ユメクイバク
今回も長いですが、最後まで読んでいただけると幸いです。
夢の中。
人間の悪夢を食べ続ける。
どうしてそうしているのか。
わからない。
それでもそうしているのは、それ以外の目的がないから。
だから1人で1日中世界を回って悪夢を食べ続ける。
寂しいなんて思わない。
それが当たり前だから。
私は元々1人だから。
そんな中私は1人の男の子出会う。
その子は私を見付けるなり笑顔で寄ってきた。
そして一緒にいてと私の服を掴む。
無視したりしてみるも、しつこく服を離してくれなかった。
だから約束をした。
又明日来るという不確かな約束。
すると男の子はしぶしぶといったふうに私を解放した。
私はその約束を守るつもりは無かった。
だって色んな世界の人々の夢を渡り歩いて悪夢を食べ続けないといけないから。
なのに。
その筈なのに。
何故か男の子が気になった。
掴んだ服の裾を無意識に見てしまう。
1人だと思っていたのに。。
次の日になるとやっぱり気になって男の子のもとへ渡り歩いた。
私を見付けると昨日と同じ笑顔で私に向かって走ってくる。
「来てくれた!」
赤く頬を染めて嬉しそうに。
その笑顔は私の心に何かを芽吹かせた。
そしてその日を境にして、毎日男の子に会いに行くようになった。
「好きな食べ物」
だとか。
「いつか私の背を抜きたい」
だとか。
本当に下らないことばかり。
ただ男の子は自分がどうやってこの世界に来たかは分からない様だった。
私もその事に関してはあまり興味を持たなかった。
ここは私にとっては普通の世界だったから。
――何年経ったか分からない。
男の子は私の背を抜かしていた。
「バクはさ何でここにいるの?」
「………その話し何回目?私は悪夢を食べる為にここにいるの。」
`バク´それは彼が私に付けてくれた名前だった。
「何で?」
「……知らない。でも気付いた時からそうしてたから。」
ふーんと彼は短く答える。
「悪夢を見る人が少なくなった方がヒトにとっては良いに決まってる。」
「そんなのバクがかわいそうだ。」
口を尖らして拗ねたようにそっぽを 向く。
「これも何回も言ったけど。別にかわいそうでも何でもない。私には他に出来ることないし……この話しはこれでおしまい。今日はもう行くから。」
私は彼の隣で立ち上がった。
「駄目だ!終わってない!」
いつもはこんなこと無いのに。
今日は私の腕を掴む手に力が込められていた。
泣きそうな顔。
「本当はずっと思っていたんだ!何でバクだけが世界の人々の悪夢を食べないといけないんだ!バクの悪夢はどうなるんだよ………」
「………私は眠る事がないの。だから悪夢は見ない。だから気にしないで……というかどうしたの?急に。」
手を振り払おうとしても彼は離してくれなかった。
「……バク気付いてる?君の姿が急に薄くなって見えなくなる時がある。それは何故?」
真剣な眼差しが私を射ぬく。
答える気がなかった。
……違う。答えたくなかった。
怖かったから。
自分でも見て見ぬフリをしたかったから。
原因は1つしかない。
最近悪夢をあまり食べていない。
彼といる時間が楽しくて。
もっと一緒にいたくて。
離れたくなくて。
「……そんなことないし。知らない。」
だから私は知らないフリをする。
彼にも知らないフリをして欲しかった。
「君が悪夢を食べ続けるからその代償で消えかかってるんじゃないの?」
彼は今にも泣きそうな顔で私を包み込む。
そしてよりいっそう強く私の背中にまわす手に力を込めた。
「嫌だ。消えてほしくない。1人じゃダメなんだ…2人が良いんだ。」
私の肩にうずくまる彼がじんわりと服を濡らした。
何も言えなかった。
側にいて欲しいと望む彼から目を離せなかった。
彼の誤解のまま悪夢を食べずにここにいると私は消える。
それでも誰がこの手を振りほどけるだろうか?
宙ぶらりんになっていた私の手も彼の背中を抱きしめる。
「ここにいる。」
消えることになっても。
「悪夢は食べない。」
あなたが望むのなら。
「あなたのそばを離れないから。」
そして私もそうしたかったから。
それを聞いた彼の腕は悲しさから嬉しさへと変わった気がした。
その日から私は悪夢を食べに行くことはなかった。
彼の笑顔を沢山見た。
たわいのない話しも沢山した。
手はずっと繋いだまま。
温もりを確かめるように。
お互いに離さなかった。
だけど。
私の世界はそれを許さないかのように私の存在を薄くする。
彼に心配させない様にに残り少ない力を使って自分の存在をどうにか保つ。
でもそれは長く続かないことは明白で。
望まないその日が来てしまった。
彼の前。
力を使いきった私。
不様に私は倒れ。
存在が消えていく。
世界はそんな私を嘲笑っているようだ。
「バク!何で!?どうして!?」
彼は私を抱き上げようにも透ける体に触れる事は叶わなかった。
「ねぇ?オレの思っていた事は違ったの?悪夢はバクにとって必要だったの!?」
違う。
そう言いたかった。
彼が自分を責めない様に。
なのにうまく声が出せない。
だから代わりに笑ってみせた。
「……何でこんな時に笑うんだよ!何で何も答えてくれないんだよ!」
苦痛に歪む彼の顔が。
頬を伝う涙が。
こんな時なのに。
嬉しいと思う。
私をそこ迄想っていてくれたのかと。
そして同時に寂しいと思う。
もう一緒にいることが出来ないのかと。
空がひび割れる。
彼の存在がゆらいだ気がした。
そしてそれに私は全てを理解する。
彼をこの世界に閉じ込めていたのは私だと。
自分の心に嘘をついて。
平気だと強がって。
悪夢を食べ続け。
1人でいた。
本当は1人は嫌だったのに。
そして私の世界に迷いこんだ彼を覚めない夢に閉じ込めた。
そうか。
私が消えること。
これは正しいことだったのか。
彼を解放出来る為に必要な事だったのか。
触れない手で彼の頬に手を当てる。
「……1人に…なら…ない。」
感じる筈のない温もりがあった気がした。
「……あなた…の…世界…帰れ…る」
嬉しい筈なのに私の目から涙が溢れ出て止まらなかった。
あなたの世界に私はいない。
くだらない話しをしたり。
笑いあったり。
一緒にいることがもう出来ない。
大きな鉛の塊が心にのし掛かるようで苦しかった。
「帰っ……たら…私の…事は…忘れる…から…」
違う。
本当は覚えていて欲しい。
私の事をずっと想っていて欲しい。
彼は涙で頬を濡らしながら私の手に自分の手を重ねる。
「……違う…。オレはただ1人が嫌だった訳じゃない。バクじゃないと意味が無いから……バクが好きだから…」
あったかい。
誰かといるということはこういう事なのだろう。
充分。
これ以上望んではいけない。
これ以上あなたを求めてはいけない。
世界が半分以上壊れたとき。
最後の少ない時間を。
最期の力を振り絞って。
言葉を紡ぐ。
「だ……い…す………き」
その刹那。
世界がまばゆい光で白く包む。
見えない筈なのに。
彼の手が私の透けた手を掴んだ気がした。
ありがとう。
最期の思い出を。
ゆっくりと消えゆく視界の中焼き付けた彼の笑顔を思い出して。
さようなら。
―――――瞼をゆっくりとひらく。
そこには無機質で真っ白な天井が広がっている。
何も考えることが出来ないまま。
重い頭を何とか持ち上げて半分だけ体を起こす。
窓に目を移すとそこには、見たこともない木に付いた白く小さな花が、そよそよと風になびいていた。
気が付くと。
目から伝う水が頬を濡らしていた。
自分の涙の筈なのにどうして泣いているか分からない。
分かるのは心に小さなぬくもりが灯っていることだけだった。
するとドアの向こう側で慌ただしい程の声と足音がした。
「……彼女……目を覚まし…!!」
途切れ途切れに耳に入ってくる声。
関係ない。
筈なのに。
胸の奥がザワザワした。
「……か…の……じょ……」
思わず呟く。
誰だか分からない。
なのに。
誰かがオレに笑顔を見せてくれた気がした。
―――数日後
リハビリと称して病院の外を散歩をしていた。
最初はろくに動かなかった足も努力の甲斐あってか、何とか動かせるようになっていた。
聞いた話しによるとオレは8歳の頃に交通事故に合い、それから10年間目を覚まさなかったらしい。
親が毎日来て手足を根気よく動かしてくれていたお陰か筋力の衰えが大幅に抑えることが出来ていた。
そしてもう1つ。
オレと同じ様に眠っていた子がいたらしく。
その子は9才の頃に川に溺れて15年間目を覚まさなかった。
だけど。
オレと同じ日に目を覚まし。
医者が奇跡と驚いていた。
オレはまだその子とは会ったことがない。
特に会う必要性も見付からなかった。
そしてそんなことを考えながら自然に囲まれた病院の庭を散歩していた時。
誰かの声が聞こえた気がした。
「もう!又勝手に外に出て!一言言ってからにしてくださいっていつも言ってるじゃないですか!」
それは看護師さんの怒る声。
「……………。」
もう1人がその言葉に返す。
だけど。
小さな声で聞き取ることが出来なかった。
何故かそれが聞きたくて無意識に足をその方向に速める。
「……又そんなこと言って!」
「………………。」
「………ハクさん!」
ドサッ!
まだ本調子でない足はもつれその場で大きく転んだ。
その音にビックリしたのか。
看護師は振り向きすぐに駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!?」
そんな心配をする看護師をよそに目の前で車椅子に座っている彼女から目を離せなかった。
「…………は……く……?」
白くまばゆい光の中。
そのまま彼女はゆっくりとオレの方へと振り向く。
その姿が眩しくて。
幸せで。
オレは一筋の涙を流した。
―――――――Fin
最後まで読んでくれてありがとうございました。
皆様の夢が幸せなモノでありますように願っております。