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疑惑の記事

篤史が事件の話を始めてから三十分が経った。時折、佐和子達スタッフが楽屋を出たり入ったりしていたが、話している篤史は気にならなかった。

四つ目の事件を話し終えた篤史は、一旦休憩するために紙コップに入ったお茶を飲んでいた。全ての事件を簡単に話すと次はどの事件にしようかと悩んでいた。

「あれ? 恵介は?」

行雄が楽屋内にいるはずの恵介がいないことに気付いた。

「トイレじゃない?」

秀美がお茶を飲みながら言う。

「そうかも...。でも、ついさっき出て行ったって感じじゃないと思うけど...」

加津が楽屋の外を見ながら言う。

その時だった。男性の大声が楽屋まで聞こえてきた。

「なんだろう?」

高志は廊下に出る。

それと同時に篤史も楽屋を出て走りだした。

「小川君!」

高志が篤史を呼ぶが気にしていられなかった。

篤史は瞬時に自分がいる階ではないと思い、下の階に下りるとイベントホールに向かった。篤史の予感は的中し、イベントホールの前では男性守衛官が腰を抜かしていた。

「どうかしましたか!?」

篤史は大声で近付きながら聞く。

「坂上さんが倒れていて...」

篤史に気付いた男性守衛官は落ち着かせるように答える。

それを聞いた篤史は恐る恐る中に入ると、恵介がナイフで刺されて倒れていた。










警察が到着して、第一発見者である男性守衛官とpositionの事務所関係者一同はホテルの会議室に向かった。

恵介はその場で亡くなったと聞かされ、相方の行雄はショックのあまり声も出せない様子でいた。会議室に入ってきた篤史を見た町田警部と水野刑事は驚いていた。

「なんで小川君がいるんや?」

事情聴取が始まる前に町田警部が聞く。

「positionのイベントに参加してて、イベント後に楽屋に行けるというクジに当たったんや」

篤史は自分好きなアーティストが亡くなりショックを受けていたが、気丈に答えた。

positionのファンだったのかと町田警部は思うと、篤史以外の全員に警察手帳を見せた。

「亡くなったのはpositionのメンバーの坂上恵介さん。相方は梶山行雄さんでよろしいですね?」

町田警部は行雄に確認する。

はい、と小さな声で返事した行雄は、これからどうしようと考えている様子だ。

「守衛さんにお聞きしたいのですが、あなたはなぜイベントホールに来たのですか?」

町田警部が男性守衛官にイベントホールに来た理由を聞く。

「イベントが終了して、きちんと片付けが終わっているのかを確認するために来ました」

恵介を発見した時より落ち着いて答える男性守衛官。

「それで坂上さんを発見したという事ですね?」

「そうです」

「なんで恵介が殺害されないといけないんですか?」

佐和子は男性守衛官が答えたのと同時に二人の警官に聞く。

「坂上さんが殺害される心当たりはないんですか?」

水野刑事が拍子抜けした声で聞く。

「ありませんよ。恵介は真面目できちんと仕事をしてくれていましたから...」

佐和子は動揺を抑えて答える。

「そうです。恵介君は業界内での評判は良くて、悪く言う人はいませんよ」

佐和子の言う事を裏付けるように加津が言う。

「そうですか。それならなぜ殺害されたのでしょうか? 思い当たる節がないなら、殺害理由と犯人を捜すのに時間がかかりそうですね。positionのお二人はデビューする前は何をされていたんですか?」

町田警部は行雄と恵介のデビュー前の事を聞く。

「恵介は高校卒業後、印刷工場に就職し、たまたま見ていたオーディション番組を見て応募したと言っていました」

佐和子が恵介の経歴を話す。

「オレは美容専門学校の二年の時に毎週見ていたオーディション番組を見ていて、それで...」

行雄は小さな声で答える。

「そうですか。脇中さんはマネージャーになってどれくらいですか?」

「デビューする前からなので二年と少しになります」

佐和子ははっきりと答えた。

「刑事さん、この中に犯人がいるんですか?」

高志が自分達の中に犯人がいるのかどうかを問う。

「恐らく、あなた方の中にいるでしょう。ホテル関係者だという説もあるかもしれませんんが、知り合いでよっぽど恨みがない限り、坂上さんを殺害しようなんて思いません。ましてや、自分の職場の名前を汚すような事はしないと思います」

町田警部は持論を展開した。

それを聞いた高志はなるほどという表情をする。

「そんな...。私達の中に犯人がいるなんて、そんなバカなことないでしょ?」

秀美は自分達が疑われていると知り、不服そうにしている。

「刑事さんの言うとおり、部外者には無理よ。それを考えると、私達の中に犯人がいると考えたほうが自然じゃない?」

加津は町田警部の持論が正しいと言い張る。

「そうだな。三好さんの言うとおり、部外者には無理かもな」

高志も頷いている。

「ちょっと、三人共やめなさいよ! 自分達のなかに犯人がいるなんて話をして...。行雄の気持ちも考えなさいよ! 仮にも一緒に仕事をした仲間なのよ!? もう少し一緒に仕事をしたかったとかそういう言葉もないわけ!?」

今まで黙っていた佐和子が、この中に犯人がいると言い出す三人に一喝する。

「脇中さん、落ち着いて下さい。脇中さんが言っている事も一理あります。確かに自分もこの中に犯人がいるという言い方をしました。しかし、あなた方が坂上さんと近い存在のため、この中に犯人がいるという説を言っただけです。今のところ、証拠がないためなんとも言えません」

町田警部は自分もこの中に犯人がいると言ったが、証拠がない以上、断言する事は出来ないという言い方をした。

「みなさんのアリバイをお聞きしたいのですが教えていただけませんか?」

水野刑事が場の空気を変えるように聞いた。

「ほとんどは楽屋にいました。...というのも、私が小川君が今まで解決した事件の話をしてみたらどうだと提案をしました。positionの二人以外は仕事などで楽屋を出たり入ったりしていました」

秀美は篤史に事件の話をするように提案したと答えた。

「南部さんにお聞きしますが、あなたはずっと楽屋にいましたか?」

「いいえ。電話がかかってきて、一度だけ出ました」

「電話の主は誰ですか?」

「化粧品会社からです。新色のアイシャドーとリップグロスが入荷したと連絡が入ったんです」

「その電話はどれくらいの時間ですか?」

「十分くらいだったと思います」

秀美はそう答えると、スマホを取り出して履歴を二人の警官に見せる。

水野刑事が電話番号を書き留めている。

「次に木下さんにお聞きしますが、あなたはどうですか?」

水野刑事が秀美のスマホの履歴を書き終えたのを確認した町田警部は、次に高志に聞いた。

「オレは二回楽屋を出たよ。最初はカメラを片付けて、二回目はカメラの部品を片付け忘れて、それで片付けてただけだ」

高志はイスに深くもたれかかり答える。

「三好さんはどうですか?」

「私は南部さんと一緒で一回です。私は衣裳を片付けていました」

加津はオドオドした様子で答える。

「最後に脇中さんは?」

「数は数えてないけど何回か楽屋を出ました。事務所や次の仕事の簡単な打ち合わせを電話でしていました」

佐和子は手帳を見ながら答える。

「そうですか。小川君とpositionの梶山さん以外は楽屋を出ているんですね」

水野刑事は篤史と行雄以外に犯行が無理だと言う。

(オレと梶山さん以外は楽屋を出てるけどはっきりしないな。特に木下さんと三好さんの二人は...)

篤史は自分と行雄以外の楽屋を出た理由を聞いてそう思っていた。

そして、篤史はpositionに関してあることを思い出していた。

「警部!」

現場を調べていた鑑識官が何か報告があるのか町田警部を呼んだ。

二人の警官は鑑識官からの報告を受けるとすぐに戻ってきた。

「鑑識官からの報告では、坂上さんが飲んでいた紙コップに入っていたお茶から睡眠薬が発見されました」

町田警部は険しい表情で篤史達に報告した。

「睡眠薬!?」

高志が睡眠薬と聞いて驚いた大きな声を出す。

「みなさん、紙コップに入ったお茶を飲んでいたのですか?」

水野刑事が聞く。

「そうです」

「紙コップを渡した人は?」

「私ですけど...」

秀美が疑われるのではないかとヒヤヒヤしながら申告する。

「いつみなさんに渡したんですか?」

町田警部は紙コップを渡したのが秀美だとわかると、さらに険しい表情をした。

「小川君が事件の話をする前です。もしかして、私の事、疑ってるんですか?」

秀美は恐る恐る確認してみる。

「紙コップにお茶を淹れて全員に渡したとなると、あなたの容疑はぐっと濃くなります」

「私じゃありません! 本当です! 信じて下さい!」

秀美は自分が一番に疑われていると知り、自分ではないと言い張る。

「今のところ、南部さんがクロだともシロだとも言えません」

町田警部はなんとも言えないと話す。

(ホンマに南部さんが犯人なんか? 紙コップに入ったお茶はオレが話してる間もおかわりしてたし、南部さんが全員分のお茶を渡したのは最初だけやった。南部さんだけを疑うのはどうなのかっていう感じやけどな)

篤史は秀美犯人説には否定的だ。

そして、会議室では何もわからないと思い、会議室を出る篤史。

町田警部は会議室を出る篤史に気付いたが、何かわかったのかと思い、咎める事はしなかった。

最初に向かったのはイベントホールだ。鑑識官が捜査をしている中そっと入った篤史は、イベントホール内を見渡した。

近くにいた鑑識官に近付いて、

「何かわかりましたか?」

そっと聞いてみる。

「君は警官じゃないやろ」

篤史に気付いた鑑識官は何も教えられないと答える。

「まぁ、そうですけど...」

「何か別れば警部に伝えるから...」

そう答えた鑑識官は捜査を続けた。

イベントホールでは何も聞けそうにないと思った篤史は、次にpositionの楽屋に向かった。楽屋では捜査が行われていないのか、誰もいなかった。

篤史がさっき思い出した事とは、一年前に週刊誌でpositionの過去を書いた記事が出た事だ。それは行雄が中学時代に万引きをして補導された事があること。恵介が高校時代にイジメをして、その相手が自殺した事だ。

それは芸能ニュースでも大きく取り上げられ大騒ぎになったが、事務所が否定し、positionの人気を妬んでの記事なのではないかと言われ、すぐにその話題は鎮火した。

当然、篤史もその記事の内容は知っていて、あまり信じたくなかったが、火のないところに煙は立たないと思っていた。もしかしたら、意外と本当の事なのではないかという思いが篤史の中で大きくなっていた。

中に入って一人ひとりの私物を見て回るが、これといって何も出てこない。そして、最後一人の荷物の中に入っていたものが目に入った。

それは一年前の週刊誌の意地のコピーと一枚の写真だ。

(これがこの人の荷物にあるってことは、一年前の週刊誌の記事ってホンマやったんか? ホンマやったとしたら、犯人は...)

篤史は週刊誌の記事のコピーから目を離すと、事件が起こった背景が脳裏に思い起こされ、全てが一本の線に繋がっていた。

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