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ギルドと魔法使いの少女。2

 ※鋭鋒――鋭い攻撃。主に口撃の方の意味で使う。




.



 アイシャ・フローラル15歳。魔法使い。


 胸くらいまである金色の髪を左の襟足でひとつに纏めた髪型で、顔立ちは、フリージアの基準は分かんないけど美少女と言って遜色(そんしょく)なさそうだ。全体的に雰囲気が小動物っぽい小柄な少女。


 空色のローブに身を包んだその少女を見つめながら、俺はどうしよっかなーと思い悩んでいた。


 現状は、ギルドのテーブルに相対して座っている。俺は頬杖をついて足を組み(態度が悪い)、フローラルとやらは顔を伏せて縮こまっていた。


 少し前までフローラルが語っていた内容を纏めると、こうだ。


 約半年前。魔法使いの修行としてギルドに登録し冒険者となった彼女は、何度も討伐依頼に挑むが自分の実力不足で成果を上げられず、このままではギルド登録を解除されてしまう。という事だった。これだけの内容を語るだけに三十分ほどを費やした結果、俺の頬杖足組み態度が完成した。


「……それで、フローラルさん?」


「はっ、はい!」


 俺は姿勢を改めると、萎縮(いしゅく)しきっていたフローラルに声をかけた。口調が丁寧なのは、簡単にいえば外交用。外面だけ丁寧な世渡りモードとでも言えばいいか。これが案外、うまく行くのだ。


 あくまであっちの世界では、だし、うまく行っていた、と過去形にしなくちゃいけないけど。


「キミの状況は理解できたけど、結局、俺にどうして欲しいんですか」


「あ、そ、それはですねっ、えと……私と、パーティを組んで欲しくて……」


 何だか、可哀想になってくるくらい怯えていた。何をそんなにビクビクしているのか。俺の顔が怖いとか?


 ――『なにせ半魔だからの』


 今まで黙ってたベリアルがちゃちゃを入れてくる。うっさい。


 しかし、この少女の主張がよく分からない。俺は、ギルドに登録したばかりの言わば初心者(ニュービー)だ。どうしてそんな人間を頼りにするのだろうか?


 そんな疑問は、フローラルがぽつりぽつりと語りだした事で、謎が解けた。


「私……いつも失敗ばかりなんです。魔法も、まともに撃てなくて……。だから、もう……このギルドに私とパーティーを組んでくれる人なんて…………」


 必死に涙を堪えてそう、囁くように話すフローラル。確かに、情に訴えかけてくるものはある。……けどさぁ。


「その話を聞いて、だったら俺が、と名乗りを上げる物好きはそう居ないと思いますけど」


「うっ……」


「というか、駆け出しの俺がそんな無能とパーティーを組むとでも?」


「ううっ…………」


「それに、魔法もまともに扱えない魔法使いって、冒険者に向いてないんじゃないんですか?」


「うううぅぅ……っ」


 ――あっ。泣いた。


 思わず思うがままに鋭鋒(えいほう)を放ちまくってしまった。いくら言葉遣いか丁寧でも、というか丁寧だからこそ、かなり響いたっぽい。唇を噛み締めてふるふる震えてた。やはり小動物みたいだ。


 ――『……馬鹿者。女子(おなご)を泣かせてどうする』


 ――いや、つい……。


 実際、俺は自分が言った事を間違いだとは思っていない。半年も頑張って結果がでないなんて、才能がないとしか言いようがない。だったら黙って諦めるしかないだろう。


 ……ただ。


 ただ、目の前で困っているんだと助けを求めている少女を突っぱねて無視するのは、何だか寝覚めが悪い。絶対に後で落ち着かなくなって、後悔するに決まってる。



 だから――



「依頼は何でもいいよな」


「えっ?」


「俺はリオン・クローバー。リオンでもリオでもイイけど、よろしく」


「えっ、ええっ?」


「あ、報酬の配分は6:4な」


 ぽかーんとするフローラルを放っておいて、俺は椅子から立ち上がった。あんまり驚いたからか涙が止まっている。


 ――『このツンデレめ』


 ベリアルのアホな発言も放っておいて。――『アホとはなんだアホとは』――うるせぇ。



「何してんだ、早くしろよ」



 まだ状況を理解できてないらしいフローラルに声を掛けて、俺は受付に向かった。




   ♌ ♌ ♌




「ええ、問題ないですよ!」


 受付嬢さんが元気にハッキリそう言って、俺はひとまずホッとした。あれだけ格好つけておいて「無理です!」とか言われたら恥ずかしすぎるからな。


 何が、かというと、俺の依頼の話だ。


 先程サインした羊皮紙に書いていた規約のひとつに、


 ・ギルド登録後、ギルド側から提示された依頼を達成する必要がある。初回依頼を達成しなければ、ギルド証を受け渡す事は出来ない。


 という文面があった。


 読んだ当初はベリアルの力があれば余裕だろうと思って重要視していなかったけど、フローラルと依頼をこなすとなれば、この規約は重要になってくる。


 何が重要かというと、まず第一に登録した日に受ける事は可能か。第二にパーティーで受ける事は可能か。という事だ。


 フローラルの話を聞けば、彼女の猶予(ゆうよ)はなんと明日らしい。彼女がどれだけの“ダメ魔法使い”なのかは実際にみなければ分からないが、これは非常にまずい。


 最悪の場合、フローラルを見捨てなくてはならなくなるから。


 ギルド証の発行は二日後。彼女の猶予がなくなるのは明日。もしもこの初回依頼がパーティー不可だった場合、俺にはもうフローラルを手伝うタイミングはなくなるというわけだ。


 もっとも、そこら辺は彼女も心得ていたのだろうし、よほど切羽詰っていたから俺みたいな素性も知らない駆け出しに声を掛けたのだろう。ようやく、フローラルの意味不明な行動の意味が解明された。


 しかし、そう考えると、この少女は意外と計算高いのかもしれない。


「一応確認ですけど、俺の依頼を手伝えば彼女は『有益な活動』をした事になりますよね」


「ええ。駆け出しの冒険者を手助けしたという建前にはなりますね!」


「……だってさ」


 左を向くと、フローラルが複雑な表情で頷いた。


「何だか受付さんの言葉が引っかかりますけど……」


 まあ、確かに悪意のある言い方だったな。爽やかな笑顔の下は意外と黒いのかもしれない。


「じゃあ善は急げってことで。初回依頼? は何なんですか?」


 そう言うと、受付嬢さんはにっこり笑って「少々お待ちください!」と言って受付の奥に引っ込んでしまった。


 三十秒もしないで帰っていた受付嬢さんの手には、一枚の羊皮紙が握られていた。


「初回依頼はこちらになりますね。『スタチア周辺に生息するゴブリンの討伐・目標二体』……依頼のランクとしてはDランクです」


「ご、ゴブリン……」


 受付嬢さんの台詞に、なぜかフローラルは顔を引つらせていた。なんだ?


 疑問符を浮かべる俺に、受付嬢さんが依頼書を手渡してきた。


「頑張ってくださいね?」


 にっこりと笑顔で応援してくれる受付嬢さんの顔が、何となく悪く見えたのは、気のせいだろうか。




   ♌ ♌ ♌




「あ、あのっ!」


「ん?」


 ギルドを後にした俺たちは、門前広場に来ていた。スタチアの入口の前の広場だ。


 討伐対象のゴブリンはスタチアを出てすぐの森に生息しているらしい。それって俺が目覚めた森じゃないか? とベリアルに確認したところ、やはりそうらしい。


 よく遭遇しなかったな、と思っていたら、――『我が索敵して避けていたからな』と言われた。ご丁寧にどうも。


 ……という事で森に向かって歩いていたら、今まで後ろで黙って付いてきていたフローラルが声を掛けてきた。


「あ、あのぅ、もしかして、このまま森に行くんですか?」


 フローラルは躊躇(ためら)いながらそう尋ねてきた。


「そのつもりだけど」


「で、でもっ! そのっ! 準備とか、しなくていいんですか!?」


「準備?」


 何の準備だ?


「えと、リオンさんは……その……」


「リオンでいい」


「あ、え、り、リオンは、ほら、剣一本で手ぶらじゃないですか」


 ああ、なるほどそういう事。要するに、防具とか道具とかを用意して行かなくていいのか? って言いたいのか。ま、普通はそう考えるよな。


 実際、フローラルはローブの下に隠れて分かりにくいけどポーチ風のバッグを装備していた。それに対して俺は革製のハーフコートとズボン、それに剣を背負ってるだけで他には何も持っていない。


 実際にはベリアルというネックレスを装備しているが、インナーの下に入れてるので彼女にはただの装飾品か、よくてちょっとしたステータスアップ効果の装備にしか見えないのだろう。ステータスって概念があるかはしらないが。


 ――で、実際どうよベリアル。準備、いるか?


 取り敢えず、俺の戦闘における生死を握っていると言っても過言ではないベリアルに一応(・・)確認を取る。ま、答えなんてもう分かってるけどさ。


 ――『そんなものいらんわ』


 ――……だと思った。


 まったく予想通りだ。


「安心しろよ。剣一本で十分だから」


 だから俺は自信満々にそう言った。というか本当のところ、びた一文も持ってないから買い物なんて不可能なんだけどね。去勢を張るくらい別にいいだろう。減るもんじゃない。


「そ、そうですか……すいません……」


 なぜか、フローラルはしょげてしまった。よく分からん。


「つーか、早く行こうぜ。あんまりゆっくりしてると暗くなる」


 お天道様はまだまだ元気だが、森の中をゴブリンを探しつつ歩き回るのだ。時間に余裕は持たせないとな。


 そう思ってフローラルを急かしたのだが、彼女は逆にほけーっとしてフリーズした。おいおいなんだ?


「あの……」


 数秒して、フローラルは眉根を寄せながら口を開いた。


 な、なんだ……? とちょっと身構える。


「さっきは気が動転しててスルーしてたんですけど、話し方、変わってませんか……?」


 ……凄くどうでもいい事だった。身構えた自分が恥ずかしいわ。


「こっちが素だ。オッケー?」


「お、おっけー、です」


「よし。じゃ行くぞ」


 変な表情(カオ)でクエスチョンマークを浮かべるフローラルを引き連れて、俺(とベリアル)は俺が目覚めた森へと向かった。




.

 オッケーという言葉はフリージアでは馴染みがないようです。




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