四
男の目が覚める。
呼吸は早く、鼓動も忙しない。
よくは覚えていなかったが、酷く恐ろしい夢を見ていたに違いないと男は思った。
落ち着くまで天井を見上げる。
ふと、そろそろこの天井も見納めになるだろうという予感がした。
ここは男の家ではない。
男は罪を重ね、死刑判決を受けていた。死ぬ時を待つために、ここにいる。
そして、その時は訪れた。
刑務官が来て、男の罪を連ねる。
男自身、覚えていないものばかりだった。
こんなに騙したろうか、
こんなに盗んだろうか、
こんなに殺したろうか。
しかし、もし一つ二つ数え間違いがあったとしても、自分の罰は変わらない。
到底釣り合うとは思えぬ罪と罰の天秤に、自らの命をかけるだけだ。
刑務官がようやく口を閉じ、男は房の外へ連れ出される。
長い廊下を歩き、長い階段を下りた。それから、また長い廊下を歩く。 それを何度も繰り返した。刑務官は途中で何度も入れ替わった。
廊下の内装はすっかり様変わりしていた。鉄板を踏む音を、コンクリートの壁が跳ね返す。
無数の廊下と階段と刑務官を過ぎて、男は大きな扉の前に着いた。宇宙服を着た人間が二人、番をするように立っていた。
刑務官が踵を返して去り、宇宙服の一人が男の傍につく。もう一人は扉のハンドルを回した。錆びた金属のこすれる音が鼓膜を掻いた。
扉がゆっくりと開かれる。
先にあるのは暗闇に沈む階段だった。
男はなんとなく、その向こうで誰かが待っているような気がした。死に行く自分を待っているのだ。それはきっと悪魔か死神だろう。
宇宙服に背中を押されて、男は階段を下りる。
どの階段よりも長いそれの先には、広い空間があった。弱い明かりが、朧気に床を照らす。
空間には、ただ一つのものだけがあった。
膝を抱えた、裸の少女だ。
男は少女を見て確信した。彼女が、自分を殺す存在だと。
何も持たない少女であるが、自分は間違いなく殺される。
そして、それが正しいことだと思えた。
宇宙服が壁を叩く。そうして現れたボタンが押されると、空間と階段の間のガラス扉が開いた。
男は二重のそれを抜け、少女に歩み寄る。
「なあ、また来たぞ」
自分の口から出た言葉に、男は首を傾げた。
どうして自分は、また、などと言ったのだろうか。
少女と会うのは初めてだった。にも関わらず、その言葉は至極当たり前に出てきた。
声をかけられた少女は目を丸くしていた。少女の表情に男は懐かしみを覚える。
得体の知れない何かが、男の頭の中を駆け巡る。
自分でない自分、それでいて確かに自分の自分達が――。
それが何であるか、答えは出そうに無かった。
熱に浮かされた時のようにぼーっとして、意識の端が揺らいでいく。
また、終わりか。
気づけば両腕は腐り落ちていた。
男は膝から崩れ、少女の胸の中に倒れ伏す。
目だけを動かして見た少女の顔は、やはり泣いていた。
いつもいつも、どうして。
声にならない悲鳴を上げながら、男は果てた。




