二、恋は突然やってくる
そんな祐輔に、恋のキューピットが突然現れたのは、雲一つない快晴の晩秋のある日の図書館での事だった。
祐輔はほぼ毎日、放課後は図書館で勉強をしている。
静かで雑音がなく、空調も効いていて勉強に集中するにはもってこいであった。
図書館が高校から歩いて数分のところにあることも、祐輔が図書館に通う理由でもあった。
そしてこの日もいつものように、学校の授業が終わるとすぐに図書館へとやって来た。
図書館にある自習机は先着順である。
祐輔がこの時間に来ると、いつもは八割がた埋まっている。
そしてたまに全ての机が埋まっていることもあるくらい、自習机は人気だった。
この日はまだいくつかの席が空いており、祐輔はそのうちの一つに腰を下ろし、早速勉強を始めた。
それから三十分くらいが経ったころであろうか。
祐輔が英語の長文と格闘していると、祐輔の斜め向かいの席に一人の少女がやって来た。
祐輔はふと、勉強する手を止めてその少女を見た。
その少女は、髪が肩にかかるくらいの黒髪で、肌は透き通るように白く、二重まぶたの目はクリリとしていて、まるでお人形のような風貌だった。
身長は百五十センチメートルくらいで線が細く、とても華奢に見える。
どこかのお嬢様だと言われたら、納得してしまうような姿だった。
その少女は、鞄の中から参考書を取り出すと、徐に席に着き一心不乱に勉強を始めた。
その眼差しは、鋭い中にも優しさが滲み出ている、そんな表情だった。
祐輔は、鉛筆を持ったままその少女を見つめていた。
勉強に集中している少女の姿はとても真剣で、そしてとても美しかった。
祐輔は彼女から目を離すことが出来なくなってしまった。
そして、祐輔の心臓はとても早く鼓動していた。
自分の心臓が、これほどまでに激しく鼓動したことを、祐輔は経験したことがなかった。
すなわち、祐輔はこの少女に一目惚れをしてしまったのだ。
一目惚れをするなんて、テレビドラマの中だけの事だと思っていた祐輔だったが、いざ自分が一目惚れをするとどうして良いかわからなくなっていた。
祐輔は只々、その少女を見つめているだけだった。
少女は恐らく祐輔と同じ高校三年生であろうとわかった。
使っていた参考書が大学受験用のものだったからだ。
いったいどこの高校だろうか?
少女の着ている制服に見覚えはなかった。
このあたりの学校ではないのかもしれない。
そしてその日祐輔は、勉強が全く手に付かずに、家路へと着いたのであった。