四、奇跡は起こる!
次の日の放課後、祐輔は図書館へ向かった。
今日こそは彼女に話しかけるんだ。
そう心に誓っていた。
ところが図書館には、肝心の少女の姿が見えなかった。
祐輔は閉館時間まで待ったが、少女の姿はどこにもない。
仕方なく祐輔は、とぼとぼと家路についた。
その次の日も、またその次の日も、図書館に少女の姿は見えなかった。
受験が終わったからなのか、それともこの図書館より良い場所を見つけてそちらで勉強をしているのか、祐輔にはわからなかった。
わかっているのは、あの日以降、図書館で少女の姿を見ることはなくなってしまったということだけだった。
それでも祐輔は、少女のことが諦められなかった。
試験が終わるのはまだ早すぎる。
きっと別の場所で勉強しているんだ。
祐輔はそう思い、少女を探しに隣の市の図書館や駅前の自習室などに行ってみた。
しかし、少女を見つけることは出来なかった。
そうこうしているうちに年が明け、受験勉強もラストスパートの時期を迎えた。
ここで頑張らなければ、これまでの努力が無駄になる。
祐輔は試験に集中するために、少女のことを一時忘れることにした。
これ以上探しようがない少女の事よりも、今は差し迫っている試験の方が大切だったからだ。
試験が終わったら、もう一度図書館に少女を探しに行こう。
祐輔はそう思っていた。
それから祐輔は、今までの遅れを取り戻すべく、寝る間も惜しんで勉強に集中した。
少女のせいで試験に落ちたなんてなったら、両親にもあの少女にも顔向けできない。
次にあの少女に会うときは、立派な大学生になっているんだ。
祐輔はそう固く決意していた。
そして、第一志望の大学の入試の日がやって来た。
やるべきことは精一杯やったという達成感のようなものが、祐輔の心の中にはあった。
あとは落ち着いて試験問題を解くだけだ。
祐輔は心を落ち着かせて試験問題に取りかかった。
そして、合格発表の日がやって来た。
祐輔は不安と希望が入り混じった気持ちで、大学の掲示板まで足を運んでいた。
大丈夫、絶対に受かっている、祐輔はそう心の中で念じていた。
「1158、1158…」
祐輔は念仏のように、自分の受験番号を唱えていた。
意を決し、祐輔は掲示板を見た。
1150、1152、1156…。
1158!
祐輔は見事に合格していた。
思わず掲示板の前でガッツポースをとった。
すると、祐輔の斜め前に見慣れた後姿が目に入った。
間違いない、あの少女だった。
少女も同じ大学を志望していたのだった!
なんという偶然であろう!
そして、少女も喜びを隠せない様子で、手で口を押え喜んでいる。
奇跡的に、祐輔は少女と同じ大学を志望していたのだ。
祐輔の心は既に大学生活へと羽ばたいていた。