、アルバはさらに一歩踏み込む。

 と同時に、ドンッ、とすさまじい音が家の中から響いた。振り向くと同時に瞳の寸前に鉄の弾が映り込む。

 ――ああ、死ぬ。

 ただそれだけを思った。


 でも結局、鉄の弾が届くことはなかった。


 ふいに瞼を開けるとアルバが目の前に立っていた。そして左手の拳で何かをつかみ取っていた。

 その拳が開かれると中から音を立てて何かが落ちる……それは歪んだ鉄の弾だった。

「まだ真実を伝えるな、って言いたいんですか?」

 そう、文句を言いながらアルバはその紅い瞳でドアをにらみつけた。その姿は死者を地獄へ導く光のようだった。


 と同時に穴の開いたドアが耐えられなくなってゆっくりと開き、エリダは息を飲んだ。

「ひっ!?」

 エリダは一歩引いた。


 そこには人間を思う存分腐らせた何かが、歯をむき出しにして立っていた。伸びた手も、足も、頭も、身体さえも形を保てているのが不思議なくらい、ただ臭いだけの別の何か。


 それを見て、アルバは語る。

「流れ星が落ちた古代の世界は瞬く間に衰退していった。その流れ星から《渡り鳥の一族》……紅い髪と紅い瞳を持つ者が現れたせいで」

 そんな中、臭いだけの何かは、落ちそうになる手の肉に黒いものを掴ませていた。家の中にあった筒のついた鉄の塊だ。

 刹那、黒い塊を掲げて、二発目の鉄の弾を撃った。すごい爆発音だ……耳が痛くなる。


 けれどアルバは今度ははっきりとエリダの目の前でその弾を掴んだ。

 ……いや、正確に言えば、左手で受けた、というべきだ。だけど鉄の弾はアルバの皮膚を破けなかった。

 そして、アルバはまるで気にもせず話を続ける。


「彼らは人であって人ではない――人外だ。子供であっても高い身体能力を持ち、何より触れれば呪いをかけることができる」

 そして、アルバはただ臭いだけの何かに優しく視線を向けた。

「あなたはそんな彼らから逃げてきたんですよね。エリダの両親と一緒に」


 ――やだ。それ以上は聞きたくない。

 直後、エリダの本能が呟いた。

 同時に臭いだけの何かが、怒ったように鉄の弾を打ち出す。けれどアルバはその弾をやすやすと握りつぶした。

「駄目ですよ。エリダは知らなくてはならない……今の代表者の姿を見てしまったのだから」

「え?」

 身体がびくっと震える。すると、アルバがぶかぶかの手袋で指さした。エリダは恐れながらもじっとその先をみつめる。

 そこには山のように置かれた赤い実があった。


 それで理解する……あれが、誰、なのか。


「代表のお兄ちゃんなの?」

「……っ!?」

 その時、ただ臭いだけ何かがゆっくり鉄の塊を持ち上げて、一気に三発撃った。その流れ弾が一発だけこちらに流れてくる。でもその手前をぶかぶかの手袋が塞いだ。

「……アルバさん!?」

 エリダは大声を出す。だけど、穴が開いたのはぶかぶかの手袋だった。アルバはいたって普通……そんな身体をアルバ自身苦笑いで微笑んだ……そして呟く。

「あれは腐食病かな……。身体の肉が次第に溶け落ちて死ぬ呪い」

「………………――――――――――――――――――」

 途端に、ただ臭いだけの何かが叫びをあげた。鉄の弾を打ち出す反動で腕がもげたのだ。

 だけど舌がないのか、その叫びは声にならない。声にさえできない。 

 エリダはえそら寒いものを感じて身体をさすった。


 一瞬でこれが、この世界のルール、とわかった。だけど初めて、酷い、と思った。

 本当に世界から、何も許されていないような、許さないと言われているような気がした。


 そんな中、アルバはただ臭いだけの何かに向かってゆっくりと一歩足を前へやった。エリダはその背をみつめる。

「……すぐ、楽にしてあげます」

 え……その声は冷たくエリダの心に刺さった。まるで声に押さえつけられているように身体は硬直する。

 だけど、ただ臭いだけの何かに寄り添ったアルバは左手を……ぶかぶかの手袋の紐を外して肌を見せる。真っ白で吸い込まれそうになる。

「何をするの?」

 エリダはアルバに問う……その時だった。


 風が吹く。


 まるで突風に吹かれたようにドアから舞い込んだ風に、エリダは必死に床に張り付いて目を凝らした。

 そして、エリダはアルバの本当の姿を見た……風に煽られたアルバのキャップから長髪が流れる姿を。


 その髪は半分が黒髪で……もう半分は紅い髪だった。

 紅い髪で紅い瞳。それは先ほどアルバ自身が語っていた《渡り鳥の一族》という人外の特徴に当てはまっていた。それを見てエリダは最初に『触るな』と言われた意味を悟った。

 そして、アルバがしようとしていることも。


 アルバはそっと呟いた。

「ごめんね。こうなったらもう元には戻せないんだ……」

 直後、静かにただ臭いだけの何かを抱いた。その手肌を頬に添えて。


 そうして、しばらくエリダは茫然とした。

 だけどそれは一瞬で終わった。

 抱きしめられたただ臭いだけの何かは……いや、代表のお兄ちゃんは一瞬だけ胸のあたりが勢いよく弾むと、あっさりとそれを受け入れ、アルバの掌で安らかに眠った。いわゆるショック死だったと思う。

 そうしてアルバはそっと代表を床に降ろした。正直、顔は腐ってぐしゃぐしゃだったけどなぜかきれいさっぱりしていた気がした。


 後に残ったのは鉄の塊。

 その時、振動に耐えかねて、赤い実が一つコロンと転がった。


 その瞬間、なぜか癪に障った。


 見守られてなどなかった。愛などなかった。そもそも自分と同じ存在なんいなかった。それだけではなく、お互いに顔を合わせない、なんてお触れを出して何も知らず踊らされていた。


 でも一番腹が立ったのは――。


 エリダは静かに立ち上がり、ふらつきながら歩を家へと向ける。その腕をアルバがぶかぶかの手袋がはめられている右手でつかみ取った。

 おそらくわかっていたのだろう……エリダもたった今旅立った代表の後を追おうとしていることを。

「よく聞いて。君に家を用意してあげたのは誰だい? 何のためだい?」

 アルバは問う。その言葉を聞いてエリダは力を抜いた。

「全て私のため……そんなのわかっている!」

 そして、油断したアルバの手を振りほどいた。


 そう全てはエリダのため。家も、井戸も、集会場にあるのは全て自分のためだ。だからこそエリダは耐えられなかった。大切にされていた事を知っているからこそ、置いて行かれた事が悔しい。

 エリダは無我夢中で走り出す。とにかく逃げ出したかった。家の中へ。そのまま台所に置いてあった果物ナイフを手に取った。アルバが後を追う。

「来ないで!」

 だが、エリダが刃を自身に向けたことで立ち止まった。そして、エリダは実感する。


「本当に死んだの……本当にいなくなったの……本当に独りなの……」

 喉がかすれる。きっと目頭には涙が溜まっているはずだ。勝手に啜り泣く声が漏れる。

「私も一緒に行きたかった……行きたかったよ」

 エリダは、なぜ置いて行かれたのか、がわからない。それを聞くために刃を胸に……その時だった。

「だったら僕がやる」

 アルバの声が月光と共に差し込んだ。


「エリダが手を汚すことはない。代わりに僕が逝かせてあげる」

 月光が少女を……いや、人外を照らす。半分紅い髪はとても月光に映えていた……まるでとても妖艶で、とても悲しい化け物に見えた。

 そんな中、アルバが無言のまま一歩進む。


「――あ、あ……」

 そうだ、アルバは――世界を滅亡させた原因。

 夜のとばりに紅い瞳孔が怪しく光り、半分だけの紅い髪が針のように心に突き刺さる……さらにアルバが一歩前へ。


 こっちに来る。明確な《死》がやってくる。


 怖い、こわい、コワイ……あれが来れば食べられる。肉が削げ落ち、ぐしゃぐしゃになって別の何かになる。視線をずらせば、すぐそこにその結末が広がっている。

 それは率直にして鋭くエリダの心を抉った。身体はぶるぶると震え、頭は首を垂れるように下がった。


 そんなことをする合間に気が付けば、アルバは目の前にたどり着いた。

 あと数センチで肌に触れられる距離。そして、アルバが左手を……掌をこちらに向ける。

 エリダは目をつむった。


「こわかっただろう?」


 ――ぽんっ。それは呆気ない幕切れだった。

 瞼を開くとアルバはエリダの持っていた果物ナイフを払い、ぶかぶかの手袋をかけた方でエリダの頭を撫ぜている。紅い瞳は瞼のベールで隠され、安心したようにほっと一息ついていた。

 途端にエリダは力が抜けてその場にへたり込んだ。


 だけど、エリダは何とか舌を回して言葉を口にする

「……どうして」

 アルバは静かに答える。


「エリダは優しいからね。《死》よりも《生》の方が似合うよ。きっとみんなもそう思ったんだよ」


 その言葉を聞いた瞬間、エリダの中の悔しさが削げ落ちた。涙があふれだす。同時にエリダはその胸に溜まったものを全て吐き出した……。


 ――なぜ代表は言ってくれなかったのか?

 ――なぜ誰も自分に相談してくれなかったのか?


「私だってここに住んでいる仲間じゃなかったの? バカ……」

 もっと頼りにしてほしかった……アルバは全てわかった上でエリダを撫ぜた。髪がしわくちゃになるまで、エリダが泣きやむまですっと撫ぜ続けた。


     ◇


 翌朝、エリダは集会場の手前でアルバを見送る。

 アルバは訪れた時と同じくオーバーオール姿でキャップをかぶっていた。

「一緒に来ませんか」

 そんな中、アルバはぶかぶかの手袋をエリダに向ける。でもエリダは首を横に振った。

「皆が残してくれた物を置いて行けません」

 苦笑いで、自分は不器用な生き方しかできない、と告げる。


 でも、本当はわかっていた。身体が、本能が、アルバと向き合うことを拒んでいる。

 昨夜の惨状が目に映って、足が震えるのだ。それを理性で必死に抑え込む。

 アルバは何も言わなかった。


「さようなら」

 別れの言葉を口にして、アルバは背中を向ける。そして、来た時と同じく、ざくっ、という足音を鳴らして去っていく。

 だからなのか、次第に身体は余裕を取り戻していた。今なら何か言えそうだった。

 ゆっくり息を吸って、吐き出す。


「でも、アルバさんはきっと違う。寄り添う誰かがいる……私はそう思う!」


 途端にアルバは驚いて振り返る。それから少し照れたように苦笑いして、被っていたキャップを外す。半分紅い髪が太陽の光で神々しく燃えているように映る。

「ありがとう。そんな事を言ってくれたのは初めてだよ」

 深い例と共にアルバは満面の笑みを見せた。その屈託のない微笑みは綺麗だった。

 そして、今度こそアルバは振り向かずに蒸気機関車へと歩き出す。


 しばらくして蒸気機関車は汽笛を鳴らし出発した。エリダはそれを見送り踵を返す。


 そこにあるのは三軒だけ建った家々。視界に移るのはあの痩せた土壌。

 静かなその場所に川のせせらぎが空しく響く。

「……」

 強くなってきた日差しに、汗がだらりと頬に流れた。エリダは額に手を当てて空を仰ぐ。


 ――その日から太陽は眩しく独りの少女を照らし出した。



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