プロローグ
――きらきらひかる おそらのほしよ。
――まばたきしては みんなをみてる。
そんな歌が脳裏をよぎる。
ずっと大昔にその歌を作った人は何を思ったのだろう。
――きらきらひかる……。
「おそらのほしよ」
同時にそれは音を刻む。
それは黒光りする乗り物。そして、《何か》を運ぶ乗り物。例外はない。
地を滑り、銀色のレールを頼りに先へ先へと進む。
周りは草原ばかり……街は一つもありません。
いや、正確には街はあったのです。
だけど今では残骸と化し、景色に溶け込んでいました。その中で乗り物はメロディーを刻みながら進みます。軽快に、かつ悲しく……ガタンゴトン、と。
すると、それに混じって少年が声を刻む。
「支援組織へ。こちら蒸気機関車。旧スベイン領に一名生存者あり」
つまるところそれには、とある少年少女が乗っていた。
「大丈夫。他の調査員が迎えに行ってくれる、ってさ」
一方、少女は空を仰いだ。
空は見渡す限り青い。
気持ちいいが、それが少女には皮肉に思えた。
だけど、そんな憂いを叩き起こすかのごとく黒光りする乗り物が汽笛を鳴らす。
名を、蒸気機関車、と言うらしいそれは銀色のレールを滑るように走った。
機関士である少年が、通信機を置きながら器用に操作している。
少女は再び視界を窓の外へ向けると今まで見えていた三つの建物がどんどん遠くなった。
「それで、なぜエリダという少女を連れてこなかったんだ?」
少年が質問する。少年は今もなお平然と操作していたが、同じ旅をする相方として少女を心配していたのだろう。
「おかしなことを尋ねるね。彼女がそれを選んだからだよ」
少女が答える。だけど少年は見抜いていた。
「そうか? また、自分が特殊だから、って遠慮したんじゃないか」
少年の言葉に少女は素知らぬ顔で目を逸らす。
「……言っただろう。彼女が選んだんだ」
少女は寂しそうに呟いた。少年はそれ以上問わない。ただぼそりと、『みんな違って、みんないい』ってやつか、と答えた。
「なにそれ」
「古代の格言」
そう、難しい事を言って少女を励ましていた。その言葉の意味は知らないが、少女は妙におかしくなって静かに窓から離れる。
「いつも思っていたけど、君って変だね」
「うっせー」
少年は耳まで赤く染めて呟いた。
そんな雑談をしながら二人を乗せて、ガタンゴトン……蒸気機関車は軽快な音を立てて前へ進む。だけど彼ら少年少女には行く場所があった。くすくす、と笑いながら、感慨から決別するために少女は呟く。
「さぁ、行こう。すべての始まりへ……日本へ」
こうして少年少女の旅は始まった。
自らの成すべき事をするために滅亡しつつある世界を渡り始める。