ちょっとした幕間
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オーク狩りから帰ってきた日の夕方。一休みして、さぁどっかで祝勝会でもしよう! と言っていた俺たちの元に、宿屋のおばさんが来た。
なんでも、ギルドの受付嬢さんから連絡が来たらしく、ここの一階で宴会を開いてくれるらしい。
これはちょうどいい、と宿屋の食堂に降りると、見覚えのない人たちが男女、合わせて六人いた。
「おめでとさん!」
「おめでとう!」
などと口々に祝ってくれる彼らは、ギルドの登録者、つまり同業者らしい。ほとんどはアイシャの顔見知りで、“あの”ダメ魔法使いがC級昇格、と聞いて駆けつけたのだそうだ。
確かに、全員、軽鎧やら革鎧やらを装備し、腰や背中にそれぞれの得物を提げている。俺の剣は部屋に置いてきた。邪魔だし。
わざわざ貸切にしてくれた宿屋のおばさんが料理を運び出してきて、空は夕暮れとちょっと早い時間だったが、宴が始まった。
俺とアイシャはそれぞれ男性陣、女性陣に囲まれ、一通りモミクチャにされ、そのあとでジュースやらお酒やらを飲みながらの談笑へとシフトしていった。
「いやぁ、実は一目見た時から気にはなってたんだが、こうして話す機会が訪れるとは思ってなかったよ」
と言いだしたのは、すでに顔を赤くした、ノービスの青年だった。
「おいおい、それじゃホモみたいだぞ」
「ばっか、そう言う意味じゃねぇよ!」
ガタイのいい褐色肌の大男に茶化されて、ノービスの青年が声を荒らげる。今ので笑いが起こるのは酒が入っているからか、この世界の人間が元々下世話な話が好きなのか、
あるいは、単に冒険者に下品な趣味の持ち主が多いだけか。
まあ、ノリとはいえ笑ってしまった俺も同じ穴の狢だ。
「やっぱ半魔ってのは目立つからよ、ちょっと注目してたんだ。そしたら、一週間も経たずに昇格だもんなぁ……」
「確かに。駆け出しがC級に上がんのは半月くらい経ってからだよな。逆に言やぁ、半月は戦闘に慣れねぇとかいろんな理由で駆け出しのまんまが普通だぜ」
褐色の大男、ノームという種族らしい彼も、うんうんと感心したように頷いている。そうなのか。知らなかった。
「やはり、君も魔法が使えるのですか?」
残った一人、金髪碧眼の美形男子【エルフ】が、目を光らせながら話しかけてきた。一人だけ雰囲気が違うのは、やはり種族の差か。
しかし、何をそんなに期待した目で見てくるのだろうか。
「いんや。残念ながら、使えないよ」
――『今は、だがな』
即座にベリアルに訂正された。そうか、今後使える可能性もあるのか。
「今は、ね」
なので、俺も即座にそう付け足した。エルフの兄さんはやっぱり目をキラキラさせながら、なにやら夢想しているようだった。
「ああ、魔族の魔法というものを一度でいいから見てみたいものだ……! どんな感じなんだろうなぁ……!」
「あー、気にしねぇでくれ。こいつは魔法マニアでな、いろんな魔法を見てみたいってんで出会いの多い冒険者になったんだよ」
「ほえー……」
そんな理由で冒険者になる人もいるのか。
と感心していると、ノームのおっさんがなにやらニヤニヤしながら顔を近づけてくる。
「ところでよ……あのちっこい魔法使いとはどこまでイったんだ?」
「……はぁ?」
いきなり何を言い出すんだこのエロおやじ。
「まさか……なんもしてねぇのか!?」
「おいバードッグ、声でかいから」
ノームのおっさんはバードッグというらしい。大仰に驚いたのをノービスの青年にたしなめられていた。というかこの青年は女性陣の視線を気にしてるだけか。
「そんな驚くことか?」
「あたりめぇだろ……!」
流石に少し声のトーンを落としたバードッグが、信じられない、と首を振っていた。
「ちいせぇとは言え、あんな可愛い女と、しかも同じ宿屋に泊まってんのに何もしねぇなんて……ホントについてんのか?」
「いや、同じっつっても部屋は別だし」
「問題はそこじゃねぇ!」
問題はそこじゃないらしい。じゃあどこなんだよ。
と思っていたら。
「まあ、確かに意外だな。半魔、というか魔族は性欲が強いことでも有名だし。ノービスの血が強く出てるのかな?」
「そうですね。魔力が強い種族は高潔になりがちですが、生命力の強い種族は低俗……というと言葉が悪いですか。とにかく性的モラルが低いというのが定説ですから。まぁ、魔族は魔力も生命力も高い種族、さらに血が半分の半魔ともなれば、定説通りでなくてもおかしくはないですよ」
べらべら~と解説をしてくれるエルフの兄さん。博士ポジだな、この人。
「にしてもなぁ。戦いが終わったら、やっぱ、こう、なぁ?」
「ま、まあ、お前の言いたいことも分かるよ」
今度はなにやら、おっさんとノービスの青年で語り始めてしまった。どこそこのあの店が~などと行っているところを見ると、いわゆる風俗か何かの話か。
……俺、一応、未成年なんすけどね。
――『この世界では15歳を過ぎれば成人さ。酒だって飲めるぞ』
――ふぅん。
だからといって酒を飲むのは、何となく躊躇われる。倫理観が邪魔するのだ。
なんだか話が変な方向へと向かってしまったので輪に入れないでいると、女性陣から御呼ばれしたので、大人しく従うことにした。
「へぇ、君がアイシャのパートナーかぁ……」
開口一番にそう言ったのは、褐色肌したケットシーだった。年は、たぶんそんなに変わらないだろう。装備が軽装なのもあるんだろうが、エロい格好だった。というか、アイシャ以外の三人とも似たような格好だ。露出が多いというか。
まあ、いくら冒険者って言っても女が男に筋力で勝つのは難しいだろうし、機動性とかを重視したとかそんな感じだろう。たぶん。
と思っていたら。
――『まあそれもあるがな。女冒険者の肌色率の高さは、もっと直球だぞ』
――と、いうと?
――『ほれ、命のやり取りをすれば、生存本能の他にも刺激されるものがあるだろう』
――……それは、つまり、あれか?
――『そうだ。種を存続させようという本能が高まって、端的に言うと欲情するのだ。だから、やり易いように露出しているのだよ。男どもを誘惑する意味も兼ねてな。どうだ? 興奮してきたか?』
わざとらしく、イヤミっぽい口調でそう訊かれた。んだけど、
――……いや、不思議と。
別に、興奮しなかった。というか凄く冷静だった。おかしい。俺ってばこんなに下ネタに耐性あっただろうか?
ま、別にどうでもいいけどさぁ。
――あんまり、そう言う生々しい話はやめてもらえる?
凄く、なんか、嫌だ。
俺の結構真剣な懇願に、ベリアルは――『ふふっ』と軽く笑っただけで、特に返事を返さなかった。どう言う意味だろうか。
「それにしても、えーっと、リオンくん、だっけ? アイシャをフォローしながら戦うなんて、ずいぶんと強いんだね?」
「確かに。アイシャってば魔法の威力は弱くない、っていうかむしろ強いのに、いかんせんファンブルするからねぇ」
「そーそー。大人数のパーティーなら問題ないんだけど、都合が悪い人が出たりで人数が減った途端に依頼を受けれなくなるから、自然と敬遠されがちで」
「私たちも誘いたいんだけど……お恥ずかしい話、私たちは自分のことで手一杯だし」
「うんうん。だから、尊敬っていうか、すごいと思うよ、リオンくんは」
三人よれば姦しい、なんていうが、彼女たちはまあとにかく口がペラペラだった。話題の渦中にいる状態に不慣れなのか、アイシャは顔を赤くしてちびちびと飲み物を飲み続けている。
鶏肉の干物みたいな料理をもしゃもしゃ食みつつそれを聞いていた俺は、改めて、俺の戦闘力がなかなか高いらしいぞ、と思い始めていた。比較対象がダメ魔法使いさんだけだったもので、自分の力量を測れないでいたんだが、これはいい話を聞いた。
もう少しだけなら、調子に乗って飛ばしすぎても大丈夫そうだ。
「ほらほら、ちびちびツマミばっかり食べてないで、飲んで飲んで!」
「あ、ども」
褐色のケットシーさんが、ずずい、と飲み物を強引に渡してきた。表現がなんかアレだけど、まあ、別にジュースだし……
……と思って勢い良く飲んだ俺は、おやおやぁ? と首を傾げた。
「あの、これ?」
なんか、変な味がするんですケド?
言い終わる前に、視界が急激にクラクラし始めた。というか物凄く眠い。恐ろし眠気に襲われている。
「ありゃあ、リオンくんはお酒弱かったのか」
「さ、さけ……って」
まさか、アルコールですか?
「ま、今のはジュースみたいな味のくせにアルコール度数がすんごーく高いからね。仕方ない」
そういう彼女たちが微笑んでいるというかにやけている気がするのは気のせいだろうか。うう、頭が働かない。
「あはは、顔、真っ赤だよ? 大丈夫?」
楽しんでる。この人ら、ぜったい、たのしんでる。
ああ、やべぇ、まじであたまがはたらかない。ねむい。すごくねむい……。
抗いがたい睡魔に襲われて頭がぼやけている中、なんだか、凄く心地よいというか、気持ちいい感覚に支配されていたことだけは、記憶の端っこで覚えている……――。
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理央が感じてた気持ちよさは、ただの酩酊感です。
本当デスヨ?
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同作者名で、『愚かで歪で壊れた世界(タイトル仮)』という小説も書いています。気が向いたら、読んでやってくださいお願いします。ただ、ダークファンタジー、欝展開、グロ&下品表現多め、という要素を含みますので、苦手な方はご注意ください。
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