Curiosity killed the cat.
サブタイトルは直訳すると『好奇心は猫を殺す』。イギリスのことわざです。本編と深い関わりがあるかと言うと……(お察しください)。
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俺が異世界フリージアに来てから、おおよそ一ヶ月が経とうとしていた。
ギルドでの依頼にも慣れ、冒険者仲間や友人と呼べる関係の人も何人か出来た。異世界での生活に、溶け込み始めた頃。
ひとつの問題が発生していた。
「うーん……今回も無理だったかぁ……」
「す、すいません……」
場所はギルド――ではなく、小さな診療所の待合室。診察待ちではなく、既に治療まで終わったあとだ。
なぜ診療所なんかにいるかと言うと、怪我をしたからだ。
当然、アイシャが。
今、俺たちは、B級昇格を目指していた。C級までなら俺の剣とアイシャのファンブルしまくる魔法だけでも余裕だったもんだから、B級も楽勝だろ――と、タカをくくっていたんだけど。
B級は冒険者の最初の壁、と言われる理由が分かった。
「オークの群れに加えて、トロールまで出てくるとはな……」
俺たちが今回受けた昇級試験の内容は、オーク十体の討伐。かなり多いが、群れをなす習性がないオークは各個撃破が可能なので、時間をかければ行ける……はずだった。
のだが、現実は、オークはかなりの数で群れていて、しかも他種族のトロールまでいやがったのだ。俺単体ならまだ分からないが、魔法の成功率が低いアイシャをカバーしながら戦うことを考えると、撤退せざるを得なかった。
B級が“壁”と呼ばれている一番の要因は、不安定さだ。
スタチアの森やその他の魔物が生息する地域は、一般にダンジョンと呼ばれているらしいけど、ダンジョンの奥地に行けば行くほど魔物の習性が変わってくるらしい。
例えば、今回のようにオークが群れていたり。
で、オークの群れから逃げる際に細々と怪我をしたアイシャの治療のため、診療所を訪れたというわけだ。
「……そろそろ限界かもな」
俺は、最近よく考えるようになった想いを口に出した。
「えっ?」
「誰か、新しいパーティーメンバーを捜さなきゃな」
♌ ♌ ♌
「なにも、泣くことはねーだろ……」
「だ、だってぇ……てっきり解雇されるのかと……」
数分後、俺の呟きの意味を履き違えて大泣きし始めたアイシャをなだめた俺は、ギルドに向かって歩いていた。
なんでも、新しいパーティーを捜す、つまり今のパーティーは解散、だと思ったらしい。確かに、一度こっちの勝手な理由で解散を持ちかけただけに、誤解されても仕方がない言い方だったとは思う。
しかし、だからといって、診療所の待合室で泣き始め、俺にすがり付いてくることは無いだろう。
――『それだけ依存されているのだろう。良かったな』
――依存とか言うなよ……。
まぁ、とにかく。
俺とアイシャは、三人目のパーティーメンバーを紹介してもらうために、ギルドへと向かっているのだ。
んで、受付にて。
「へ? お友達さんの誰かに頼めばいいじゃないですか」
だいぶ口調が砕けてきている受付嬢さんにそう言われた。
「いや、大体みんな、他のパーティーに入ってますし。臨時で昇級試験の時だけ頼むのも……」
「ああ、つまり、正式なメンバーを増やしたいんですね?」
「そういうことです」
いつも思うが、受付嬢さんとのやりとりはなぜか俺が担当している。アイシャの方が付き合い長いんだし、彼女がやってもいいと思うんだが。
思うんだが、なぜか、アイシャは受付嬢さんと話したがらない。何かあるのかなーとは思うが、踏み込んで訊くようなことでもないと判断して放置している。
「では、何か要望はありますか?」
おお、そっちから訊いてくるのか。一応考えてはいたけど、厚かましいとか思われないか不安だったんだ。
とりあえず、用意していた欲しい要素を羅列する。
「遠距離がメインで近接戦闘も可能。現時点でソロ。あと、C級からB級に上がろうって気持ちが強そうな人で、どうですか?」
「あの、リオン? すっごく限定されませんか? それ……」
後ろでアイシャが控えめに物申していた。俺だってそう思う。
ぶっちゃけ、この中のどれかひとつ、上手くいけばふたつくらい当てはまっている人ならオーケーだ。
「えーっとですねぇ……」
さしもの受付嬢さんも、少し苦笑気味だった。ま、居ねぇだろうな――
「――ああ、一人だけ、当てはまる人がいました!」
「……え、全部ですか?」
「はい! 全部です!」
――マジかよ。
――『世の中、言ってみるものだな』
ベリアルですら苦笑いの気配を滲ませていた。まったくその通りだ。世の中、とりあえず言ってみるものだ。
「えっとですね、メイン武器が長弓と短弓、短剣での近接戦闘も可能。ソロでC級に上がったナイスガッツの持ち主です!」
「その人は、いまどこに?」
「えー、今は依頼で出てますね。かなり頻繁に依頼を受けているようですし、向上心は高いと思いますよ?」
「ちなみに、何の依頼ですか?」
「クァツル遺跡の調査という依頼です。限りなくB級に近いC級の依頼、くらいの難易度ですね。これをソロで受けるなんて勇気ありますねぇ」
クァツル遺跡……なんて発音しにくい遺跡なんだ!
――『アホなことを言っとる場合か?』
――確かに。
「よし、行くぞアイシャ」
「へっ?」
「あの、行くとはどこに?」
アイシャも受付嬢さんも、ポカンとしていた。
「決まってる。そのクァツル遺跡にさ」
「え、いや、でもですね、依頼の重複受諾はできないんですけど」
「別に依頼で行くわけじゃない」
俺の発言に、二人は???となっていた。そんなにおかしな話ではないと思うんだけどな。
「俺たちはただ、勧誘ついでに依頼達成を手伝うだけですよ」
俺がはっきりと目的を告げても、まだ二人はぱちくりと目を瞬かせていた。
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新展開突入。
新キャラ登場の予感(確信)ですね。
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