Curiosity killed the cat.Ⅱ
前回サブタイ補足の補足。『好奇心は猫を殺す』ということわざは、英語の『猫に九つの命有り=猫は容易に死なない』ということわざがあり、それを踏まえたうえでの『好奇心は猫を殺す=過剰な好奇心は猫をも殺すぞ』、となるらしいです。
言葉遊びみたいなことわざですね。
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クァツル遺跡、通称『屍人の迷宮』。地下に広がる迷宮のような造りで、数多の冒険者が挑み、迷った挙句にそこで生涯を終えたとされる曰くつきの遺跡らしい。
ただし、現在では地図も普及して、遭難者の数は激減しているそうだ。
逆に言えば、地図が普及した上で、遭難する人もいる、ということだ。それがただの準備不足ならばいいのだが……。
そんな話をベリアルから聞きつつアイシャに語ってやると、
「あ、あのっ、や、やややっぱり行くのやめませんかっ!?」
めちゃくちゃブルブル震えていた。見た目どおりビビリなところが高得点だな。
「んー、しかし、『シオン・アズール』か。名前じゃ男か女か判断しにくいな」
「あああのっ!? 聴いてますか!?」
「受付嬢さんも意地悪だよなぁ、『性別は会ってからのお楽しみってことで☆』とか、別に教えてくれてもいいじゃねーか。なぁ?」
「知りませんよっ!? 遭難して死んじゃっても知りませんからねっ!?」
そんなに不安か。
まあ、ぶっちゃけ、そこら辺は大丈夫だろう。なんたって、俺にはベリアルがついてる。
――『ああ、任せておけ。道案内くらいならば余裕も余裕よ』
この力強いお言葉をアイシャにも聞かせてやりたいぜ。
変わりに、俺からのありがたいお言葉でもかけておくか。
「まぁまぁ、んな不安がるなよ。俺と一緒に死ねるなんて光栄だろ?」
「意味が分からないですよぉッ!!」
「つーか、死なねぇから」
「分からないですよ!? 何が起こるか分からないですよぉ!?」
「お前こそ何言ってるか分かんないですよ?」
「茶化さないでくださいッ!!」
結構、本気で怒鳴られた。あんまりシャウトすると魔物が寄ってくるぞ? とは言えない雰囲気だ。錯乱してるなぁ。
クァツル遺跡はスタチアの森よりも奥にあるらしいので、俺たちはスタチアから伸びる街道を歩いている。街道にはあまり魔物が寄ってこないとはいえ、一応、警戒はしておく。
まあ、ベリアルの感知の方が早いし正確なんだけど。
さらに言うと、クァツル遺跡は遠すぎるので、日帰りは無理らしい。なので今回はテントを持ってきた。俺がテントとその他の野宿装備を持ち、アイシャがそれ以外を担当している。
持っていると言っても、実際には、バッグひとつで事足りている。
フリージアの世界には、特殊なバッグが存在する。【ケース】だったか【スペース】だったかという魔法を応用したもので、ポシェットやらポーチやらといったバッグにかなり大量の荷物が入るのだ。簡単に言うと、四次元ポケ〇ト。
なので俺もアイシャも、外見的にはポーチひとつと各々の武器、それしか持っていないことになる。
「しっかし、惜しいよなぁ。数時間前に出発してたなんてさ」
「……そーですね。微妙に追いつくのが難しい差ですよねー……」
さんざん叫んで疲れたのか単に主張が通らず意気消沈してるのか、アイシャが元気なく答えた。ホント、ニアミスだぜ。
シオンなるソロ冒険者は、俺が新メンバーを捜し始める数時間前に依頼へと出発していたらしい。俺たちが追いついた頃には依頼が終わってるとか、行き違いになるってことは無さそうだってのが、唯一の救いか。
もっとも、逆に言えば、あと数時間早ければわざわざ出向かなくても良かったわけだけど。
というか、別に出向く必要はないんだけどな。そこは俺なりの考えというか。
――『恩を押し売りして多少強引でも仲間に引きずり込もう。と、そういう魂胆だろう?』
――イエス。
ま、つまりそういうことだ。欲しいものは強引にでも手に入れないとな。
――『少し、考え方が変わってきたか?』
――正確には、今まで不可能だったことが可能になって、ちょっと強気になってる。
――『随分と冷静な自己分析だな』
くっくっく、と悪者っぽい笑い声をベリアルが漏らす。こいつ、本気で楽しんでる時は悪役っぽくなんだよなぁ。
――『聞こえているぞ』
――聞かせてんだよ。
この一ヶ月、思念会話と発声会話を繰り返しているうちに、ベリアルと話しながらアイシャと話す技術にも磨きがかかってきた。さっきの、ベリアルの話を俺流に改造して語ったのなども、その技術の応用だ。
そして、思念としてベリアルに伝わる強さと、伝わらない強さも、分かってきた。
最近では俺の思念がまったく伝わってこなくて退屈だ、とベリアルに言われたくらいだ。
ま、ベリアルの奴は最初からそのさじ加減が分かってたわけだから、これでやっと対等になったってことだ。
「なぁ、アイシャはシオンってやつを見たことないのか?」
「知らずにすれ違ったりはしてるかもですけど……」
「ま、だよな」
そんなに期待はしてなかった。アイシャが知ってる相手だったら、受付嬢さんがはぐらかす意味もないもんな。
「どんな奴なのかねぇ。シオン・アズール」
出来れば、俺と気が合う人物であることを願うぜ。
♌ ♌ ♌
時は夕暮れを少し過ぎた頃。空が紫に染まっている。
これ以上は少し危険だということで、俺たちはテントを張ることにした。
街道から少しだけ外れたところにテントを張り、薪を集めて火を起こす。その際にアイシャの魔法で火を付けようとしたら薪を吹き飛ばしやがったので、俺がうろ覚えのサバイバル知識で火を起こした。
「なあ、地図出して」
「あ、ふぁい」
何かの肉の干物をもぎゅもぎゅしながら、アイシャが地図を取り出す。
「今日で大体、三分の二を進んだのか」
「そうみたいですね」
この世界の地図は魔法によって超、便利な機能が搭載されている。それが、現在地を示す機能だ。
あっちの世界じゃGPSとかがあるからありがたみが分かりづらいが、実はかなり凄い。
なにせ、あっちの世界じゃネットで検索しても、周辺の地図は出るが現在地までは出ない。そういう機能が付いてない限りは、だけど。
地図の上で結晶のようなものが浮いている。これが、俺たちの現在地というわけだ。
残る距離は、十キロ無いくらいか。案外、今日中に行けたかもしれないな。
逆にシオンなる冒険者はもうクァツル遺跡にたどり着いているかもしれない。まあ、流石に今日のうちに遺跡調査を始める、なんてことはないだろうけど。
「とりあえず、明日は朝一で出発な」
「はーいっ」
元気よく返事をしたアイシャが、続けて大あくびをかました。
「先に寝ろよ。俺はもうちょっと起きてるけど」
「あ、じゃあお先に……」
そう言って、アイシャはテントに潜っていった。
――『寝込みを襲う気か?』
――んなわけねぇだろ!
暇つぶしにベリアルと話しながら、パチパチと爆ぜる枯れ枝を見ていると、なんだか俺も眠くなってきた。
――『安心しろ、警戒なら我がしておいてやる。お前も寝ろ』
――……じゃー、お言葉に甘えさせてもらうわ。
火を消して、アイシャとは別のテントに潜った俺は、ベリアルを外さずに寝袋に入り込んだ。
――おやすみ。
――『ああ』
『良い夢が見れるといいな』
薄れる意識の中で、ベリアルがそんなことを言った気がした。
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今回はちょっと文章が読みにくい気がします。じゃあ直せと思ったあなた、私は面倒くさがりなのです。
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