《魔導師たちのお茶会》
─────月末。
闇の使徒はあまり太陽に当たってはならない。出かけるようの漆黒のチュニックとロングスカート、薄手の白のパーカーを羽織る。鏡の前に行こうとして、まだ眼を隠していないことに気づく。危なかった、もう少しで自分さえも自分の魔力に支配されるところだったわ。
今日は久々に宇佐見さんに会えるわね。最近見かけなかったから、何かあったのかしらね。今日会おうと言ってきたのももしかしたらダークマターを終焉に導けたからかしら。
「おー、黒百合氏〜。こっちですぞ〜。」
席から立ち上がって手を振る宇佐見さんはいつもと変わらない鮮血を思わせる赤のメガネにバンダナを頭に結んでる。服装も緑と黄色のチェックのシャツ、白のラインの入った黒いジャージというなんともラフな姿だ。
「久しぶりね、まだ他の使徒はこの世界に来てないのかしら?」
「うむむ、コタツん氏には地図を送ったのですがな、ゆきりん氏はあと少しでつくそうですぞ」
「そう、楽しみね」
この宇佐見さんは「闇の魔道師のお茶会」のリーダーであり、この現世から遥か先の未来を予知したりしている。普段は占いとかその辺をしてると聞く。そして、私の唯一信用できる人間になるわ。
人間なんて、下等で低俗な生き物よ、自分のことで精一杯で他人のことなんて全くといって何も出来ない。
しばらくの沈黙が続く。でも不思議と不快ではない、むしろ安心できるぐらい。
「えっと、宇佐見さんですか?良かったあってた、僕はコタツムリだ。本名は佐野柚羽、あーよろしくな。」
背の低い佐野はこれ以上にない普通の人であった。アニメで言えばクラスメイトC、ドラマで言えば町の人達の枠に入ってるわね。少なくとも闇の使徒でも異能力者でも時空遡行の末この世界に来た人とは思えないわね。
「おお、あなたがコタツん氏でありますか。宇佐見でありまする、以後よろしくですな。」
「あいさつするにも値しなささそうだけど、一応しておいてあげるわ。……黒百合よ、よろしくね。」
「黒百合氏は何だかんだ言ってやはり丁寧で作法のなったお方ですな」
すごく適当に言ったのに褒められるとかえって罪という鎖の縛りを喰らったみたいな感じになるわ。というより、宇佐見さん「してやったり」って顔に書いてありますよ。分かっててやってるのねまったく、真実を知りてなお心を惑わせるなんて腹立だしいわね。
またしばらくしてゆきりんは来た。
「すみません、人が多かったもので……」
「いえいえ構いませぬぞ」
ゆきりんは色白、華奢で髪も伸ばしっぱなしなので結構な長さである。あと、現世では私の力は発揮できないと家に引きこもっている。生きるのに最低限の外出はしているそうで、こうしてお茶会を開催すると来る。
「久しぶりね、ゆきりん。どう?現世に生きとし生ける者としての異能は手に入ったかしら?」
「まだまだってとこかな、私の本来の力はこんなものではないよ。」
「ゆきりん氏、よく言いまするよ。崇拝される作家でありましょうぞ。」
という、宇佐見さんもアカシックレコードを聴きし予知者とされてなかったかしら。揃いも揃ってここにはまともな人がいないわね。
「黒百合は最近どう?独り暮らしって大変でしょ」
「言うほどでもないわ、……もう三年もしてるのよ。」
ゆきりんが席に着いたのを見計らって宇佐見さんはようやく、本題を話し始める。
「ダークマターを一人見つけれた。来週、この近辺に来る。正確な位置や時刻はもう少ししないとわからない。また、連絡する。」
「いつも思うけど、あなたの予知の姿っていつもと違いすぎて困るわ。」
「へっへっへ、それはそれは、小生にもどうしようもないのですのでな〜。」
本当に、仮面を着けてるのかどうか分からないわね。恐らくはこの独特な雰囲気こそが宇佐見さんなんでしょうけど。
「あの〜、僕は何をすれば……」
「あら、あんたまだいたのね。全然気付かなかったわ。」
「コタツん氏はそうですなぁ。初めてですし、黒百合氏とゆきりん氏と行動を共にするというのでどうでしょう?」
「あたながそうしろというのなら仕方ないわ。闇の眷族に相応しい能力をつけてあげるわ。」
「黒百合がいいなら私は好きにしてくれればいいよ。」
宇佐見さんの「それではまた」という言葉を最後にわたし達は帰った。
帰り道、わたしはゆきりんと佐野と帰っていた。緋色に染まった虚空の下、佐野さんは禁断の音を紡いでしまった。
「そういえばなんで眼帯してんだ?厨二び───」
いきなり僕の口を手で塞いできたのはゆきりんさんだった。
「ふふふー、驚いた?───、人には一つや二つくらい知られたくないことだってありますよ、いいじゃないですか、今は闇の使徒で」
見ると黒百合さんはうつむいていたので顔は隠れていたが泣いているんじゃないだろうかと思ってしまった。
「黒百合、帰ろ。…………あっ、君も」
ゆきりんさんは黒百合さんの手を取るとそのまま帰っていこうとした。数歩進むと黒百合さんは僕の方に振り返って、
「今回は、ゆきりんに免じて許してあげるわ。でも次はないと思いなさい、あなたに闇の光をゼロ距離で当てるから。」
「やっぱり、何かあるんすか?」
僕はそっとゆきりんさんに耳打ちすると、ゆきりんさんはふっと笑って、
「詮索するんだね。まぁ、君と同じだと思うよ。だからこのメンバーに入ったんでしょ?」
「僕と同じ……。」
僕はほんの十日前まではごくごく普通の学生だった。その日はいつもと同じように友達とバカみたいに遊んでいた。そしたらいきなり「佐野君、君の家が……」なんて先生が教室に入ってきてさ。妹は軽いヤケドで済んだけど、もう僕が家に着いた頃には何も残っていなかった。放火だったという、犯人はまだ捕まってない。
今は親戚が僕と妹を引き取ってくれてはいるが、それもそう長くはないと思う。となると、どこかの施設に行くのが一番いいと思い、パソコンで調べていたらあるサイト名に目がとまった。
『闇の魔導師のお茶会』
私達はこの世界を変える。誰かを救うには君の力が必要です。
たったこれだけの説明で入るなんてどうかしてるよな。でもそれしか僕には方法がないように思えたんだ。
親を、僕の家を奪った犯人を自分の手で、同じ目に……いや、それ以上の絶望をさせてやる。
ただ、それだけの為に僕はこのメンバーに入ることに決めた。
9月5日正午には全部読めます。




